第二十二話 俺は召喚戦士?
「さて……なんて書くかな?」
性に合った戦い方は殴る蹴るなのだから、モンク、あるいは修道士だろうか?
しかし、僧侶系というのも感覚的に違っている気がする。
ならばストレートに戦士か? イメージするところでは、鎧兜に身を固め、剣と盾を持った自分の姿であるが……。
(それもなんか俺っぽくねーな……)
画面上のキャラを動かすと言うのならありだろうが、自らの肉体を使って行動するのだから、それもイメージとは違う気がする。
(鎧の類は、普通に買って着ると思うんだけどなぁ)
定番職で残っているのは魔法使いや盗賊ということになるが、知性派ではないことは自覚しているので魔法使いもパス。盗賊に関しては、せっかく山賊から足を洗ったのに、そりゃないわ~……と思ったのでパスとした。
(盗賊ギルドは盗賊ギルドで別にあるそうだし。てか、こんなとこで、俺は盗賊です……とか言ったらマズイ……よな?)
役場の受付に行って、自分は押し込み強盗なんです! などと、自己申告するようなものだろうか?
(けど、さっきは酒場に盗賊っぽい奴が居たよな? 単に出入りしてるだけで、冒険者登録はしてない……とかか?)
さて、他に思い当たるところでは、レンジャーやサムライ、忍者やビショップ……。
(どれも違うっぽいな。そういや俺のできることって何だろうな?)
殴る蹴る。山賊時代に少しばかり剣の振り方を教わったこと。そういえば槍はしっくりきたと思う。あとはMPを消費して武器を召喚できることだが……。
(召喚槍術士……ちょっと長いな。それだと槍をメインで使わないと、看板に偽りあるっぽいし。じゃあ、シンプルに魔法戦士か?)
昔、魔法使いに育てられたが魔法の才能は大したことなくて、本人は戦士志望……という小説を読んだことがある。そのイメージが思い浮かんだので、魔法戦士はパスした。
(いっそ暴走族時代の肩書きだった、特攻隊長ってのはどうだ? ……ヤベェ、よくわからんが、すげぇアホっぽいぞ! ……残念ながらパスだな)
いったん暴走族を卒業してしまうと、昔は格好良いと思っていたアレやコレやが、妙に恥ずかしく感じてしまう。
十代の頃の自分と、20歳となった自分では精神的に何か違うのだろうか?
(でも、特攻服とかは今でも着てみたいんだよな~……)
その後、色々と悩んだ末に弘が考案した職名とは……。
「もう召喚戦士でいいや。この辺の変更って、後からでもできるんだろ?」
「はあ、はい。ただし、最後に記入した日から1ヶ月以上経過する必要があります。その間に変更の必要がある場合は別途理由書が必要で、その書類審査が通れば期間内でも変更が可能です」
「ああ、そう」
やはり面倒くさい。投げやりに返事しつつ記入すると、普通に『召喚戦士』と書くことができた。
他人からは見えないこと良いことに、その場でステータス画面を確認してみたところ、職業表示は『不良』のままであった。
(通り名的職業名と、ステータス上の本職の違いってことなのか? 書類に召喚戦士って書いても、ステータス表示は変わらないし……)
さっぱりわからない。
そして書くだけ書いたかと思えば、まだ一つ未記入の欄があった。
「紹介人?」
「身元保証人みたいなものですが、そう書くと保証人に責任がかかったりしますので、軽いイメージで『紹介人』ということになっています。居なければ未記入で結構ですが……」
「ああ、そこは私の名前を書いてください」
脇で書類作成を覗き込んでいたカレンが言う。
「オッケー。カレン・マクドガル……だっけな」
「ええっ?」
驚きの声をあげたのは受付嬢だった。
信じられないモノを見るかのように、弘とカレンを見比べている。
「……俺、字ぃ間違ったりした?」
「いえ~、そうじゃないんですけどね~」
言いつつカレンが受付嬢に対してパチパチウインクすると、受付嬢は咳払いをしてからカウンター上の書類を引き揚げた。
「はい。記入漏れなし。明日来ていただければ、幾つか御説明させていただいた上でギルド証を引き渡します。お疲れ様でした」
言外に、用が済んだら帰れ……と言われている気がする。
(なんだかな~)
小首を傾げるが、カレンが夕食にしましょうと誘ってくれたので、弘は彼女について1階へ降りていくのだった。
1階に下りた頃には日はすっかり暮れていて、屋内のそこかしこの柱、各テーブルに1~3台ずつランプが設置されている。
「ランプの明かりか……前に泊まった牢屋でも感じたけど、キャンプみてーだな」
天井には円形の木製照明器具が吊られていて、立てられたロウソクに火が灯されている。
(前言撤回。キャンプってより、ファンタジーRPGに出てくる酒場の雰囲気がバリバリだわ)
他に気になる点と言えば、最初に入った頃に比べて人の数が多いこと。
そう言えばメシ時なんだっけな等と考えていると、カレンが空いているテーブルを指差した。
「シルビアがテーブルを確保してくれてますから、あそこへ行きましょう」
「なんだ、ついて来ないと思ってたら席取りしてくれてたのか。カレンの指図?」
そう呟いたところ、カレンが照れたように笑う。
(なんだか、どんどん表情が豊かになるな。この子……)
やはり、こういう表情が素の少女なのだろうか?
