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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第4章 他パーティーにて研修中!
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第五十七話 板挟み

 今回の事件について、今後は王都ギルド本部等、上の方で捜査をするとのこと。

 と、ここで弘があることに思い当たり挙手した。


「捜査方針は、ともかくっすよ? つまり今回の一件、俺達に責任はない……てことでいいすか? あと俺達に出るはずだった報酬とかも、どうなるか知りたいし~」


 ギルドでもジュディスに注意されたが、ここでも冒険者達から「相手見て物言えよ!」的な視線が飛んでくる。だが弘は気にしない。どうせ自分は新参者だし、それにこれぐらいは聞いていいと思ったのだ。


「うむ、確かに。お前さんら現場の冒険者にしてみれば、そこが肝心じゃったな」 


 さほど気にした風でもないジュードは、長い白髪髭を手でしごくとアランを見た。


「これこのとおり、村人の暴徒化は脳に巣くった蜘蛛が原因と見て間違いない。よって今ここにいる冒険者らに責任はないし、冒険者ギルドにも責任はない。責任があるとすれば、この魔法生物……そしてその製造者じゃな。リッチマン支部長?」


「え? ええ、まあ……そうなりますよね」


 場を仕切るジュードがテンポよく話しているのに対し、アランはどことなく歯切れが悪い物言いだ。

 冒険者ギルド本部のお偉いさんがギルドに責任がないと言ってるんだからいいじゃないか? 

 そう思う弘は、ツツツ……っとメルに歩み寄って聞いてみた。


「ねぇ? アランのオッサン、なんか態度がおかしくねーっすか?」


「ああ、あれは……冒険者をやってると、そのうちわかるんだが。冒険者ギルドの支部長クラスは、実は軍属なんだ」


 つまり冒険者でありながら、軍にも籍を置いているという意味だ。

 これは、冒険者ギルドが暴走することを恐れた王国が、軍人を派遣して一定の制約を課そうとしたのが始まりである。もちろん、ギルド側も「はい、仰せのままに」と受け入れたわけではなく、「冒険者のことを知らん素人に仕切られたくねーよ!」と反発した。

 様々な議論と協議の結果、冒険者ギルドの支部長を軍に派遣して、一定の訓練と教育を施し、改めて冒険者ギルドの支部長として赴任させる方法が採用された。そうすることで、こまごまとしたギルドと軍(=国側)の折衝や取り次ぎは、ギルド支部長が行うこととされているのだ。


「要するに、体裁上は王国軍人を派遣したようにするから、その辺をわきまえろ。そして責任ある組織運営をしろ……ということだ」


 これによりギルドの意見や見解は国に対して通りやすくなったが、反対に国側の要望はストレートに下りてくる。支部長としては間に挟まれて多忙を極めるし、なにか失態をしたらギルド内部で有耶無耶に済ませていたことも、きっちり罰を受けることになるのだった。


「う~わ、ブラック管理職だ。いや、秘書とか補佐はいるだろうけどよ。……アラン支部長、よく過労死しね~のな」


「まったくだ。一応、別案として支部長格には冒険者と軍人を1名ずつあてがい、なにごとも協議して決める……というのもあったが、それだと揉めて決まるものも決まらない可能性があってな。結局、今の形に落ち着いたわけだ」


 ちなみに、この体勢になって今年で6年目だとメルは言う。

 そして、この話が今の状況……アランの態度がおかしい件とどう関係するのか?

 ここでウルスラが寄ってきて補足説明をしてくれる。


「こんな大事件、ギルドの人間だけで検証したら『ギルドの連中、都合の悪いことを揉み消してるんじゃないか?』ってなるでしょ? そこで軍属扱いの支部長も現場検証に立ち会わせれば、国側の人間も立ち会いました~~ってことになるじゃない?」


 つまりは、アランは便利使いされているのだ。

 冒険者ギルドの支部長としては、ジュードのまとめ方で良いのかもしれない。しかし、これを軍属として国に報告した場合、報告を受けた側からは良い顔されない……可能性がある。

 一通りの説明を受けて頷いた弘は、改めてアランを見た。

 先ほどの戦闘ではあんなに凛々しかった彼が、今では胃に穴が空いた病人のような顔をしている。


(どっちの立場に立っても、片方から睨まれる……か。そりゃあ、あんな顔したくもなるよな) 


 もっと良い方法があるのではないかと思う弘であったが、学も組織運営経験もない彼に妙案が思い浮かぶはずもなかった。

 そういう事情は理解できたが、あとは報酬の話が残っている。

 一応、目につく大蜘蛛や問題の八本足のヒグマ(中身は蜘蛛だったが)を倒したことで、依頼は完遂できている。しかしながら完了検査をしてくれる村人は、村長を含めてもう存在しないのだ。報酬……貰えるのだろうか?

