第四十六話 とある冒険者達の……
抜け駆け組……ハンクパーティーは八本足のヒグマを発見し、そのまま攻撃することを決定した。
「ジュディスやムーンとしては、そのハンクって人の作戦。どう思う?」
この弘の質問に、2人は顔を見合わせている。
「悪くはないわね。魔法使い2人が、どの程度の使い手だったかは知らないけど。動きを封じるとか眠らせるとか、そういう呪文を重ねがけしてから戦士3人で……ん~、ヒグマとの戦力差に問題がなければ、結構いけると思うわ」
「そうだな。戦力差に問題がなければ、俺もハンクって奴と同じ戦法をとったと思う。強力な魔法攻撃ができるなら、戦士3人を囮にしてキツい攻撃魔法をぶつけるのもいいかもしれない。それでまだ生きてるようなら、あらためて袋叩きだ。だが……」
ムーンは座ったままのナクラを見た。
「彼が、こうしてここに居る以上。上手くいかなかったと見るべきだな」
暫く様子を見ていたハンク達は、八本足のヒグマが手前に尻を向けた……つまり、自分達とは反対方向に頭を向けた時点で攻撃を開始した。
第一手は魔法攻撃。これはジュディスが想定した行動制限系の魔法であり、事前の打ち合わせでは眠りの魔法であった。
ジュディス案と違ったのは、最初に魔法を飛ばすのは1人だけで、もう1人は時間差を付けて攻撃呪文を唱え、最初の1人は攻撃後にまた行動制限系の呪文を詠唱する。
つまり2人がかりで、交互に魔法行使するというものだ。
そうした魔法援護の下で戦士3人が突撃し、ナクラは魔法使い達の側で短弓を射るといった戦闘模様となる。ナクラの話によると、ほぼ一方的にハンク達は攻撃し続けたらしい。
そして何度目かの攻撃魔法が命中したとき。ヒグマは冒険者達に再び尻を向けて逃走し始めたのだった。
「よぉし! イイ感じだ! 追ってトドメをさすぞ!」
ハンクが剣を突き上げ号令をかけた時、これに誰も反対しなかったとナクラは言う。
本来、3パーティーを当てて対処するはずのモンスターを、新人揃いの自分達だけで圧倒する。この状況に、皆が有頂天となっていたのだ。
膝を抱えたナクラは、震える声で先を続ける。
「偵察士の俺を先頭に、みんなで森の中を突き進んだ。そして、逃げるヒグマを追って開けた場所に出たとき。俺達が見たのは……」
ヒグマとほぼ同じサイズの蜘蛛が、数体ひしめいている光景だった。
そして、どうなったか?
ナクラが言うには、最初にヒグマを相手にしたときと真逆の戦い……いや、蜘蛛による捕食が繰り広げられたらしい。
ナクラ自身は偵察士としての身軽さを活かし、素早く後退できた。だが、ハンクを含む戦士3人は逃走が間に合わず、真っ先に蜘蛛の餌食となっている。魔法使い2人は、奇跡的に蜘蛛の攻撃前に魔法発動できたものの、眠らなかった数体に襲われたのだった。
それら仲間達の悲鳴を後にナクラは駆け続け、そのうち夜になったので樹上にて身を潜めていた。そして夜明けと共に、レクト村へ戻ろうとしたのである。
「それで? 仲間を置いて逃げてきたってか? 助けて、ママぁ~♪」
茶化すようにラスが言うと、ナクラはラスを睨み付けた。
「俺にどうしろって言うんだ! 馬車よりデカい蜘蛛が何匹もいたんだぞ! なあ、そっちの戦士の人たちはリーダー格っぽいよな!?」
ムーンとジュディスに目を向け、ナクラは懇願する。
「この依頼、おかしいぞ! 村は八本足のヒグマに襲われたって話だが、どう見ても問題があるのは大蜘蛛の方だろ!? あのヒグマだって、中身は蜘蛛に違いねぇ! でも、なあ! ハンク達が捕まってるんだ! なんとか助けてやってくれ! 頼む!」
鬼気迫る勢いに、ムーンとジュディスは顔を見合わせた。
ナクラの話を信じるなら、この依頼は確かにおかしいと言える。
冒険者を集団で捕食するような大蜘蛛が、なぜ村を襲撃しないのか?
