第二十九話 先制攻撃
弘がサバ村の村長から情報収集をしていた頃。
カレンとシルビアは、サバ村から少し離れた場所に位置するマゾニ村を目指し、街道を移動中であった。弘に比べて行動が遅れているが、これはシルビアが何のかのと理由を付けて、カレンの足止めをしたせいである。
シルビアは試練における監視役だが、カレンを早期に諦めさせて連れ帰るという任務も帯びているのだ。
「毒オオトカゲ……注意して戦わなくちゃ……よね!」
カレンが興奮気味にシルビアに話しかけている。
シルビアは「はあ……」と生返事をするのみだが、カレンは気にせずまくし立てた。
「相手が人や亜人じゃないって、いいものよね? だって多少は心が痛まないんですもの」
逆を言えば、完全に平気ではないということだ。
やはり浮ついてはいても、心根は優しい少女なのである。
シルビアがほっこりした表情でカレンを見るが、やはり言うべきことは言わねばならない。
「カレン様? 単独遂行制限があるのはオーガーやトロールの時だけなのですから。やはり、仲間を募った方が良いのではありませんか?」
今からでもクロニウスに戻って、冒険者ギルドで誰か誘いましょう。
そうシルビアが言うと、カレンは首を横に振った。
「駄目よ。最終的にはオーガーやトロールと戦うときは、私1人だけなんでしょ?
だったら、今の内に慣れておかなくちゃ。それに……」
カレンは、横目でジトッとシルビアを睨む。
「サワタリさんと早く別れましょうって、あなた五月蠅かったじゃない?」
「あれは、その……」
シルビアとしては異世界から来たなどと胡散臭いことを言う、しかも得体の知れない能力を使う男などを、カレンの側に置きたくなかったのだ。
そういう思いをストレートに言えるはずもなく、『カレン様は、ゆくゆくはお一人で大試練を成し遂げねばなりません。あの方とは、ここで別れる方がいいでしょう。また、お強いカレン様と同行することは、サワタリ殿の成長を妨げるやもしれません』と、それらしい理屈を並べ立てて説得したのである。
結果として、シルビアはカレンに対して『単独行動』を強く言いふくめた形となった。
今のカレンの言い様は、シルビアの言うがまま弘と別れたことを、それとなく非難しているのだ。
ジ~……。
カレンの横目攻撃が続く。
「あ、あのう……カレン様?」
耐えきれなくなったシルビアは、話題を変えようとした。
ただし、大きく変えたのではカレンが気を悪くするか怒り出すので、弘を話題に出している。
「サワタリ殿と別れたことが、それほど気にかかることなのですか?」
「当然でしょ? だって、おとぎ話に出てくる異世界の人よ? おまけに見たこともない能力者だし……もっと一緒に居て、色々お話ししたかったのに……」
ジ~……。
横目攻撃が再開される。
(ううう、やぶ蛇だったわ……)
肩を落とすシルビアは、傍目には大層色っぽい。
妖艶というのではなく、清楚な美女が憂いを帯びた表情で落ち込んでいるのだから、男性の目を引くのである。もっとも、田舎に向かう道中なので人通りが少なく、シルビアに注目する者など居ないのだが……。
(毒オオトカゲ……。多少の毒なら、私の法術治療でなんとかなるけど)
問題は駆除対象が『群れ』だということだ。
2人だけで何とかなるだろうか? 鎧の能力補正を受けたカレンなら、大丈夫だと思うが……こんな時、誰か他に戦ってくれる者が居れば……。
(サワタリ殿……か)
立場上、カレンから遠ざけてしまった若者のことを、シルビアは思い浮かべる。
あの若者は元山賊の一員だ。
しかし、人相と口の利き方こそ良くなかったものの、おおむねはカレンの役に立っていたように思う。野盗との戦闘においても真っ先に飛び出していたし、ああいう者が居れば、カレンの危険も減るのだ。
(せめて本試練の直前ぐらいまで、サワタリ殿には同行して貰った方が良かったのかしら?)
