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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第2章 再出発、冒険者にジョブチェンジ!
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第二十一話 冒険者登録

「お前なぁ……」


「悪いけど! あたしは今、カレンちゃんと話してるから!」


 会話拒絶!

 この瞬間、弘の中でジュディスは『敵』認定された。


(あれだ。性格ブスって奴だ。……関わらないようにしよう)


 殴ってやりてぇ! とも思うが、ちょっと失礼なことを言われたぐらいで女を殴るのも、それはそれで気分が悪い。

 なので弘は、「ハア……」と溜息をついて、気分悪そうに目を逸らしてやることにした。

 相手の気を悪くする仕草をしたわけだが、弘の狙いどおりジュディスは気を悪くしたらしい。カレンに対して「なんなの? こいつ?」と詰め寄っている。


(知らね~知らね~。お前、俺と話する気ないんだろ? けけけ~)


 ここで勝ち誇ったようにニヤニヤ顔。

 ますますジュディスがヒートアップするのだが、いつの間にか背後に回ったシルビアが耳打ちしてくる。


(「サワタリさん? その辺にしていただきたいのですが?」)


(「はいはい。悪かったよ」)


 してやったりな気分になっていた弘は、素直に応じ、カレンがジュディスに説明するのを他人顔で聞くことにした。


「こ、この人はね? サワタリさんって言って、テュレで知り合った人なの。クロニウスに行くって言うから、一緒に来て貰って……ぼ、冒険者になりたいんだって!」


 ここへ来た目的等、個人情報を話されている気がするが、聞かれて困ることではないし……と弘は聞き流した。

 一方、弘が冒険者になるつもりだと聞いたジュディスは鼻で笑う。


「冒険者? この悪人面が? どうせ依頼を悪用して、依頼人から金品取ったり乱暴したりするのがオチよ」


「じゅ、ジュディスちゃん! それは言い過ぎ!」 


 抗議するカレンの声を聞きながら、弘はこめかみに血管を浮かせていた。


(女だからって我慢してりゃあ、初対面の人間の人相にまで……いや、悪印象を持つのはいいが、それを面と向かって本人に言うか?)


 この糞アマ、ビンタの一発でもくれてやらねば!

 カレンを迂回するように前に出ようとしたところ、ジュディスの右手が揺らめいた……と思ったときには、カレンの持つ短刀の刃が、弘の喉元に当てられていたのである。


「う……お?」


「ほら、こんなのすら見切れてないし。冒険者になるだなんて笑わせるわ。カレンちゃんの冗談……なのよねぇ?」


 言い終わるタイミングで、ジュディスは弘を見た。

 目が笑っているのが、またムカつくのだが、弘にはどうすることもできない。

 やがてジュディスが短刀を引くと、解放された弘は手で喉元を擦った。

 特に切れている部分はない。完全に手加減をされたというわけだ。


(今まで女相手にムカついたことはあったが、この野郎……おっと、このブスは格別だぜ! こうなったら冒険者稼業で強くなって、ボコボコにして、女に生まれたことを後悔……)


 ブチキレるがまま、そこまで考えたところで「うお~い。ここへ来て山賊気分か~?」と、ゴメスの声が聞こえたような気がした。


「ぬぐぐ……ふう」


 サーッと血の気が引いて普段の血圧に戻った弘は、一度深呼吸してから改めてジュディスを見る。


「な、なによ? やる気?」


「いえ、失礼な態度で申し訳なかったっす。なにぶん、冒険者の渡世についちゃ不勉強なもんで、どうか勘弁してください」 


 バイト先の上司や族時代の先輩に対するような言葉遣い、加えてヤクザ映画の言い回しなども活用して弘は頭を下げた。

 無論、媚びを売ってるわけではない。

 言いつつ、眼差しは真剣そのものなので、ジュディスは気圧されたように上半身を引いていた。


「あ、ああ、うん。わかればいいのよ。精進しなさいよね?」 


「ジュディスちゃん……。サワタリさん、ごめんなさい。その、ジュディスちゃんは気の強い子だから……」


 カレンがフォローするが、弘は「人の首に刃物押し当てて、それを『気が強い』で済ませるなよ……」と内心口を尖らせている。


(このカレンて子も大概だよなぁ。……この世界じゃ、これで普通なのかもしれんけどさぁ) 


 その後、少しばかりカレンと話すとジュディスは元居たテーブルに戻っていく。そのテーブルからは「ね? どうだった?」「大したことなかったわよ、あんな奴」といった声が聞こえてきたが、弘は無視することにした。

