第二十八話 お墓参り
クロニウスを出てから3日後の午前中。
弘は山中深くにある洞窟……ゴメス山賊団のねぐら跡地を訪れた。
「くそ! 誰も行き来しないから藪が……と、お? おお……ぐっ……」
ようやく藪を抜け出した弘は、洞窟入口を見て思わず涙ぐむ。
『よう、ヒロシ! 上手く獲物は狩れたか?』
「え? あ、いや……」
それは幻聴だったのだろう。槍を持った見張り番、その誰かの声が聞こえたような気がすると、弘の両眼から涙があふれ出た。
『君は……思いのほか物覚えがいいな。あとは実践あるのみ。読み書きとは、そういうものだよ』
『なんだ? けっこう剣の扱いがイイ感じじゃないか。何処かで習ったのか?』
その場で膝をつく弘の耳に、かつての仲間達の声が聞こえてくる。
『俺、本当は……また牧童をしたいんだよな。あの仕事は性にあってるから』
『見てろよヒロシ? 俺はな、山賊で終わるような小さい男じゃないんだ。絶対に……』
「モリソン、ラッド……」
俯いたまま名を呼ぶが、もちろん返事はない。
なぜなら今聞こえているのは幻聴だからだ。みんな、みんな既に死んでこの世にはいない。
ゴメス山賊団は、もう弘一人だけなのだ。
『山賊団は店終いしたっつったろーが? さっさと仕事に行け! お前はもう冒険者なんだからな!』
「ゴメスさんっ!?」
最も聞きたかった人物の声を耳にし、弘は立ち上がった。そして周囲を見回すが、やはり誰も居ない。
すべては幻聴なのだ。
「いや、俺はみんな声を聞いた! 幻聴なもんかよ! それに……」
(山賊団は無くなっちまったが、俺は退団したつもりねーからな!)
討伐戦の直前には足抜けするつもりで居たのだが、結局は抜けなかったのだから……自分は今でも山賊団の一員なのだ。
まるっきりの屁理屈に過ぎないが、そう弘は思うことにした。
「ゴメスさんは冒険者の仕事をしろって言った。そうか、そうだよな……早くサバ村ってところに行かなくちゃ……」
その前に、弘にはやることがある。
山賊団の皆が埋められた場所を探すのだ。それに洞窟の中も見ておきたい。
弘は服の袖で涙を拭うと、一応ながら洞窟内を点検してみた。
やはり、内部の物品はすべて持ち去られており、あってもせいぜい木箱くらいのもの。
「み~んな、持って行きやがった……」
気を悪くした弘であったが、自分が寝床にしていた場所を見ると少しだけ足を止める。
……腰を下ろし、貰った槍を物珍しげに見ている自分自身の姿。かつての自分を見たような気がして、弘は口元に笑みを浮かべた。
「さて……行くか……」
洞窟を出た弘は、記憶をたどりながら森の中を歩きだす。討伐戦自体は洞窟の入口前で行われたのだから、この近くに……。
「あった……ここか……」
右手側に歩いて藪を抜け、少し開けた場所で弘は足を止める。
さすがに乾いて固くなっているが、周囲に掘り返した跡もないためすぐに発見できた。
直径数メートルほどの埋め戻し跡。それが、ゴメス山賊団の埋葬地なのだ。
「ゴメスさん、みんな……俺、戻ってきたぜ?」
ステータス画面を開きアイテム欄から酒瓶を取り出すと、弘は栓を抜いて中身を地面に振りまいた。
「へっへへ……こういうのって、こっちの世界でもやることなのか? でもよ、酒の差し入れなんだし、悪いことじゃねーよな? なあ?」
まるで山賊団の皆がそこに居るかのように弘は語りかける。
最後に残った分を自分で飲み干した弘は、服の袖で今度は口元を拭った。
「ぷはっ……マズくはないけど、とびきり美味いってもんでもないな。そんなわけで、次に来る時は、もっとイイ酒を持ってくるわ。山賊して作った金じゃなくて、ちゃんと働いた金で用意するからよ?」
言いながら酒瓶をアイテム欄に収納すると、弘は山賊団の墓地に背を向けた。
「じゃあな。また来るから……」
その言葉を最後に、弘は振り返ることなくサバ村へと歩き出すのだった。
そして、更に2日後。弘はサバ村に到着している。
到着時間は日が昇って少したった頃で、前日の樹上泊により時間を合わせた結果だ。
そして道中、何度かモンスターの襲撃を受けた弘は、更なるレベルアップを遂げていた。
これまでの戦闘で損傷していた盾が一連の戦闘でボロボロになり、放棄することとなったものの、弘自身は無傷なので大したものである。
