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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第七十一話 悪臭地獄

 ゾンビ達に続いて出現したそれは、明らかに人ではない巨躯を有している。

 具体的な大きさで言うと、恐らくは全高4mほど。今のところは上半身が水面から出ているだけなので、ひょっとしたらもう少し大きいのかもしれない。


(高さだけで言ったら、レクト村で見た大蜘蛛の倍以上はあるな……)


 そして、その巨躯よりも弘を脅かしていたのが、巨人が出現することによって更に強烈になった悪臭。


(は、吐きそう……。アレか? 沼底の泥とか大量に引っ付けて出てきたからか!)


「この、近づくんじゃねぇ!」


 いよいよ間近にまで来たゾンビに斬りつけると、一撃で首が吹っ飛び、残った身体が倒れこむ。


 ……ばしゃあ!


「ぐわああああ! 色々はねた! きったねぇええええ!」 


 攻撃されたわけでもないのに、ダメージが蓄積されていくのを弘は感じていた。

 ステータス画面には表示されない、生命点やヒットポイントが減っているのだろうか?


(いや、これは……このままだと精神的に死ぬ!)


 正直言って、ゾンビ達に背を向けて街道まで駆け戻り、召喚した原付に跨がって風のように逃走。途中でMPが尽きるだろうから、あとは自力で走ってディオスクに戻り……転がり込んだ先のギルドにて依頼キャンセルを訴えたいところだ。

しかし……。


(この世界に飛ばされたとき、葬儀場のバイトを放り出しちまったからなぁ。ひとたび引き受けた以上は、何が何でも最後まで……うぷっ)


 格好良く決意したいのに、鼻腔を突き刺す悪臭で吐き気を催してしまう。


『アアア~……』


「うお、この!」


 別なゾンビが掴みかかってきたので、これも切り払う。先ほどのゾンビと同様、体液他が飛び散るが、弘は歯を食いしばって刀を振るい続けた。

 そして数分後。

 十数体ほどいたゾンビ達は、ことごとく沼の周辺で倒れ果てている。

 弘は特に負傷していないものの、気分は最悪だった。


「おえ、げほ! ……今ので最後か?」


 口元の胃液を袖で拭おうとし、寸前で腕を止める。服の袖は、ゾンビの体液や沼の汚水で汚れきっていた。


「あ~あ……ひでぇもんだ。最悪だ。そりゃあ銀貨30枚も報酬が出るだろうよ」 


 弘は依頼掲示板のメモに、必要最小限どころか場所と巨人のことしか書かれていなかった理由が理解できた……ような気がした。

 あんな不潔で臭いモンスターが相手では、誰も引き受けたがらないわけだ。


(いや、引き受けた奴らは居たけど、全滅したんだっけな)


 その後、街道通行者に被害が出始めると、さすがにメンツの問題上、領主私兵の出番になったのだろうが……。


(相手したくなかったんだろうな……いや、相手したけど失敗したのか?)


 鎧着用のゾンビがいることについて、てっきり冒険者の成れの果てだと思っていたのだが、ひょっとしたら領兵が混じっているのかもしれない。


 ビュッ! ……びしゃ。


 日本刀を振るうと、地面に液体が飛び散る。

 この時点で弘はレベルアップしていたが、内容をチラ見して特に有用な攻撃具が追加されていないことを確認すると、そのまま巨人に向き直った。

 巨人はゾンビとの戦闘中、沼に下半身を埋めたままで微動だにしていない。

 何を思っているのか、立ち尽くしているだけだった。

 しかし、ゾンビを駆逐した弘が刀を向けると、そこでようやく動き出したのである。


 ずばあああ……がぼっ。


 盛大な水音とともに上陸した巨人は、浸水した長靴で踏み込むような音を立てた。

 全身、汚泥まみれ。いや、あれはもうヘドロだ。

 こんな化け物と斬り結ぶなど御免被りたいが、倒さないことには依頼達成ができない。

 弘は毒ガスのように漂う汚臭の中、細い息で呼吸を整えると、何度目かの吐き気を堪えながら前に出た。


(か~~っ、このドブ巨人が。よく見りゃフルチンじゃねーか。変態野郎め! あんなド汚い沼に裸で潜ってるとか、生き物やめちまってんぞ、コラ! ……生き物?)


 はたと思い直す。

 依頼の上では巨人と書かれていたので、『凄く大きな亜人』のイメージを抱いていたわけだが、考えてみればあんな汚水の中で潜っていられるものだろうか?


(ゲームや漫画でも、水棲巨人ってのは見かけなかったな)


 しかし、サイズは別にしても目の前のアレは人型だ。

 いったい何のモンスターなのだろうか?


