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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第八十二話 バトルロイヤル(1)

「げぇえ!?」


 かかってこいやぁ! はいいが、サーペンターとアーマーライノスが同時に突っ込んできたので、弘はカエルのような悲鳴をあげた。


 ズドドドドドドドッ!


 土煙をあげて迫るアーマーライノス……ヴィッシュの姿は、黒い壁が迫ってくるようで実に怖い。これを弘は、一瞬前に出ると見せかけ、すぐさま右へ跳ぶことで回避した。常人では避けきれないだろうが、今の身体能力ならば、一足跳びで距離を取れるのだ。


「ちいい! すばしっこい奴!」


 猛烈な勢いで通り過ぎていくヴィッシュが、口惜しそうに言っている。それを聞いた弘は「ほら、やっぱり口がきける」と思ったが、それを声に出して言うことはできなかった。

 なぜなら、いつのまにかサーペンター……パルファンが背後に回り込んでおり、頭上からトライデントを突き下ろしてきたからだ。


「たぁああああ!」


「ぐっ!」


 先に続けて横っ飛びに転がったものの、今度は回避しきれなかった。地面を突いたパルファンが、すぐさまトライデントをゴルフスイングのように振るい、それが弘を直撃したのである。ただし、自身とトライデントの間にバスタードソードを割り込ませたことで、弘は十数メートルほど吹き飛ばされるだけで済んでいた。


 ……ずどっ! ごろごろごろ!


 地面に叩きつけられ数回転してから、弘は膝突く形にて停止している。

 土や砂埃で汚れ、身体の節々が痛い。だが、戦えないような負傷はしていない。


「……やれやれ、頑丈な身体でよかったぜ。経験値稼ぎってな、やっぱやっておくもんだな」


言いつつ立ち上がる。口調は軽いが……弘の両眼は怒りに燃えていた。


(このモンスター野郎どもが……)


 頬や下顎の汚れを手で拭うと、弘は呟くように言う。


「……特攻服」


 バサァッ!


 膝丈ほどの黒いジャケットが出現し、弘の身体を覆った。

 召喚品の『安い特攻服』。防具着用状態でも召喚瞬着が可能であり、特攻服自体の防御力に、元から着ていた防具の防御力を上乗せできるというものだ。

 これにより弘は、革鎧を2枚重ねで着込んでいるに等しい防御力を得たのである。


(革鎧が2倍厚くなったからって、こいつら相手に役立つと思えんけど。無いよりマシだ)


 本当なら、旭日旗や龍の刺繍や、背に『喧嘩上等』の大書きなどが欲しいところだ。しかし、今はそんなことを言ってる場合ではない。こうしている間にも、他の闘技者らによる追撃が……。


(……来ねぇな?) 


 パルファンが距離を取っている。突撃を回避されたヴィッシュも、突撃を再度試みるでもなく、壁際で振り返って弘を見ていた。


(ドラゴンの……え~と、クロムは動いてないのか……ん?)


 様子をうかがう弘の耳に、観客のざわめきが届く。


「おい、あの服……どこから出したんだ?」


「いや、見てなかったけど。あれ? いつの間にか鎧の上から……」


 それら反応を聞いて「あ~……そういう反応になるよな」とゲンナリ顔になった弘であるが、気になるのは他の闘技者らの反応だ。


(警戒させちまったか? おっ?)


 ふと手元を見ると、バスタードソードがくの字に曲がっている。トライデントの一撃を受けたときに変形したのだろう。

 それを無造作に投げ捨て、弘はアイテム欄から手槍を取り出した。

 手槍は手持ち武器の中で一番リーチがあるが、いかんせん普通の武器なので性能も普通だ。今戦ってる相手らに通用するかは、難しいと言うしかない。


(アイテム欄の収納取り出しはMPを消費しねーからな。省エネで行くとするぜ)


 弘は手槍の中程を持ってクルリと回すと、穂先を上にして肩に載せた。


「じゃあ、今度は俺のターンって奴だな」


 とは言え、こちらからは手を出さない。相手の数を減らさないうちは、自分から突っ込んでいくのは危険だからだ。



◇◇◇◇



「あの服や手槍、召喚品だと思う? だとしたら、以前はなかったわよね?」


 観客席のカレンがシルビアに聞いている。

 先ほどまで、3者がかりで弘が攻撃されているのを見て憤慨していたのだが、弘が特攻服を召喚し、続けて手槍をアイテム取り出ししたことで、そちらに意識が向いたのだ。


「サワタリ殿が言うところの『アイテム欄』を使った可能性がありますが。召喚品だった場合は……彼が私達に隠していたか、新たに召喚できるようになったかのどちらかでしょうね」


