6-11 昔の昔話
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和 深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界に行ってしまった弟アオを探すため、未来少女キィと異世界を巡り歩くことになる。
昭和そっくりな異世界で、ミチは曾祖母のエリと出会うも、ミチの不用意な一言のせいで、エリは縁談を破棄すると言って走り去ってしまった。
奇術師 紅金 緑青の能力でエリの結婚相手である竹助の記憶を手に入れ、エリの説得に向かう。
「エリさん!」
僕は、最初のタバコ屋のところに戻った。
ちょうどエリさんが荷物を纏めて、自転車に乗ろうとしていたところだった。
僕がエリさんの名前を呼んだら、エリさんは手を止めて僕の方を向いてくれた。
「まだ諦めんがな? 私は結婚なんかせんだらぁ」
「僕はさっき、過去を見てきた。エリさんと……そして竹助さんの過去を見てきたから、聞いてほしい。これだけは知っててほしい」
正確には過去を見たわけではなく、竹助さんの過去話を紅金さんが聞いたという記憶が僕に移されたというだけだ。
でもその過去は、絶対に知っておくべき過去だったし、エリさんの態度は明らかにその知るべきことを知らなそうな言動をしていた。
そして、それを教えたらエリさんの気持ちが変わるという確信もあった。
エリさんは半分ウソくさそうな顔をしながらも、僕の話を聞いてくれそうな雰囲気だ。
僕は竹助さんの話を、どの順でエリさんに伝えるか頭の中で整理する。
ここに来るまでに何度もシミュレートしたし、落ち着いて話せば大丈夫なはずだ。
「エリさんは、11年前の事を覚えている?」
「11年前……? 国民学校に行きよった頃け」
「11年前の夏に、エリさんが大人にすごく怒られたことがあるはず」
「え、しょっちゅう叱られてたけど……。どれだらぁ?」
「エリさん、その頃に山で日が暮れるまで遊んで、しかも迷って山から出られなくなったはず」
「あぁ、あったなぁ。よぉ知ってるな、私も忘れよったことを。あのとき変な怒られ方した覚えがあるがな。私が怒られてるけど、直接怒られてないみたいな……。なんでだったかなぁ」
「そのとき、山で一緒に遊んだ子がいたよね」
「そうそう、全然知らん子と山に登った覚えがあるがな。たしか山で秘密基地作ろうって言い出したんだな、私が」
「その子のこと、どれだけ覚えてる?」
「なんだったかな、道をウロウロしている子がおるから、遊ぼって誘ったんだがな。それから山に行って、えらい気があって暗くなるまでずっと遊んで、私が歩くのがしんどくなったからおんぶしてもらって……。そいで、私が『頂上へ行って周りを見よ』って言ってるのに、その子は山を下って。でもおかげで帰れたってことはよう覚えてるがな」
「他に覚えてることは?」
「何だったかなぁ。その後大人に叱られて、その時たしか、神戸から疎開した子やって言ってた気がする。だから終戦になって神戸に帰ったから二度と会えないなあ、もっと遊びたかったなぁ、って思ったんだがな。……思い出した」
エリさんは、電気が走るようにバッと顔をあげた。
何かを思い出したようだ。
そして気づいたようだ。
「そうだらぁ。その子はちょっと年上くらいの男の子で、ほとんど何も喋らんくせに、私が怒られてるときに私の前に立って庇ってくれてたんだがな。もしかして……」
「その男の子が、竹助さん」
僕の言葉に、エリさんは衝撃でぽかんと開けた口を手でおさえたまま動けなくなった。
紅金さんから移された記憶によると、エリさんと竹助さんはずっと前に出会っていたのだ。
竹助さんは戦中の疎開で近くの村に住んでいたが、親戚と喧嘩して神戸に帰ると言って家を出て、このあたりで迷子になっていた。
そこで出会ったのがエリさんで、エリさんに振り回されるように遊んだ。
それから再会することなく戦争が終わり、竹助さんは神戸に帰り、そこで紅金さんと出会った。
紅金さんにこの話をするたびに、『鳥取で出会った女の子が忘れられない』と言っていたらしい。
そして竹助さんはその女の子、エリさんをどうにか見つけ出し、お見合いするところまで漕ぎ着けたのだ。
僕は婚約記念のペンダントをエリさんに見せる。
「このペンダントの柄も、そのとき二人で摘んだ花に似てるから選んだって」
「あの男の子、本当に竹助さんがあの男の子……? そいで、私に会いたくて私を探してたが……?」
エリさんは困惑した顔をする。
当然だ。無口で正体不明なお見合い相手が、実はずっと前から自分の事を想っていただなんて。
エリさんはブツブツと呟きながら言葉を絞り出す。
「なんで、なんで竹助さんは、なんでそれ言ってくれなかったんだらぁ」
「竹助さん、すごく無口だから……」
「そうだがな。11年前もずっと無口で、何も言わずに私と遊んでたがな」
そう言ってエリさんはまた考え込む。
僕はエリさんの反応を待つ。
しばらくして、エリさんは意を決したように手を叩いた。
「でも無理や、しんぼう出来ん。ほんなら」
そう言って、エリさんは大きな荷物をくくったままの自転車にまたがった。
そして、自転車を漕ぎ始めた。
は? ウソ? 逃げた?