(こういう時こそ対象物解析……あ、戦闘中は使えないんだった)


 試しに発動しようとしたが、画面が開いてくれない。この距離で向かい合っている以上、すでに戦闘状態ということなのだろう。


「クソ、事前情報なしでやるしか……ぐへっごほ!」


 呟いたせいで汚臭を大きく吸い込み、弘はむせた。

 正体は不明だが、巨人ともなればリーチの長さに、怪力といった特徴が考えられる。この上、悪臭だか汚臭だかに悩まされたのでは……。


(ぢぐじょお! 速攻でブチ殺してやる!)


 弘は涙目で駆けだした。

 巨人の方も戦う気はあるようで、弘に対して手を伸ばしてくる。ただ、その動きは随分と緩慢なものであり、今の弘にとって避けることは容易だった。

 悪臭と腕から飛び散る飛沫。それらを内心悲鳴をあげつつ突破した弘は、まず巨人の右腕に切りつける。


 ドガッ……ずずっ……。


(うわ、かてぇ!)


 付着したヘドロのせいか、ゾンビの首を飛ばすようなわけにはいかないようだ。

 腕に食い込んだ刀を何とか引き剥がしたが、その隙に巨人の左腕が弘に迫る。


(アレに掴まれたら死ぬ! いや、あんな汚い手で掴まれるなんて死んでも御免だ!)


 後方にステップ、素早く横移動して巨人の左側に回り込むと、今度は左足……膝のあたりに突き込んでいく。斬るのが無理なら、突くまでだ。

 日本刀は斬ってよし、突いてよしの使い勝手の良さを誇る!

 と、全力で突き込んだところ、日本刀は根本あたりまで埋め込まれてしまった。


「あっ……」


 一瞬、まずいと思った弘だが、巨人の腕が迫るのを感じて早々に刀から手を離している。そうして数歩分後退したところ、巨人の左膝に埋め込まれ、反対側にまで貫通している日本刀が見えていた。

 ああなっては、もう抜けないだろう。

 だが、心配御無用。召喚能力で召喚した武器なのだから、新たに召喚しなおせばいいのである。


「……出ろ」


 フシュン!


 新たな日本刀を構え、弘は巨人を睨め付ける。


(召喚武具は、手元を離れても暫く消えない。そして、あの刺し位置だ。こいつはひょっとして……) 


 ぐら……ず、ずずん!


 巨人がバランスを崩し、その場で膝をついた。

 やはり、膝に日本刀が刺さった状態では立ち続けることは難しかったようだ。これが人間サイズのゾンビなら、多少身体が損傷しても動き続けただろうが、あの巨体では体重を支えきれなかったらしい。

 弘は更に数歩下がって腰を落とすと、その場で深呼吸をした。


(よし。低い位置なら、それほど臭くないぜ!)


 呼吸が整ったなら攻撃再開である。

 巨人はどういうわけか、膝に刺さった日本刀を抜こうとしない。その場でジタバタ藻掻くだけ……いや、弘に向かい這いずっての移動を開始した。


(ぐはあ、やる気満々かよ。どんだけ好戦的なんだか)


 弘は顔位置を下げると、もう一度大きく息を吸い込んでから立ち上がる。

 今の巨人は良くて膝立ちができる程度だ。すなわち、胴体部への攻撃が届く状態であった。


(一応は人型なんだから、脇から心臓を狙ってみるか? それでも効かなかったら……)


 ここで弘は、以前のオーク討伐を思い出す。あのとき、オークメイジが差し向けてきたオオトッケイヤモリをどうやって倒したか?


(そうだ、あの手が使えるかも!)


 あの手……とは、相手に剣を突き刺し、スタン効果のある召喚武具で電撃を加えることを言う。オオトッケイヤモリに対して実行したとき、けっこうイイ具合に焼けたものだ。

 ただし、すでに刺さってる日本刀は左膝なので、そこにスタンしても効果が薄いかもしれない。そこで、今新たに召喚した日本刀を巨人の胴体に突き刺してやるのだ。


(沼巨人だか森巨人だか知らんが、中から電撃ブチかまされて無事で済むはずねーし!)


 そうと決まれば話は早い。弘は日本刀を右手で持って下げると、弾けるように駆けだした。

 ……日本刀の拵えが白木なので、まるでヤクザの鉄砲玉である。


(んなこと考えてる場合か!)