 冷静に語るシルビアは「驚くべきことは他にある」と続けた。


「サワタリ殿は、武具を召喚できる能力を隠したがっていたはずです。なのに、衆人環視の中で……」


「できることを、すべて持ち出して戦うつもり……ってこと?」


 真剣な表情のカレンを見たシルビアは、闘技場で立つ弘に視線を転じる。


「そうするしかないほど、状況が厳しい……と言った方が正しいでしょうね」


 カレンは、確かにそうだと思った。

 単体でも強力すぎるモンスターばかりなのに、それが3対も居て、そのすべてから攻撃されるのだ。手札を出し惜しみしている場合ではない。


(サワタリさん……)


 戦況は、今のところ3対1のままだ。

 弘が身にまとっている奇妙な服が、彼が強くなったことで得た新たな召喚品だとしたら、その向上した『強さ』に期待するしかない。


「サワタリさーん! そんな奴ら、やっつけちゃってーっ!」


 カレンは、再び弘に対して声援を送っていた。



◇◇◇◇



 カレンの声は……弘の耳に届いている。

 闘技場内は観客等のざわめきにより雑音で満ちているのだが、そんな中でも彼女の声は聞こえた。


(よく通るし、いい声だぜ……)


 暴走族時代、よく通る声というのはリーダー格として必要なものだった。数十台集まったバイクのエンジン音で騒々しい中、仲間に正しく指示を出すためだ。

 ふと、そんなことを弘が考えていると、再びパルファンとヴィッシュが動き出す。ヴィッシュの突撃は脅威だが、弘の跳躍力なら回避が可能だ。


(まずはパルファンだな)


 蛇部分の上面にはウロコがあるものの、他2者より柔らかそうに見える。しかし、一番の狙い目は蛇頭部の上……女性体だろう。

 サラシを巻いた胸の上から、金属製の胸甲を装着しているが、そこ以外は肌が露出している。例え武器が短刀であっても、届きさえすれば切り裂けるはずだ。


(速攻で蛇女を倒して、頭数を減ら……ん?)


 向かってくる2体から、なにか……さっきと違う気配がする。

 その正体に気づく前に、ヴィッシュが急停止した。


 ドザザザザッ!


 前足を突き出しているため、盛大に土砂が巻き上がる。問題は、その土砂が弘に向かって降り注いだこと。埋まってしまうほどではないが、これにより視界が完全に潰されてしまう。


「ぶわっ!? 目つぶしかよ!」


 思わず両腕を顔前で交差してしまうが、その刹那、弘は土砂を突き破ってトライデントの穂先が飛び出してくるのを見た。

 ヴィッシュが土砂を巻き上げることで視界をさえぎり、その土砂に紛れてパルファンが攻撃してきたのである。

 双方大型のモンスターなのに大した連係攻撃だ。しかし、レベルアップにより向上している弘の動体視力は、トライデントの軌道を完全に見切っていた。


「しゃらくせぇんだよぉ!」


 左に数歩分跳んでトライデントを回避し、即座に手槍を掲げる。トライデントの柄の先に、パルファン……彼女の女性体が居るのだ。

 弘は降り注ぐ土砂の中、想定される女性体の位置目がけて手槍を投げつけた。


 ボッ!


 ミノタウロスと格闘戦ができる腕力というのは、こういう場面でも威力を発揮する。投じられた手槍は、土砂も空気も押し退け、砲弾のように飛んでいった。

 しかし……。


「……フッ」


 一瞬、驚いた様子だったパルファンの顔が、小馬鹿にしたように歪む。

 投じた手槍は、彼女の右耳側を通り過ぎたのである。つまり外れたのだ。


「何処から槍を出したか知らぬが、無駄に終わ……何だ、それは?」 


 パルファンは何やら言い出していたが、槍を投じたばかりの弘の手……そこに、別の物体があることに気づく。

 問われた弘は、ニヤリと笑って……トカレフの引き金を引いた。


 ヴァム、ヴァム! ガウン!