大蜘蛛と八本足のヒグマの関係は? ナクラの言うとおり、ヒグマの中身は蜘蛛なのか?
そして、ナクラが言った規模で大蜘蛛が群れてるのなら、2パーティーだけで討伐するのは難しいだろう。となると、ハンク達を助けに行くのも難しいということになるのだが……。
「どうするの? ムーン?」
「そうだな。時間は昼まであと少しというところで、まだ明るい。ここは日が沈む前に、村を離れてクロニウスまで戻ろう。ギルドに掛け合って応援を呼ぶんだ。途中で夜になっても……不眠不休で移動し続ければ、早く到着できるだろう」
その後は、冒険者をかき集めてレクト村に戻って来るも良し、手に余ると判断したギルドが領主に掛け合うも良し……だ。
両パーティーから反対意見も出ないので、そのまま村を離れることが決定し……かけたところで、ナクラが喚き立てる。
「待て待て、待ってくれ! せめてハンク達が無事かどうか確認しなくちゃ! お、俺が森に入って探してくる! これでも偵察士だからな! だから、俺が戻ってくるまで村で待っててくれ! この通りだ!」
ナクラはムーンの前で膝を突くと、神にでも祈るかのように手を組んで差し上げた。
ムーンはと言うと、明らかに困った様子でジュディスに助言を求めたが、ジュディスは肩をすくめるのみで何も言わない。
判断はベテランのムーンに任せるということだ。
暫し考え込んだムーンであったが、やがて皆を見回しながら宣言した。
「よし! じゃあ俺達は、村に戻ってナクラが戻るのを待とう。待つのは……今日の昼までだ。それまでに戻ってこない場合は、悪いが俺達だけでクロニウスに移動する。ハンク達を助けられる見込みがあるなら、それは状況次第だ。俺が判断して助けに行くかどうかを決める。それでいいな?」
この決定に対する皆の反応は様々だった。
ムーンパーティーでは僧侶のサイードと魔法使いのメルは賛成したが、戦士のラスと偵察士のノーマは反対している。
ジュディスパーティーで側は、ウルスラとターニャが賛成したが、ジュディスは反対だった。
「ヒロシは、どう思うの?」
ジュディスが聞くので、弘は暫し考え込む。
(仲間を助けたいって気持ちはわかるんだよなぁ。でも、よそのチーム……じゃなかったパーティーのために、自分のパーティーが危険な目にあうってのはな~。しかも、見ず知らずの奴のためだろ?)
考えた末、弘はジュディスに答えた。
「俺は反対だな」
危険を冒して助けに行く義理がないし、人情だけで動いて仲間を危険な目に合わせるわけにはいかないだろう。物語の英雄ほどの実力があれば話は別だろうが、弘達は英雄ではないのだ。
しかし、ムーンの意見も一理ある。
仲間が死ぬかもしれないとなれば、自分だってナクラのように誰かにすがるだろう。
ナクラに少しばかりの助力をしてやるのは、冒険者としては筋が通ってるように思えるのだった。
そういった諸々の考えを踏まえた上で、弘は「反対」を選んだのである。
ジュディスは何度か頷くと、ムーンに近寄り何か話し出した。声が小さいのでよく聞こえないが、ジュディスはムーンに再考を促しているようだ。
(レクト村へ引き返す相談をしているのか。お? ナクラが森へ入って行くな……。このタイミングじゃあ、ナクラ達を見捨てるわけにいかない……よなぁ?)
視線をムーン達に戻すと、言い負かされたらしいジュディスが肩を落として戻ってくる。
「ごめん。最初の判断を彼に任せといて、気に入らないから抗議ってのは……どうも押しが弱いというか……」
申し訳なさそうな彼女に「気にするな」の気持ちを込めて手を振ると、弘は前方に広がる山林地帯に視線を転じた。
あの奥地で、ヒグマほどの大きさがある蜘蛛が何体もいる。
1体だけでも、以前戦ったオオトッケイヤモリより強そうだ。
1人で戦うなど無理も極まる馬鹿者行為だが、今居るメンツで戦うのも危険だろう。
何人居ようとも大型モンスターとの戦いは、危険であるに違いないからだ。
そんなことになりませんように……と祈りつつ、弘はムーンの号令に従いレクト村へ戻るのだった。