——竹助さんの想いを受け止めるのが無理、ってこと? 説得失敗……?
僕の心臓がヒュンっと小さくなって止まったかのような感じがする。
足元に穴でもあいて奈落へ落ちていくような感覚に陥る。
僕はこのまま、タイムパラドックスで消えてしまうのか。
それとも、キィが言う通りここは異世界だから僕の存在には関係無いか。
後者であってくれと願いながら、僕は目を瞑る。
でも僕が消えたら誰が弟を探すんだ……?
——僕は、ここで消える訳には……
目を閉じていると、誰かが僕の首まわりを触った。
紅金さんか?
なにかと思って目を開けると、それはエリさんだった。
「コレは返して貰うの忘れてた。大切だでな」
そう言ってエリさんは、ペンダントを僕からはずして持っていってしまった。
「それ、大切って……」
エリさんはすぐに顔を逸らし、ペンダントを自分の首からさげた。
一瞬だけ顔が見えたが、照れているような、顔からニヤニヤとした表情を隠せないでいるような、そんな顔だった。
僕はそんなエリさんに、声をかける。
「行くって、どこへ?」
「さっきの話がホンマか、竹助さんに聞きに行かなしんぼうできん。それから、一生かけて遊んでやるんやがな。私のこと好きらしいからな、付き合ってもらうだらぁ」
!!
エリさんの説得に、成功してたんだ!
結婚する気になったんだ!
僕は心の中でガッツポーズをする。
これでタイムパラドックスは回避できる。
弟を探す旅も続けられる。
僕が世界から消えてしまう可能性をゼロにできたんだ。
エリさんは照れ隠しで顔をそらしたまま、自転車のペダルに足を乗せる。
「それから、一言だけ言わせてな」
「一言?」
「さっきの話は、竹助さん本人から聞きたかったな。けどあの人ずっと話さんだろし、聞けて良かったわ。おおけにな」
そう言って、エリさんは自転車を漕ぎ出した。
僕はエリさんが去ったあとも、しばらく見送っていた。
◇
「さて、交換条件は覚えているな?」
ドアのある方向へ歩いていると、僕に近づきながら紅金さんが偉そうな態度で言ってきた。
態度に少しイラッとしたが、紅金さんは僕の命を助けたようなものだから、僕としても従う責務がある。
気分は乗らなくても、約束は守らなくちゃ。
「覚えてる。しつこい」
僕はちょっとダルそうに言ったが、紅金さんは気にせず自信満々の表情で僕についてくる。
しばらく歩き、僕は最初の田んぼのところに着いた。
金色に光る稲穂の絨毯の上に、見慣れた部屋に繋がる四角形がポツンと浮かぶ。
僕の部屋のドアだ。
部屋の中では、キィがふわふわ浮かびながら考え事をしていた。
僕はドアをくぐり、着いてきた紅金さんも僕の部屋に入る。
『昭和の世界から去り、僕の世界に来る』
それが紅金さんの交換条件だった。
~あとがき(ネタバレ微含)~
6章はここまでです。
5章までは書き溜めでしたが、6章の後半は書いて投稿、書いて投稿でしたので、当初のプロットと異なっても突き進むような書き方になってしまいました。文章が練りきれてない部分が多々有るのが気になって仕方ないです。(書きかけのまま投稿してる部分もあった)
ただ書いてる側としては、締切に追われる事に謎の新鮮さが感じれて、一種の楽しさはあったような気がします。最終的に守れませんでしたが。
6章はなんとも言えない変な話になってしまいましたね。
異世界と言いつつ、タイムスリップのようにも見え、しかもハッキリしない。
このモヤモヤが物語にブレーキをかけていた感が否めないですが、バラバラに出てきた要素がストンと収束するような物語になって、そこは面白く出来たんじゃないかなと思っています。
どうでしょう? 「よく分からなかった」とか「ご都合主義を感じた」とかでも感想を書いてもらえると嬉しいです。
7章の投稿はおそらく10月か11月になると思います。
7章は短いので、7章全部を書き終わってからの投稿にします。
しばしなろうから離れることになりますが、今後ともご贔屓によろしくお願いします。