さて、シルビアがキープしたテーブルは4人掛けで、それほど大きくはない。弘達は3人連れなので1席余り、配席は弘が座る対面向かって右にカレン、左側にシルビアというものになった。
「では、サワタリさんの冒険者登録を祝って乾杯でもしましょう」
カレンが女給を呼んで何やら注文すると、陶器製のジョッキが運ばれてきた。
麦茶を濃くしたような色合いだが、臭いは酒である。
「エール酒ですよ。薄いものですけど……サワタリさんは、お酒は大丈夫でしたか?」
「そこそこは飲めると思うぜ? なにしろ学生の頃から……おっと、いやしかし、これがエール酒か初めて飲むな……」
ファンタジー系の小説などで、よく登場する酒だ。
元の世界でも、あるにはあるが弘は飲んだことがなかった。
(この先、ラム酒とかも出てきそうだな……)
「それではサワタリさんの冒険者登録を祝って~……」
「別に、祝うほどの事じゃないんですけどね」
ボソッとシルビアが呟き、笑顔でジョッキを掲げたカレンの動きが止まる。
「シルビア……そういう水を差すようなこと言わないで」
「はい。口が過ぎました。申し訳ありません」
そういうシルビアは、シレッと言ってる風なので反省しているようには見えない。
俺、この人に嫌われてんなぁ……と思いつつ、弘は気になったことを聞いてみた。
「シルビアさんは酒とか飲んでいいのか? ほら、宗教的にマズイとか、そういうのってあったりすんの?」
「いいえ。私は光の神の信徒ですが、そこまでは厳しくありませんので……」
意外だ。普通、光の神の信者と言えば正義正義と口うるさく、堅苦しく、頑固で他人の話を聞かない……戒律でガチガチなイメージがあるのだが、どうやら違うらしい。
その辺りを若干オブラートに包んで弘が述べると、シルビアは心外そうにジョッキを煽った。
「あ、乾杯がまだなのに……」
カレンが抗議するが、シルビアは気にすることなく喉を鳴らしている。
「そういう偏ったイメージで見られるのは不本意です」
「もう、シルビアったら。……で、サワタリさん? 何処を見てるんですか?」
シルビアがエール酒を飲み下すたびに、大きな胸が揺れるのだ。
そこをガン見していた弘にカレンがささやきかける。もっとも隣にシルビアが居る状態で、対面の弘に話しかけているのだから会話内容は筒抜けなのだ。
「シルビアはああ言ってますけど……光の神様に人生を捧げたことになってますから。結婚するときは宗門を外れなくちゃいけないんですよ?」
「うわ、マジか!?」
そいつは厳しいや!
驚くとともにシルビアを見ると、彼女はジョッキを煽りながら弘を一睨みし、その後は知らん顔を決め込んでいる。
どうやら本当らしい。
しかし、結婚するたびに信徒が減るのでは、宗派としてやっていけるのだろうか?
そこが気になってカレンに聞いたところ、「2名以上、宗門に勧誘できれば結婚オーケーなんですって」とのこと。
「へえ~……なんかネズミ講みたいだな」
「違います! そんなことしなくても我が宗派は大丈夫なんです! カレン様も嘘を言ってサワタリさんをからかわないでください!」
シルビアがムセながら抗議するので、視線をカレンに向けると彼女は小さく舌を出していた。
「すみません。でも、お酒の場ですし……少しくらい冗談言ってもいいですよね? それと……」
言いつつカレンは、ジョッキを持った腕を弘の方に伸ばしてきた。
「私達だけでも乾杯しましょうか」
「あ、ああ」
カチンと陶器製のジョッキが打ち合わされる。
「冒険者登録おめでとう。この先のサワタリさんに、幸運がありますように」
「色々世話になっちまって、ありがとうだぜ。あんたこそ武運があるよう祈ってるよ」
そして飲む。
苦くて甘い感じがするが、それなりに美味いな……と弘は思った。
ただ、やはり飲み慣れたビールの方が口にあってるとも思う。