名前:沢渡 弘
レベル:10→12
職業 :不良冒険者
力:40→46
知力:16→16
賢明度:31→35
素早さ:36→42
耐久力:43→50
魅力:21→22
MP:46→53
・鉄トゲのメリケンサック 攻撃力+6 消費MP6
・鉄トゲの警棒 攻撃力+7 消費MP7
・樫の木の木刀 攻撃力+6 消費MP5
・自転車部品一式 攻撃力? 消費MP15
銀貨8枚、銅貨40枚
そして、相変わらず知力の伸びが悪い。
召喚武具は『鉄の警棒』が『鉄トゲの警棒』にパワーアップし、『ヒノキの木刀』も『樫の木の木刀』になっていた。警棒の強化も嬉しいが、いよいよ木刀が喧嘩で使えるレベルになってきたので、弘は御満悦である。
自転車シリーズに関しては、ついに一式揃ったことで一括表示になっている。もっとも、シリーズ品は画面タッチをすれば、系統図として閲覧できたから大した違いはないのだけれど。
「ステータス画面を触りまくっても変化がないし……バグってるのか? まあいいや、どうせママチャリだものな」
自転車のことは一先ず置いて、弘はサバ村へと入っていった。
サバ村は、緩やかな山の斜面に各家屋や、畑、家畜小屋などが点在するタイプの山村である。
(田舎の山奥とか、こういう集落ってあるよなぁ)
キョロキョロ見回しながら歩いていると、クワを持った農夫と遭遇した。
さっそくギルドの派遣証を見せて、村長の居場所を聞いてみる。
農夫は「よう来なすった。お一人で?」と聞くので、弘が「そうだ」と答えたところ、あからさまにガッカリした表情を浮かべられてしまった。
頭に来た弘であるが、ここは初仕事なのだからとグッと堪えることにする。
少し歩いて案内された村長宅は、他の家屋と大差ない規模のものだった。
農夫が「お~い、村長。居るかね~。町から冒険者さんが来てくれたぞ~」と声をかける。
暫くすると、中からではなく入口右側の角の方から1人の老人が姿を現した。
「おうおう。待っておったが……あんた、お一人かね?」
また頭数について聞いてくる。
そんなに1人で来たのが不満なのだろうか?
(……うん、まあ不満だろうけどなぁ)
気持ちは、まあ理解できる。
凶暴なオークの集団に頭を悩まされて冒険者ギルドに依頼を出したところ、やって来たのが人相の悪い若造が1人だけ。
そりゃあ人数の確認もしたくなるだろう。
とはいえ、仕事は仕事。
相手がガッカリしていようが、弘のすべきことはオークを倒すことなのだ。
弘は努めて愛想良く(それが成功したかどうかは別にして)村長に聞いてみた。
「さっそく始めたいんだけどよ? オークの数とか、うろついてる場所の心当たりとか、教えてもらえっかな?」
村長が「立ち話もなんですから」と言うので、村長宅で話を聞いたところ……確認されているオークは10体ほど。サバ村西で流れる沢、その上流にある洞窟を住処とし、革鎧や剣等で武装しているらしい。
「10体……ほど?」
弘は出された白湯を飲んでいたが、そのコップをテーブル上に置いた。
数が曖昧なのは色んな意味で困るからだ。
倒しきったと思っても残りが居るかも知れないし、第一、何処まで倒したら依頼を完遂したことになるかがわからない。
「そこは、依頼達成の報告を受けたときに、村の若い衆で確認に行きますから……」
「それ、危ないだろ? いいよ、わかった。達成報告の後で、俺も一緒に行くから」
実に面倒くさいが、狩り残したオークが居て村人に被害とかが出たら、クロニウスに戻った後で報酬を減らされかねない。
(報酬貰った後で情報が届くかもしんねーけど、そうなると俺の評判が落ちるしな……)
数々のアルバイトを体験した弘には、評判が大事という認識が染み付いていた。
世間体は気にしないが、仕事上の評判や評価が落ちるのは困る。
「そ、そうしていただけると有り難いです。はい」
何となくであるが、村長の態度が柔らかくなったような気がした。
これは向こう傷で人相の悪い弘が一人だけで来て、胡散臭いと思っていたのが、意外や配慮のある言動をするので警戒心が薄れたことによる。
しかし、そのあたりが読み取れない弘は小首を傾げた。
(まあいいか。非協力的じゃないならなんだってよ)
聞くだけ聞いた弘は、村長に白湯の礼を言うと、1人で沢の方へと向かったのである。




