2-5 欲求
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
お腹を空かせながらミチはRPGのダンジョンを歩き、イケメン主人公剣士ダイチと出会う。
ダイチとパーティーを組み、お腹を満たすために彼の拠点へと移動した。
ダイチの用意したご飯は、とにかく質素な見た目だった。
乾パン3つと、海苔みたいな赤い物体が2枚、そして緑色のジュース。
「なに、コレ?」
「食事さ。おなか空いたんだろう? さっさと食べたらいい」
さっき殴ったからか、ダイチは少し不貞腐れた様子だ。
僕はひとまず緑色のジュースの入ったコップをもちあげた。
ドロっとしていて美味しそうには見えない。でも、食べないとお腹がすいて今にも死にそうだ。
えいっ、っと覚悟を決めて僕はコップに口をつけ、ぐいっと傾けた。
だがこのジュースは見た目以上に粘度が高く、ゆっくり流れてなかなか口に入らない。
コップの底を何度も叩くとトロトロとコップの中を流れ、やっと僕の口の中に入った。
その味は、衝撃的だった。
――嘘でしょ、旨いじゃん。
僕はスプーンを持ち、かき出すようにして緑のジュースを食べきった。
見た目は青汁だが、味はとてもフルーティ。モモとイチゴのパフェの上にミルクをかけ、そこにアクセントとして少しの塩を加えたような味だ。うっすらとカカオのような苦味もあり、くどくない上品な甘さが何度も口の中で反芻される。
次は乾パンのようなものを掴んで口に運んだ。これも旨い。
見た目はパンだがパサパサした感じはなく、質のいい油が乗った鮭の塩焼きを食べているような気分だ。口に入れ噛むたびにじゅわっと肉汁のようなものが出てくる。中から湧き出る汁は小籠包のようでもあり、ジューシーさは強いが油の重たさを感じるものではなく、むしろ清々しい。その上燻製のような香ばしい香りが口から鼻の中や喉の奥まで染み渡り、一口食べるたびに喜びのため息が出る。
海苔のような赤い物体は、持ってみると意外に冷たくて驚いた。齧ってみるとふわっと口の中でほどけ、同時に新鮮なレタスのようなフレッシュな爽やかさがミントのように口の中に広がる。そう思っていたら、口の中をティッシュできれいに拭き取ったかのように、さっきの乾パンの油っぽさがまったくと言っていいほど無くなった。
口の中がさみしくなりまた乾パンを口に入れてしまう。奥深いジューシーさがまた僕の口の中で拡散する。
――旨い。ご飯をこんなに旨いと思ったのは初めてかも……。
僕は美味しくて涙が溢れてきた。
「なに泣いてるんだ? 私は、また何か怒らせるようなことをしてしまったか?」
ダイチの言葉には耳も貸さず、僕は「おかわり」と言って次の皿を要求した。
ダイチはニヤッと勝ち誇るようなスマイルをして、また同じ料理を冷蔵庫のようなものから取り出して皿に乗せた。
こんなにご飯が美味しいなら、この世界に住んでも良いかもしれない。
そんな気持ちが一瞬だけ頭によぎった。
◇
最後にまた緑のジュースを食べ、僕は食事に満足して大きなため息を出した。
「お腹いっぱいになったのなら、風呂に入るのはどうだい?」
「お風呂があるの!? ぜひとも……」
言いかけたところで、僕は口を止めた。
この常識知らずが僕の風呂に入ってくるかもしれない。
そうなるとパンツを見られるどころの話じゃないぞ。
「……お風呂ってのは、どんなお風呂? 『一緒に入るのが普通』とか言わないでよね?」
「当たり前じゃないか。お風呂というものは、みんなで入るものだろう」
「ふっざけんな! 社会性とか羞恥心ってものが無いのか!?」
つい立ち上がって叫んでしまった。
せっかく料理で気分が良くなったところなのに、ダイチのせいでまた最悪な気分だ。
ダイチはきょとんとした顔をしただけで、僕が言っていることの意味がわかってなさそうだった。
「た、他人に入浴姿を見られるとか、普通は恥ずかしいと思わない!?」
「恥ずかしい? お風呂に入ることの何が恥ずかしいんだい? パパとママがいるときはいつも一緒に入浴するよ?」
「裸になった姿を、家族じゃなくて他人に見られるのは恥ずかしいものなの!」
「私は……家族以外の他人を知らない」
そう言って、ダイチは申し訳無さそうな寂しい顔をした。
その顔を見て僕は納得した。
あぁ、そうか。ダイチにとって『家族』イコール『社会』なのか。
家族のルールが、社会全体のルールになっているんだ。
僕みたいな "家族じゃない人間" の扱いが分からないんだ。
その事に気づくとダイチが少し可哀想に見えて、今までの狼藉もちょっと許そうかなと思えてきた。
お風呂には入らないけどね。
ダイチが少し緊張したような雰囲気を見せながら、話題を変えようと口を開く。
「風呂に入らないなら、か……狩りに出かけるのはどうだろう?」
「狩り?」
「そう。この拠点の周辺のモンスターを倒してゴールドと経験値を手に入れるんだ。キミはまだレベルが低いし、私となら良い経験値稼ぎができると思う」
モンスターを倒して経験値を手に入れるなんて、いよいよゲームらしくなってきた。
「それなら良いよ。行ってみよう」
「喧嘩をしたときは、モンスター狩りに限るね。食事が気に入ったようだし、お弁当も持っていこうか」
そういってニコッと笑いかけるダイチは、憎めないくらい爽やかなイケメン顔だった。
~あとがき(ネタバレ微含)~
この世に存在しない料理を解説するのは、飯テロになる?
謎の魔剣士ダイチ、果たして彼は仲間になるのか、ならないのか。
このダイチですが、初期設定からずいぶん別物になってしまったので、初めて読んだときの印象が作者視点では全くわからなくなってしまっているんですよね……。(もとは剣士ですら無かった)
感想とかにここまでの彼を見た印象を素直に書いてもらえると、励みになります。




