1-5 灼熱の脱出
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
魔法を使う村人たちの住む異世界に来て、長老の死に立ち会ったためか、ヴァルフという村人に殺意を向けられる。
長老が『ミチ』という人と旧知である事を利用しつつ、ヴァルフを返り討ちにあわせることでひとまずピンチを切り抜けた。
ヴァルフはまだ苦しそうに倒れている。
なんて世界だ。
最初は時間をかけてこの世界を攻略しようなんて思っていたけど、こんな殺意マシマシなヤツがいたら攻略する前に死んでしまう。
そもそも魔法のある世界でも、僕が魔法を使えないと何の意味もない。
こんな村、すぐにでも出ていこう。
僕が立ち上がろうとすると、誰かが手を差し伸べてきた。
さっきの長髪男、ラセロフだ。
「ミチ。我が村はキミを歓迎したい」
立ち上がって周りを見る。ほかの村人もそのことに異論は無いようで、静かに僕の方を見ている。
歓迎って言われたって、僕は今からこの村を去ろうと思ってたところだぞ。
そんなことお構いなしにラセロフは続ける。
「長老はよく貴方のことを語ってくれました。ミチとの冒険は人生で最も充実した時間だったと」
僕と冒険しただって?
小学生の頃に男子を含めたクラスの何人かで、親の確認もとらず山に上りみんなで遭難しかけるという冒険はしたことあるけど、おそらくその事を言っているわけではないだろう。
ラセロフの語りに、男が割り込んできた。
「そんなことより! ミチが言っていたことについて教えてくれ!」
割り込んだのは、僕が最初に出会った、僕を長老のところに連れてきた男だ。
僕が言っていたことって、何だっけ?
男は続けて言う。
「みんな聞いてくれ。ミチと最初に会った時、ミチが言ったんだ。『この世界を救いに来た』って」
それを聞いて村人が一斉にざわっとした。
言った。そういえばそんなこと言った!
僕の厨二病がつい炸裂して言ってしまったんだった。
ラセロフが何かに気づいたような顔で僕の方を見る。
「そ、そういうことか! 長老が亡くなった事をきっかけに、この世界が破滅に向かうということか! そしてその破滅から我々を救うために、ミチはこの世界に来たのだな!」
ラセロフは涙を流しながら大げさに叫んだ。
なんだこの男。ヴァルフという男はヤバいヤツだったが、コイツもコイツでなんだかヤバそうだ。
ラセロフはずっと語り続ける。
「ありがたい、ありがたい。ミチのために今すぐ新しい家を建てよう。どの家よりも素晴らしい家をだ。ミチがこれからずっとここに住んでくれるのだ。失礼の無いようにしなければならない」
住み続ける!?
RPGの最初の街にずっと留まれってこと?
それは何か違うでしょ。
やっぱりこの村、去ったほうが良いかも……。
「テメェら、長老抜きで村のことを決めるんじゃねぇ……」
背後から声が聞こえてきた。
声の先では、ヴァルフがつらそうに股間をおさえながら、立ち上がろうとしていた。
その目には、まだまだ殺意が燃えているようだ。
ヴァルフは手に炎を宿し、間髪入れず僕に向かって炎を飛ばした。
すかさずラセロフが僕の前に立ち、炎を消し飛ばした。
「やめろ、ヴァルフ。ミチは次の長老になるべきお方だ」
待て待て待て、聞いてないぞ!
住むつもりは無いし、もちろん次期長老なんて絶対に嫌だ!
なんかラセロフの中で勝手に話が進んでいるようだ。
「うるせぇぇぇ、認めねぇぇぇぇぇぇ」
ヴァルフが突然雄叫びをあげだした。
村人たちが「いけない」「やめるんだ」と声を出す。
メキメキという音とともにヴァルフの全身が肥大化し、彼の服が割けはじめる。
腕は丸太のように太くなり、体は天井を破るほど大きくなり、さらに背中に翼も生えはじめた。
——ドラゴンだ……。
ヴァルフがドラゴンに変身したのだ。
ドラゴン出てこいとは言ったけど、このタイミングで出てほしいとは言ってない!
ドラゴン化したヴァルフが、天井近くから低い声で叫ぶ。
「長老は長老だけだ! いくらミチでも認めねぇ!」
だから一体、この村における僕はどういう立ち位置なんだ!
村に留まるつもりは無いけど、ミチと長老の間に何があったのかだけは誰か教えてくれ!
ラセロフは腰が抜けたように倒れている。
他の村人も、誰も微動だにしない。
ヴァルフは口に炎を溜めている。
最大火力でこの建物ごと全て焼こうとしているようだ。
「ミチ、逃げて!」
女の声。
村人の一人が飛び出し、僕に触れた。
その瞬間、僕はいつの間にか外にいた。最初の村人に会った畑のそばだ。
どうやら僕はワープしたらしい。
ゴオオォッ! メラメラッ!
爆発のような音と、炎で木片が弾けるような音。
音の方を見ると、村の中心あたりから巨大な炎の柱が立ち上がっていた。
そして炎の柱の中から、空に飛び上がるドラゴンの姿が見える。
——逃げなきゃ。
僕はすぐさま森の方に走って行く。
森の中にある、僕の部屋のドアに戻るのだ。
来るときは歩きやすい道に沿ってまっすぐ歩いてきたので、帰るときもまっすぐ行けば良いはずだ。
バサッ バサッ
森の中を走っていると、上から羽ばたく音が聞こえる。
ヴァルフだ。
それと同時に、僕はドアを見つける。
「ミチ、お前は、お前だけは!」
ヴァルフはそう言うと同時に、炎を吐く。森の木が一瞬で燃え始める。
森の木が邪魔になっているおかげで、幸い僕の服は燃えてなさそうだ。
僕は急いで部屋に入り、ドアを閉めた。
どっと疲れが出てきて、僕はドアに倒れ込むように座る。
「た、助かったぁ……」
僕はほっと胸をなでおろした。
~あとがき(ネタバレ微含)~
ここまで1章です。次回からは次の世界へ行きます。章タイトルは「魔剣士の住むダンジョン」。
こんな調子で、異世界に行き→謎と遭遇し→トラブルが起き→異世界から逃げる物語です。
あくまで謎部分はオマケで、トラブルに巻き込まれつつどうにか逃げるドタバタ部分をメインに楽しんでください。
なお、いろいろ謎のまま終わった村人達ですが、10章か11章あたりでまた登場することとなります。
当分の間、この謎は謎のままおあずけでお願いします。
物語の性質上、どうしても主人公が自分で行動するより流される場面が多いせいで、主人公の魅力を出せてるか不安になります。
魅力は出せてるでしょうか? 「魅力感じてる」とか「あまり好きになれない」とか感想に書いてもらえると励みになります。




