第六十七話 亜人蔑視
案内されてわかったのだが、この建物、通りで見て感じたよりは奥行きがあるらしい。
暫く歩いて階段で2階に上がり、両側に扉が並ぶ通路をさらに暫く歩くと……妙に凝ったデザインの扉が姿を現した。
(なんか変な扉だな?)
見た目は豪華なのだが……やたらと頑丈な作りのようだ。装飾で誤魔化されがちだが、蝶番が大きく、ちょっとやそっとのことでは壊れそうにない。
(いや待てよ? 蝶番はほとんど見えないな。内開きになってるのか?)
こうなると、扉が閉じたときには継ぎ目に隙間ができにくくなる。
まるで金庫ような厳重さだ。
「こちらになります」
「あ、ああ……」
扉を開けてくれるので入っていくと、室内は王侯貴族の寝室を模したようなデザインとなっており、弘を大いに驚かせた。
そして、そのベッドに女性が1人座っている。身につけているのはネグリジェだろうか? うっすらと地肌が見える寝間着が、なんとも淫靡だ。
「彼女が当店自慢のエルフ、グレースです。……ここで、お客様にお願いがあります」
第二の案内係が注意事項を述べていく。
グレースを手荒に扱わないこと。室内を破損しないこと。
以上、2点である。
ずいぶんと簡単であるが、それぐらいなら特に問題ない。弘には、女を抱く際に暴行する趣味はないからだ。ましてや、この部屋には金を払ってエルフ女を抱きに来たのであり、壁やらベッドやらを壊している暇などあるはずがない。
弘が頷くと、案内係はベッド脇のサイドテーブルからトレイを持ってきた。そのトレイには大振りな砂時計が二個載っている。
「2つを同時に逆むけた後、片方は部屋に残し、もう片方は当方で預かります。砂が落ちきるまで、御自由にお過ごしください。また飲み物や食事などが御入り用の際は、呼び鈴でお呼びください」
ちなみに、時間内の飲食については無料だそうだ。
(この砂の量だと時間は……そういやさっきの話だと、小一時間ぐらいってことだっけな)
弘が頷くと砂時計をひっくり返すように言われたので、二つ同時にひっくり返す。そして言われるがまま片方と手に取ると、案内係は一礼して退室していった。
さて……お楽しみタイムである。
ウキウキしながらベッドに向きなおったところ、女エルフ……グレースはいつの間にか立ち上がり、弘の近くにまで来ていた。
「久しぶりの客だな。ほんの一時だが、よろしく頼む」
「あ、ああ……よろしく」
近くで見ると美貌が際立つ。人間で言えば20代後半くらい、なのに大人の雰囲気が強く感じられるのは、やはりファンタジー小説等で知られる長命から来ているのだろうか?
(エルフって言えば細身のイメージがあったけど、えらくスタイルがいいな……と言うより、引き締まった感じがするぞ? あと、乳でけぇ……)
他に気になる点と言えば、言葉遣いが堅いということだろうか?
エルフ氏族の族長家系と言うので族長の奥方風、ないしはお姫様風なのを想像していたが、これでは何と言うか武人っぽい。
戸惑いながら革鎧の留め具に手をかけると、グレースが手を伸ばしてきた。
「手伝おう。身なりから察するに、冒険者のようだが?」
「まだ新人ってところだがな」
相手方から話しかけてくれるので、徐々に気が落ち着いていく。革鎧を外し、衣類を脱ぎながら弘は聞いてみた。
「あんたは、ここで長いのか?」
「3年だな。店の方が高く売りたいらしく、それほど客は来ないが。さあ、続きはベッドで……」
「お、おう」
やはり武人のような物言いに戸惑う弘であったが、グレースが手を引いてくれるので、そのままベッドへと誘われるのだった。
◇◇◇◇
そして事後。
サイドテーブルの砂時計を見ると、残り時間は十数分と言ったところか。
ベッド上で仰向けになっている弘は、傍らで添い寝しているグレースの体臭を堪能しながら荒い息をついている。
(時間一杯やるつもりだったが……もう限界だぜ)
正直言って何回したか覚えていない。レベルアップを繰り返したことで、当初の3倍以上となった耐久力に物を言わせ頑張ったつもりだが、もう何処を搾っても何も出てこない状態なのだ。
グレースはと言うと、最初の3回目ぐらいまでは余裕を見せていたものの、最後の方では乱れに乱れていたと思う。
(武人キャラで始まったのに、ああなるんだもんな。いや~……えがった)
銀貨は15枚は大金だが、我が人生に一片の悔いなし! である。
(さて、残り少ない時間をどう過ごそう? せっかくのエルフ、それも上玉とベッドを共にしたのだから、いろいろ聞いてみて~よな?)
そう思った弘は、寝返りを打つとグレースに向き直った。と、いつの間にかグレースが自分の方を向いていたので、弘は少し目を丸くする。
「なんだ? 俺の背中を見ていたのか?」
「うむ。主は珍しい男なのでな」
「珍しい?」
そう言われると心臓の鼓動が若干早まる。
この部屋に入ってから今までの間で、自分が異世界人だと知られるようなことを言っただろうか?
「珍しいって……なにが?」
「この3年で200人ほどに抱かれたが、主のように優しく抱いてくれた男は居なかった」
「努めて優しくしたつもりはないんだがな? いや、店員さんから乱暴にするな……って言われたのは意識してたけどさ」
先ほどまでの行為を振り返ると、それなりに思うがままグレースの肉体をむさぼっていたように思う。
不思議さが表情に出たのか、グレースはクスクス笑った。
「この部屋に入ってくる男達は、我を見ると乱暴に扱う。最初は優しくする者も居たが、最後には……いや、多少の怪我は僧侶を呼んで治して貰えるのだが。先ほどの男が、ああいうことを言うようになったのは、そうだな……30人目ぐらいの時か。それでも男達は乱暴だったな……」
「そっか。しかし、わかんねーな」
「何がわからぬと?」
今度はグレースが不思議そうな顔をしている。
「あんたみたいな綺麗な人、いやエルフか。綺麗なエルフに怪我させるって奴の気が知れねーってことさ」
「ぷっ。あっはっはっは!」
突然、グレースが吹き出し大きく笑った。そして目尻の涙を指でぬぐうと、弘に顔を寄せる。彫刻のように整った美人顔を寄せられて弘はドギマギしたが、それを見透かすかのようにグレースは微笑んでいる。
「またもや珍しいことだ。主は知らぬようだから敢えて説明するが……普通の人間はエルフを蔑むものなのだ」
蔑む理由は亜人であるから。
つまり人間ではないから蔑みの対象とするのだ。これがオークやゴブリンならば、害獣扱いで済まされるが、男女ともに美形揃いのエルフとなると、そこに『憧れ』『羨望』が加わる。
「要するに、蔑む対象でありながら積極的に支配したい、我がモノとしたい、愛でたい。人間より格下の生き物だから好き放題してかまわない……と、そうなるのだ」
「うへ……説明してくれたのに悪いけど、まったく理解できねーわ」
まずい食い物をはき出す気分で言うと、グレースは楽しげに笑う。そして身を起こすと、ベッドに腰掛けた。
「……残り時間も少ない。我を使わぬのであれば……良ければ話でも聞いてくれぬか?」
何か身の上話でも聞かせてくれるのだろうか?
元の世界の風俗店でも、たまに風俗嬢が身の上話を聞かせてくれたことがあったが……。
それがエルフ相手だと、どうなるのだろうか?
興味が湧いた弘は、自分も身を起こすとグレースの隣に腰掛けるのだった。