 立て続けに3発撃ち込む。

 元の世界に居た頃は、銃を撃つどころか持ったこともない弘。が、このとき放った3発の銃弾は、その全弾が命中した。街道へ出向いて少しばかり練習したが、それだけで射撃の腕前が上がるとは思えない。やはり、ステータス値の『素早さ』が影響しているのだろう。


(スライド引いて装弾……だっけ? ああいう手間がないのも嬉しいぜ)


 さて、トカレフTT-33という拳銃は、漫画やドラマ等で貫通力の高い拳銃弾を使用すると知られている。これは元から貫通力重視で開発された弾丸ではなく、高価な鉛使用を嫌って鉄を弾芯にしたため、結果的に貫通力が高くなったのだ。

 そういった性能が再現されているのかどうか、当たった弾丸は、肌の露出部は勿論のこと、胸甲すら貫通してパルファンの女性体に食い込んでいった。


「ぐっ! がはっ!?」


 大きく仰け反ったパルファンが吐血する。


「パルファン!」


 崩れ落ちるパルファンの女性体を見て、ヴィッシュが叫んだ。闘技場の古株同士、仲間意識があるのか……と弘がヴィッシュに目を向けたとき。女性体をダラリとぶら下げたサーペーンターの蛇体が、その鎌首を弘に向けた。


(はぁ? まだ死んでねぇ? 脳味噌は女の方にあるんじゃ……)


 慌てて転じた視線の先には、パルファンの女性体がある。蛇の頭部で垂れ下がり、腹部から、胸から、そして口から血を吹き出している彼女と、弘の視線が合わさった。


 ……ニヤリ……。


 女性体の目が笑ったような気がする。と同時に、蛇の頭部が口を大きく開き、上顎から下がる大きな牙を剥き出しにした。  


(噛みつき……じゃねぇ! やばいぞ!)


 相手の意図に気づいた弘は顔色を変えたが、距離を取る前にサーペーンターの蛇体は行動を終えている。

 弘に対し、牙の先から毒液を噴射したのだ。



◇◇◇◇



「サワタリさんっ!」


 カレンが叫んでいる。

 弘が見たこともない道具を取り出し、大音響と共にサーペンターの女性体を倒したのは驚きだ。だが、その驚きをシルビアと語り合うよりも先に、サーペンターの蛇体が動き、弘に向けて毒を噴霧したのである。

 ヴィッシュが巻き上げた土砂は既に落ちきっていたが、今度はその毒噴霧によって、弘の姿が見えなくなった。

 人間が大蛇から毒霧を浴びせかけられる。

 この光景に、他の観客達も悲鳴に似た声をあげたが……数秒たって毒霧が晴れたとき。弘が何ごともなかったかのように姿を現したので、今度は歓声をあげた。

 それらの歓声に押し包まれたカレンは、周囲を見回してからシルビアに耳打ちする。


「試合前って、サワタリさんを応援してる人……もっと少なくなかった?」


「ええ。ですが……観客のほとんどは人間、あるいは人間寄りの亜人ですからね」


 自分に近しい姿や体格の者が、大型モンスター数体と互角以上に渡り合ってるのだ。その光景は、見ていて胸が躍るに違いない。


「モンスター側のファンも居るでしょうし、モンスターの賭け札を買った者も多いのでしょうが……」


「それとは別に感動……するわよね、確かに。だって私も今……凄くドキドキしてる……」


 カレンはシルビアほどではないが、内側から衣服を押し上げている胸に手を当てた。

 鼓動が、いつになく速い気がする。


(サワタリさん、格好いいもの……)


 1人で強大なモンスター数体と渡り合う、あの姿。あれは、自分が追い求める英雄や勇者の姿でもある。格好いいと思うのは当然だし、憧れも感じているのだろう。 


(でも、それだけ? 他にも何か……)


 そう思った途端、胸が詰まるような感覚を覚え、カレンは胸を押さえた。


「カレン様? どこか具合でも?」


「い、いえ、そうじゃないの……大丈夫だから……」


 声をかけてきたシルビアに笑みを返すと、カレンは弘に視線を戻すのだった。


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