どのみちカレンも弘も、暫くはクロニウスを拠点にして活動する。
双方、今回の依頼を遂行したら、依頼人からギルド派遣証に履行確認を貰ってギルドに出向くことになるはずで、その際に顔を合わすこともあるだろう。
(そのとき、サワタリ殿がまた同行するとなったら……敢えて反対しない方がいいかもしれないわね)
そう考えをまとめ、シルビアはカレンの視線に対して笑みを返した。
「……っ?」
怪訝そうな顔になるカレンに対し「なんでもありませんよ」と言って、シルビアは先を急ぐよう、カレンを促すのだった。
「おう、居た居た……」
村長から教わったオークの出没地は、サバ村の西で流れる沢。
そこから遡った先にある洞窟近辺とのことだったが、弘は昼過ぎに沢を視界に入れると、それと同時にオークの集団を発見していた。
その数、4体。
ゲームで知られるように、ブタの頭部を有する人型モンスターだ。
皆が革鎧で武装し、手槍や短剣、手斧などで武装している。
(盾を持ってる奴も居るな。分捕っていただきだ♪ それにしても、こいつら……村長から聞いてたより少ないな)
村長は10体前後は居ると言っていたのだ。
だからこそ、弘がたった1人で村を訪れたとき、農夫や村長は微妙そうな反応を見せたのである。
オーク10体を相手に勝ち目はあるのかと聞かれると、弘は「ノー」と答えるだろう。
相手側が完全丸腰ならともかく、それなりに武装しているのだ。
レベルが10を超えて、相応に強くなっているはずの弘だが、「厳しいだろうな」と判断していた。
では、今目の前にいる4体が相手ならどうか?
この場合なら、勝ち目はあると弘は考える。
道中で戦ったウシアブや牛の時とは違い、ここは地形が複雑だ。地の利で言うなら、以前からここにいるオーク達の方が有利だろうが、立木や岩などの地形が利用できるので、かなりマシな戦いができるだろう。
ここでは、立木や藪に隠れて奇襲的に攻撃するのがいいかもしれない。
(おっと、せっかくだから対象物解析を試してみるか)
能力開放して間もない対象物解析。
戦闘中以外でなら相手情報を調べられるスキルであるが……。
<オーク>
・亜人型モンスター(頭部はブタ)
・力は人並み以上
・技能:鳴き声による仲間招集
(うは! 出た! 仲間を呼ぶ奴!)
ゲームのように際限なく呼び続けることはないだろうが、今居る4体が10体に増えたりしたら、さすがに勝ち目はない。
このまま襲撃するにしても、仲間を呼ばれる前に殲滅するべきだろう。
それにしても、この対象物解析は使える。知らないまま勝負を急がないように戦っていたら、仲間を呼ばれて危機に陥っていたかもしれないのだ。
(レベルは上がったが、俺が1人って状況に変わりはないからな。この能力があるから作戦が立てやすくていいぜ)
では、4体のオークを襲撃をするとして、どういった戦い方が良いだろうか?
弘は考えた。
(周辺には立木が多くて視界が悪い。できるだけ近づいて、藪の中から短弓で攻撃。すぐさま飛び出して……そうだな背を向けてる奴に……走りながら短弓って使えるのか? まあ牽制にはなるな……あとは……)
暫く考えてから、弘は移動を開始する。
いくつか攻撃パターンを考えてみたが、最後まで仲間を呼ばれないようにする手立ては、ついに思いつけなかった。
(山賊になる前の、ゴブリンと戦った時を思い出すぜ。考えてみりゃ、あのときも仲間を呼ばれてたのかもしれねーな)
思い出にふけりつつ藪越しに回り込んだ弘は、自分が思う絶好の襲撃位置に到着する。
オーク4体のうち、こちらを向いているのがリーダーらしき(一方的に何やら指図している個体。槍を持っている)1体のみ。残る3体は、弘に背を向けているという状況だ。
ゴクリ……。
喉が鳴った。
この4体を速やかに始末できれば、冒険者としての初仕事の成功率は大いに上昇することだろう。
弘はアイテム欄から短弓を取り出すと、同じく取り出した矢をつがえて狙いを定めた。
狙うは……リーダー格のオーク。
(頭だな……当たってくれよ!)
ここまでの道中、暇を見ては短弓の練習をしていたのだ。
レベルアップによる能力値上昇のおかげか、少し離れた的には当てられるようになっている。そして今標的としているオークとの距離は、練習時の的よりも近い。
祈る気持ちのまま、弘は矢を放った。
ビュッ……どすっ!
放たれた矢は、オークリーダーに命中した。
ただし、狙った頭部にではなく喉元に刺さっている。
(くそ! まあいい、リーダーはやっつけたぜ!)
オークリーダーが喉元を押さえながら倒れたのを見つつ、弘は藪から飛び出した。