 ジュディス1人にすら勝てなかったのに、その仲間も加わったのではどうしようもないからだ。

 現実の実力差は認めるしかない。が、その人格を認めるかどうかは別の話だ。


(やっぱ、こいつら敵だ……)


 相手にしないようにしつつ、弘はカレンについて2階へ上がっていく。シルビアはついて来なかったが、他に用事があるとのことだった。



 こうして一悶着はあったものの、弘はようやく冒険者登録をすることとなった。

 登録所は2階に上がってすぐの場所にあり、3メートル四方ぐらいの待合室となっていて、大通りとは反対側に受付カウンターがある。

 そこに2人の女性職員が居て、カレンが話しかけた。


「あの、よろしいですか? 冒険者登録を1名分、お願いしたいのですが?」


(おお、今度はゴメスさんと話してたときみたいな、キリッとした口調だ!)


 弘もジュディス相手にやったように口調の切替えはできるが、カレンのそれは気品があり、気圧されるような迫力もある。


(こういうのって真似できんもんかなぁ……)


 性に合わないとは思うが、できるようになりたいとも思う弘であった。

 その後、言われるがままに書類記入をする。

 カレンが横で立って見てくれているので、なんだか保護者同伴で役場に来たような気になり、ちょっとだけ気恥ずかしい。


「と、ともかく、書いてみますかねぇ」


 山賊時代に簡単な読み書きを習っていたので、割と無理なく羽根ペンが進んでいく。


(名前に性別。年齢。大まかな身長体重か……。このあたり、何処かで悪さしたときに人相風体が目撃されてたら、ここで一発照合されるんだろう~な~)


 剣と魔法の世界なので情報伝達は遅いかもしれないが……いや、なにか魔法的な超伝達手段があるかもしれないし、やはり悪事に手を染めるべきではないのだろう。


(希望職種……希望職種か!)


 面倒くさく思いながら書き進んでいた弘は、パアアッと表情を明るくした。


(今気がついたけど、これってキャラメイクじゃんか! マジかよ! こいつはスゲェや!)


 ゲームでよくある初期作業に遭遇し、弘のテンションはこの上なく上昇していく。


「職業って何があるんすか!」


「へっ? あ、ええと……」


 受付の眼鏡お姉さんが目を白黒させている。

 そしてカウンター下の棚から、手引き書のようなモノを取り出してパラパラめくると、弘を見上げておもむろに言った。


「こちらが指定する職業を書くのではなく、現職業の自己申告です。近日中に何かお仕事を始めるのでしたら、それを書いていただいても結構です」


「ああ、そう……」


 弘のテンションは低下した。

 彼が期待していたのは『戦士』『僧侶』『魔法使い』『盗賊』『武闘家』といった、職種から選択し、その職種に沿った成長をしていくことだったのだ。

 なのに自己申告で何を書いても良いと言われたら、そりゃあテンションが下がるというものである。聞けば、本職が鍛冶屋だったとしても、冒険者として戦士系の活動をしたいのであれば、戦士と記入する者が多いらしい。

 将来的に転職等で記載内容に変更があるときは、変更のあったときから1ヵ月以内に、何処かのギルド支部で変更報告書を書かねばならない……と、受付のお姉さんが付け加えてくれる。


「……1ヶ月を超えて変更報告書を書かなかったときは? なにか罰則とかあんの?」


「いえ、特にありませんが……記載内容が違っていることに関係して何か問題があったときは、ギルドの援助を受けられない場合があります」


 例えば、何かの都合で身元保証をギルドにして貰おうとして、登録内容の変更報告が未済だった場合。ギルドから「うちにある書類内容と合致しないから、そんな奴は知らん」と見捨てられる可能性があるということだ。


(く~……妙なところだけ、元の世界みたいに事務的だな。なんか、警察署で免許証の更新をしてる気分になってきたぜ)


 あんときは交通課のオッサンどもに睨まれながら、講習を受けたりしたんだっけな~……などと考えたところで、今やるべきことは書類作成の続行である。

 いったい何と業種名記入をすればよいのか?


(ステータス画面上は『不良』ってことになってるんだけど。それ以外って書けるのか? 書いたとして、ステータスの職業表示が変わったりするのか?) 

 その辺は、やってみないとわからない。


 取りあえず目の前に書類があるので、まずはよく考えてから書き込んでみる。それで駄目なら、諦めて『不良』と書くしかないのだろう。


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