 チラッとよぎった考えを振り払い、弘はなおも駆けた。

 巨人の方は、ヘドロの奥で光る目を向けてきているので、弘を認識しているのに間違いはない。這いずるのを止めて手を伸ばしてきた。

 だが、あまりにも遅い。

 弘は上方から迫る腕をかいくぐり……ぽた……。


「だああああ! ヘドロの滴がぁああああ!」


 首筋に冷たいものを感じて弘は絶叫する。しかし、それでも駆けることは止めない。何とか巨人の左脇腹付近に到達すると、肺に残った酸素を総動員して腕に力を込めた。


「死ねや、こらぁあああああ!」 


 ヤクザそのものの雄叫びをあげて刀を突き出す。その切っ先は脇腹から入って肋骨の間をくぐり、何かに突き刺さった。

 その『何か』が心臓であったかどうかはわからないが、かまわず弘はメリケンサックを召喚する。

 鈍く光る鉄のメリケンサックが出現し両手に装着された。これにより日本刀を握るのが難しくなるが……悪いことに、巨人が激しく身をよじりだす。


『ウゴオオオオオ! オオオオ!』 


「ち、畜生! 色々飛ぶから、やめろ! このバケモンがあああああ!」


 怒声一発、スタン発動!


 ズバアアアン! バリバリバリバリ!


 対オオトッケイヤモリ戦の時、そうであったように、沼地周辺が木々も含めて蒼い閃光で塗り潰されていく。

 ……十秒ほど経過しただろうか?

力の限りスタン発動を続けた弘であったが、巨人が動かなくなったのを見て刀から手を離した。

 そして警戒しつつ後退。充分に距離を取ってから見てみると巨人は……すっかり乾燥していた。

 泥などが乾いたのを御覧になったことがあるだろうか? まさにアレである。

 堅くなった表面で無数のひび割れが発生しており、ホコホコと蒸気が立ち上っていた。


(ん? 蒸気?)


 そう思った途端、弘の鼻腔は猛烈な臭気を嗅ぎ取ってしまう。


「お、おぶっ!? おげええああああああ!」


 ……しばらくのあいだ、お待ちください……。


 およそ半時間後。

 駆け込んだ藪から戻ってきた弘は、汚物を見る目つきで硬直したままの巨人を見た。

 ちなみに臭気の薄まるところまで移動して、アイテム欄から着替えを取り出し、着替えた後のことである。ついでに言うなら、身体を綺麗サッパリ洗ってもいた。

 水はどうしたのかと言うと、樽入りにしてアイテム収納していたので、身体を洗うには充分な水量がある。大量にモノを持ち運べるというのは、こういう時に便利だ。


(でも、このニオイ。暫く取れないかもな……)


 こっちの世界では、浴槽式の風呂をまだ目撃していない。そういう文化があるのかすら聞いたことがなかったので、ディオスクに戻っても風呂に入れるかがわからないのだ。

 穴を掘って樽の水を流し込み、焼け石でも放り込んで風呂に……などと考えながら様子を見ていると、硬直していた巨人が前のめりに倒れた。


 ど、ずずぅうううん!


 地響きが発生して、周辺の木々から鳥達が飛び立っていく。


「やっぱり、さっきの電撃で死んでたか? やっと、倒せたのか……」


 弘は藪を出ると、数歩歩いてからへたり込んだ。 

 思えば動きの鈍い相手であったし、オオトッケイヤモリよりは戦いやすかったと言える。ただし、発する臭気が異常すぎて別の意味で死ぬような思いを味わった。


「アレだな。大金は楽して稼げねぇってことだな」


 あるいは美味い儲け話には裏がある……ということなのだろう。

 さて、目的の巨人討伐は完了したわけだが、あの巨人……いったい何だったのだろう?

 倒したことで戦闘状態が終わったはずで、今なら対象物解析が行えるかもしれない。

 弘は、特に近寄るでもなく、その場から対象物解析をしてみた。結果は次のとおりである。


<???????>

・アンデッド。

・解析が阻害されています。



「はあ? 解析阻害って……確か、レクト村の蜘蛛と同じだよな?」


 わかったことは倒した巨人が、不死系のモンスターであること。

 端から死体なのだから、そりゃあドブ沼に沈んでても平気なはずだ。

 そして弘が首を傾げたのが、前にも見た『解析阻害』である。

 対象物解析を邪魔されているのだろうか?。


「邪魔、ねぇ? パソコンなんかで言うプロテクトみたいなもんか?」


 もしそうだとしたら、何者かが魔法か何かで対象物解析できなくしていることになるが……。


「いや、取りあえずこのクセェ場所から離れるか……」 


 巨人が倒れても沼が無くなるわけではない。えげつない悪臭は変わらず存在するのだ。弘は軽く頭を振りながら元来た藪の中へ入っていった。

 なお、今回のレベルアップによるステータス値の変動は以下のとおり。 


名前:沢渡 弘

レベル:20→21

職業 :チャラい不良冒険者

力:73→75

知力:27→28

賢明度:56→58

素早さ:69→72

耐久力:75→78

魅力:48→49

MP:95→100


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