2-4 彼の世界・僕の世界
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
お腹を空かせながらミチはRPGのダンジョンを歩き、イケメン主人公剣士ダイチと出会う。
ダイチとパーティーを組み、お腹を満たすために彼の拠点へと移動する。
周囲を明るくするスペルをダイチが唱えると、僕の体もダイチのように光りだした。
マップを見ながらダイチの拠点を目指して歩く。
移動しはじめるとすぐ、ダイチが僕に質問を投げてきた。
「ところでキミは、どこから来たんだい? 名前は……なんと読むのかな?」
「僕の名前は飛鳥和深智。えーっと、日本の鳥取ってところから来たんだけど、分かるかな?」
「ニホン? トットリ? ……すまない、聞いたことのない単語だ」
「僕は異世界から来た、と思っておいたら良いよ。まぁ色々とあって、僕はこの世界に来てしまったんだ」
「ふむ、異世界なんてものが存在するのか……。名乗り遅れたが、私の名はダイチ。この世界の住人だ」
日本を知らないということは、もとの僕の世界からこのゲーム世界にログインしたとか、そんなパターンではなさそうだ。
それに異世界に違和感を持つということは、僕のように転移したわけでもないのだろう。
彼はこの世界で生まれてこの世界で育ったということでほぼ確定か。
さっき言っていた『初めて人間を見た』という言葉を考えると、彼以外の人間はこの世界に存在しないのだろうか?
よし、聞いてみるか。
「さっき『人間なんて初めて』みたいな事を言ってたけど、この世界には、君以外に人は居ないの?」
「いや、私のパパとママが居る。あと弟が二人と妹が二人。私はお兄さんなんだよ」
『パパとママ』!?
イケメンの口からそんなワードが出てくるという絵面に、僕は吹き出しそうになった。
「ほ、他には? 他に人は居ないの?」
「他には……人間はいない。だからパパとママは、人間を探す旅に出てるんだ。弟や妹を連れてね。今は僕がひとりで拠点を守っている」
人類が居ない世界……。
人類が居たがダイチの両親を残して他の人間が滅んだのか、それとももともと人間が居なかった世界にダイチの両親が現れたのか。
いずれにせよダイチの両親が『この世界のアダムとイヴ』で、この世界の秘密を知っているキーパーソンに思える。
両親に会うことがこの世界を攻略するカギのようだ。
あれこれ考えていると、実はこの世界は『ユーザーが去った後のオンラインゲームの世界』という可能性が脳裏を過ぎった。
サ終したオンラインRPGのAIが自我を持ち、家族を作り、子を生み、そして今に至るとか?
AIがAIの子どもを生むとか、倫理的にいろいろヤバそうな気がする。
これは違うと思っておこう。
ダイチは家族以外の人と関わったことがないからか、僕より年上のようだけど会話しているととても子供っぽく見える。
第一印象はイケメンで仲間に欲しいと思ったけど、さっきの求婚といいセリフから漏れるナルシスト感や幼稚さといい、どんどん印象が悪くなる一方だ。
僕のそんな印象などお構いなしに、ダイチはワクワクしながら僕に話しかけてくる。
「キミの居た世界はどんな世界だったんだい」
「僕の世界? そうだなぁ。普通の世界かな。ステータス画面もなければスキルやスペルも無いし、モンスターも居ない世界」
「普通の世界……ということは、キミも他の人間を探す旅をしているのか。そうか、だから異世界に!」
ダイチは何か見当違いな納得をしていた。
何を言ってるんだコイツと思ったけど、よく考えたらそうではない。
生まれたときからこの世界にいるから、ダイチにとっては他人が居ないのが普通の世界なんだ。
「違う違う。僕の世界はたっくさん人間が居るんだ。多すぎて困るくらい」
「ほう、この世界に分けてほしいくらいだね。でも人が多いと仲良くするの大変そうだ。私はよく弟と喧嘩するからね」
「ふふっ、そうだね。僕も弟と喧嘩ばっかりだよ」
僕たちはそんな他愛もない会話をしながら拠点へ向かって歩いた。
◇
ダイチの拠点に着いた頃には、僕の空腹は限界になっていた。
今なら椅子でも机でも食べられそうだ。
「着いたね。ようこそ、ここが私の拠点だ」
「え、これは……どうなってるの?」
そこには周囲の雰囲気とミスマッチな、SFのような扉があった。
周囲の壁には破壊されたような痕があり、まるでダンジョンに無理やり宇宙船をねじ込んだかのような光景だった。
ダイチの家族は宇宙人で、他の星から来たのだろうか?
それなら他の人類が居ないのも辻褄が合う。
でも、ファンタジー世界に宇宙人だなんてちょっとナンセンスだと僕は思った。
「ほら、入って」
唐突なSF設定に戸惑っていると、ダイチに後ろから押された。
ドアが自動的に開き、僕はSF的な拠点に入った。
中もやはりSFチックな風景だ。
さっきまで木と鉄と石で出来てるような中世風な雰囲気だったのに、拠点の中は見たことない合金やプラスチックのようなツルツルした材質で出来ていた。
「食堂は2階だよ。エレベーターはそこさ」
そう言ってダイチが床を指差す。
床には丸印が書いてあるだけだ。これがエレベーターなのだろうか?
言われたとおり丸印に立ってみると、僕の体がふわっと浮かびあがった。
――ここだけ無重力になってる!
僕のスカートもふわっと浮き上がる。
天井には穴が空いていて、そこから上の階に行けるようだ。
上の階に行く前に下を見てみると、僕の様子をダイチが下からニコニコしながら見上げていた。
僕はあわててスカートを押さえた。
油断も隙もあったもんじゃない!
「バカッ! なに見てんの!」
ダイチにむかって叫んでやったが、ダイチはきょとんとした顔をしただけだった。
僕は2階に到着するまで、眉間にシワをよせながらダイチのことを睨んでおいた。
——あとでビンタの一発でも食らわさないと、気がすまない。
上の階は食卓といった雰囲気の広い部屋だった。
お皿のたくさん入った戸棚や冷蔵庫らしいものはあるが、水道やコンロといったものは見当たらない。
僕がまわりを見ていたら、ダイチがエレベーターをあがってきた。
さっそく僕はダイチに一発ビンタ……しようと思ったが、そのイケメン顔を見るとビンタする気が失せてしまった。
そのキレイな顔にビンタなんてして良いのか、と躊躇ってしまった。
——こ、これがイケメン無罪ってやつか……。
敗北感。
僕はビンタを諦め、口で説教するだけにした。
「スカートの中、見ないでよね!」
「スカート? スカートって何だい?」
「僕のこの下に着てる服だよ!」
ダイチがなるほど、といった感じの驚き顔をした。
どうやらダイチはスカートを知らないらしい。
「あぁ、そのひらひらした装備の中を見たかと聞いていたのか。たしかに確認した。白と水色のシマシマ……」
「バッカ、テメェぇ!」
僕はダイチの胸をグーで殴った。
でもお腹が空いているせいでまともに力が入らなかった。
「なんのつもりだ? 見かけによらず暴力的だね、キミは。確認したのかと聞かれたから、確認済みだと答えただけなのに!」
「いいから、早く、ご飯……」
それだけ言って、僕はその場に座り込んだ。