 これに関し、ジュードは胸を叩いて保証してくれた。


「うむ……今回の一件、放置しておけば被害が拡大したこと疑いない。君らの功績は大なのじゃからして、別途、ギルドより報奨金が支払われるじゃろう」


 ちなみに、村々から出た依頼金についてはギルド王都本部が徴収し、各支部に分配するか、本部預かりにするか戻って検討するとのこと。

 何となくモヤッとした気分になるが、ともあれ報酬が貰えるなら万々歳だ。


「何より誰も死ななかったしな! こいつは凄いぜ!」


 この弘の発言に皆が笑ったり苦笑したりするが、弘にしてみれば山賊仲間が全滅させられた過去があるので、一騒動終えて仲間が全員無事というのは大いに喜ぶべき事であった。


「確かに。皆が無事で結構なことじゃ。では、まずはクロニウスに戻るとしようかの」 


 ジュードは、何度も頷くと杖を握って掲げた。


「今回苦労してくれたサービス……と言っては何じゃが、クロニウス支部まで儂の転移魔法で送ってやるとしよう。ここまで送ったついでじゃしな」


「この人数をクロニウス支部まで転移!? 凄いです!」


「ああ、それでヒロシ達の戻りが異様に早かっ……」


 興奮気味に言ったのはターニャであったが、若干遅れて言い出したムーンは最後まで発声することができなかった。

 転移魔法の呪文を高速詠唱したジュードにより、皆と共に姿を消したからである。



◇◇◇◇


 夕刻。

 弘達がクロニウス支部へ転移帰還したところ、相も変わらず支部は大騒ぎになっていた。

 しかし、支部長のアランが皆に説明をしたことで、おおむね沈静化している。

 この辺は支部長たるアランの人徳や指導力もあるだろう。さらにはアラン本人が現地調査してきたというのも大きい。

 彼と共に戻ってきた弘達はどうなったか?

 ジュードの裁量により責任なしとなったものの、さすがに事情聴取もせずに解放はできないと言われ、ここでムーンが支部へ残ることになった。

 と言っても彼の支部残留は、自己申告によるものである。


「今回、俺が皆を引っ張って動いてたからな。多少は責任を関してるし……なぁに長くて2日ってとこさ」


 そう言ってムーンは笑い、ジュードやアランと共に支部の事務室へと入って行った。


「俺達は休暇がてら、クロニウスでムーンを待つとするぜ?」


 ムーンを見送ったラスが言うと、他のムーンパーティーメンバーは皆が頷いて同意する。弘を含むジュディスパーティーは、依頼も完了したことなので、ラス達とはここで別れ……。


「ねえ? このあと報酬を貰ったら、1階の酒場で夕食がてら宴会しない?」


 事務室前で、じゃあ解散するか……と皆が散りかけたところで、ジュディスが提案した。


「こんな大事件で皆無事に帰ってきたんだもの、お祝いぐらいして良いんじゃない?」


「そいつは嬉しい話だが、俺達は今ムーンが居ないからな。彼に悪いし、ここはジュディス達だけで楽しんでくれればいいさ」


 サイードが口髭を揺らしながら言うのだが、その彼の言葉を遮るようにラスが前へ出る。


「いや! 苦労した後でパーッとやるのは大切だ! きっとムーンも理解してくれる。だから一緒にメシ食おうぜ~? な~?」


 相変わらずチャラい。

 レクト村で奮戦していたラスの姿は、皆が見ている。なので女性陣も少しは見直していたのだが……今ので台無しである。

 今のラスの発言はなかったことにして、やはりサイードの言うとおり、ムーンパーティー抜きで楽しくやるべきなのだろうか?

 皆が思案し始めたところで、魔法使いのメルが発言する。


「私は両パーティーの親睦を深めることに賛成だ。ラスの肩を持つわけではないが、私もムーンは賛成してくれると思う」


 ドンチャン騒ぎに進んで加わりそうにないイメージがメルにはあるのだが、弘がラスやサイードに視線を向けると、2人とも意外そうな顔をしていた。

 やはり彼にしては珍しい発言なのだ。いったいどういう風の吹き回しなのか?


「なぁに、酒の勢いを借りてヒロシと幾つか話したいことがあってね。まあ他意はないんだが……」


(いや、他意ありまくりだろ!? 俺目当てかよ!?) 


 初老の魔法使いに目をつけられるような何かがあっただろうか?

 ……ある。

 蜘蛛に乗っ取られた村人達との戦闘中、武器召喚するところをメルに見られた。それさえなければ、変わった武器を使っている奴……で済んだかもしれないのだ。


(ジュディス達に説明する羽目になったのと、ほぼ同じパターンか……)


 この先、ずうっとこんな感じになるのかと思うとウンザリしてくる。

 メル達は一緒に冒険した間柄だし、話して構わないと思うのだが……。


(あれこれ悩むのが面倒になってきたぜ……。教えるとか教えないとか、もう気分次第ってことでいいか……)

 

 そう考えを纏めた弘は、宴会をやる方向で話を纏めつつある面々を見ながら肩をすくめるのだった。


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