6-10 交換条件
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和 深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界に行ってしまった弟アオを探すため、未来少女キィと異世界を巡り歩くことになる。
昭和そっくりな異世界で、ミチは曾祖母のエリと出会うも、ミチの不用意な一言のせいで、エリは縁談を破棄すると言って走り去ってしまった。
そこに現れた奇術師 紅金 緑青は、記憶を操作できる超能力者で、エリの縁談破棄を阻止できると言ってきた。
「僕が、納得する手段……?」
この紅金という男は、記憶操作の能力を使わず、今すぐにでもエリさんが竹助さんと結婚したくなる方法があると言っているのか?
どんな恋愛マスターだ。
そんなテクがあるなら結婚相談所でも開けば良い。ボロ儲けだろう。
とはいえ、ため息をしながらイケると断言しているんだ。
何か秘策が有るんだろう。
僕はその秘策を聞かざるを得ない。
「どうするって言うの?」
「さっきオマエが自分で言ったやり方だ。竹助さんの事を教えれば、エリさんって人も結婚する気になるって」
何を言っているんだコイツ。
時間がかかるから無理って、自分が否定したのに。
意味不明すぎて僕の眉がキュッと寄ってしまう。
「はぁ? それはさっきアンタが否定したじゃん!」
「オレは竹助さんとは知り合いだ」
……は?
紅金さんが言った言葉の意味が、一瞬わからなかった。
そんな僕を気にせず紅金さんは続ける。
「竹助さんの過去とか全部を、お前に教えてやるって言ってるんだ。超能力を使って一瞬でさ。あとはお前の言った通り、お前がエリって女を説得する。これなら洗脳みたいなこともしないし、納得できるだろ?」
僕の弟の名前を騙った謎の奇術師が、僕のひいおじいちゃんと知り合いだって?
そいつがちょうど、ひいおじいちゃんについて知りたいときに現れて、そしてその記憶を超能力を使って渡せるだって?
そんな都合の良い偶然、有り得るのか?
「本当はエリさんって人の記憶を操作する方が早いんだけどな。それが嫌と言うなら、君が言葉で説得するしかないだろ。見ず知らずのオレの言葉じゃ信じて貰えないだろうからな」
僕は考え事をしているせいで、僕の耳に紅金さんの言葉は届いていなかった。
そもそもコイツは、僕を誘き寄せるために偽名を使っていた人だ。
こうなることを予測して、事前に竹助さんと知り合っていたという可能性だって、全然有り得る。
コイツ、記憶操作能力だけじゃなく未来予知能力もあるのでは……?
考え込んでいると、キィが横から話しかけてきた。
「ミィ、コイツの言う事聞くの? そもそも、タイムパラドックスが起きない可能性だってあるんだよ?」
キィの言うことも確かだ。
でも、万が一起きてしまったらという不安がどこまでも付き纏う。
キィは未来世界の人間だし僕の過去は知っているが、僕の未来を知っているわけではない。
「タイムパラドックスが起きたら? 僕が消えてしまってから戻す方法なんて有る? キィのギアで未来は見えるの?」
自分が消えてしまうかもという焦りから、僕はキィを詰めるように言ってしまった。
僕の煽りに、キィも反発する。
「はぁ? その変な手品師の言ってることが全部ウソかもって言ってるだけじゃん。超能力ってのも、全部ウソかもよ」
「超能力はキィも見たでしょ!」
「あーそうか。ミィはアタシの言うことより、その雑魚そうな冴えないヒョロガリの言うことを信じてるってことね。趣味悪いね」
「あぁ、もう。キィは黙ってて。これは僕の問題だから」
「ハァ? アンタ馬鹿じゃないの? アタシが心配してあげてることも分かんないワケ?」
「キィが心配しても問題は解決しない。余計な心配しているヒマがあったら、もっと他にすること無いの?」
「つまんな、アタシ先に部屋に戻るからね。バイバイ」
キィは馬鹿馬鹿悪趣味と連呼しながら、さっとどこかへ行ってしまった。
しまった、言い方がキツかったか……。
言ってから後悔する。
ただ、それ以上に今の問題が僕の頭の中を占有していて、キィの相手をする余裕は無かった。
僕は自分にそう言い訳する。
去っていくキィに声をかけような悩みつつ、結局僕は声をかけず、紅金さんの方を向いた。
そして僕は紅金さんの話をまとめるように聞き返す。
「とにかくアンタが言ってるのは、エリさんの代わりに僕を洗脳する……ってことだよね?」
「洗脳じゃあない。記憶を流し込む。奇術ショーのときにやったのと同じだ」
紅金さんは左手を前に差し出す。
奇術ショーのときの大げさな身振りではなく、事務的な最小限の動きだ。
「オレの能力の発動条件は、手と手を触れること。覚悟が出来たら、触れろ」
手に触れたら記憶を操作する能力……。
この手に触れれば、エリさんを説得できる情報が得られるというわけか。
——この話に、乗るしかないか……。
そう思い、僕も右手を前に伸ばす。
だが、触れる直前になってあることを思い出して手を止めた。
「さっき言ってた、『交換条件』って何!?」
「オレには望みがある。その望みを叶えるのが交換条件だ」
紅金さんは聞かれるのを待っていたかのように即答した。
その表情は真剣そのもので、僕は気圧されてしまう。
「……望み?」
「オレの望みは——」
僕は紅金さんの望みを聞いた。
ウソではないのだろう。話の筋は通っていた。
少し迷ってから、僕は紅金さんの手に触れた。
僕の中に、記憶が流れてくるのを感じる。
紅金さんの中にある竹助さんの記憶だ。
他人の記憶を一瞬で読み取るという、他に例えようのない異様な感覚。
その内容のリアルさに、僕はこの記憶が事実なのだと確信する。
僕はこれからこの記憶を言葉にして、エリさんにぶつけ、タイムパラドックスを回避するんだ。
不安が徐々に自信へと変わっていくのを感じた。




