6-9 点と点が線になる
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和 深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界に行ってしまった弟アオを探すため、未来少女キィと異世界を巡り歩くことになる。
昭和そっくりな異世界で、ミチは曾祖母のエリと出会うも、ミチの不用意な一言のせいで、エリは縁談を破棄すると言い出してしまった。
ミチとキィの二人でエリを説得しようとするも逆効果で、エリは婚約記念のペンダントをミチに渡してどこかへ走り去ってしまった。
「僕、半透明になってたりしない?」
僕はキィに全身を見せながら確認をとる。
タイムパラドックスモノのSFでは、じわじわ透明になって消えるのが定番だからだ。
キィは首を横に振る。透明にはなっていないようだ。
だからといってホッと一安心ということはない。だってタイムパラドックスが起きた時、どのように人が消えるかなんて誰も知らないからだ。
——どうすれば、どうしたら良い? 何が出来る?
全身がヒリヒリとした嫌な感じに包まれている。
このまま僕が消えたらどうするんだ。
アオだって行方不明なままなのに……。
もう一回、エリさんを探し出して説得するしかないか?
何日も、何週間もかけて話をしたら、エリさんは結婚してくれるか……?
でも、何の話をしたら良いんだ?
——あぁ、もう! なんでこんなことになった!?
そもそも、あの奇術師さえ居なければこんな世界に留まることは無かった。
ひいおばあちゃんに会うことも無く、僕の部屋に戻ってたんだ。
あの奇術師がアスカワ アオなんて名前だったから————
「オマエもうすぐ消えるけど、それで良いのかよ?」
突然、後ろから男の声がした。
振り向くと、見ず知らずの男が立っていた。
年齢は僕より上。大学生くらいに見える。
身長は僕より高いくらい。体格は普通だ。
髪も目も黒いが、顔はちょっと日本人離れした雰囲気がある。
僕は臨戦態勢をとり、様子を窺いながら聞き返す。
「もうすぐ消えるって、どういうこと……!」
「そんな警戒するなよ。あの女を結婚させないと、オマエが生まれなくて消えるってことを言っただけだよ」
「なんでそんなこと知ってるの!? てか、アンタは誰?」
「おいおい、さっき会っただろ。メイクを落としただけでもう分からないか?」
そう言って、男はトランプをどこからともなく出した。
ハートのクイーンだ。
「アスカワ……アオ……?」
「アスカワアオは、オマエを誘き寄せるための芸名だ。本名は紅金緑青」
僕を誘き寄せるため?
そういえば、奇術ショーでコイツ、僕にむかって『待ちわびた』とか言っていた。
僕はコイツの作戦どおり、まんまとショーを見に行ったってことか。
コイツ、何者なんだ……?
ただ、その前に言っておくべきことが有る。
「そもそも、アンタのせいで大変なことになってんの! どうしてくれるの!」
「どうするも何も、オレはショーをしただけだぜ」
「アンタがショーを開いたせいで、巡り巡って僕が消えそうになってるんでしょ!」
全ての根本原因がこの紅金って男のせいなのは間違いない。
だから、これだけは言っておかないと気が済まないし、言ったら言ったでちょっとスッキリした。
紅金という男は、僕の言ったことなど意に介していないような態度で、話を続ける。
「それを言い合ったところで、問題が解決するわけじゃない。話を戻すぞ。問題は、どうやったらさっきの女と結婚するか、だ」
その方法が分かれば苦労はしない。
どうやったら結婚してくれるか分からないから、僕もキィも説得に失敗した。
コイツは何か策があるのだろうか?
紅金さんの話に、キィが反応する。
「この、生まれてからずっと独り身そうなヒョロ男に、結婚の話とか分かるの?」
「それが、自信満々で説得しようとして大失敗したヤツのセリフか?」
キィの言葉に、紅金さんはサラリと返した。
キィは痛いところを突かれたようで、「ぐぅう」と言うだけで何も返せなくなった。
キィの代わりに僕が紅金さんに言い返す。
「そういうアンタは、どうやってエリさんを結婚させるつもり? デカい態度して、無策ってことないよね!」
「オレは超能力を使える。さっきの奇術ショーで見せただろ? 記憶を書き換えて竹助さんを惚れさせることができる」
はい、アウトー!
いくら僕が消えるかどうかの瀬戸際でも、ひいおばあちゃんの恋愛感情を書き換えるなんて倫理的にアウトすぎる。
「そんな方法は、認められない。人としてダメでしょ」
「否定するのは勝手だが、代案はあるんだろうな?」
うっ……、代案なんて考えてない。
倫理的にアウトな方法でも解決するなら良いのでは? と思ってしまう。
だって、僕の生存がかかっているのだから。
でも、ダメなものはダメ。回避する方法を考えねば。
考えろ、僕は主人公なんだぞ。
エリさんの言葉にヒントがあったはずだ。なぜあの人は結婚を嫌がるか?
結婚を嫌がるのは、結婚が怖いから……?
僕だっていきなり『この男と結婚しろ』なんて言われたら怖いし拒否する。
なぜ怖い?
それは……。
「エリさんが、竹助さんの事を何も知らないから……」
僕はぼそっとつぶやいた。
知らない男と同居させられるという不気味さ。
当たり前のように結婚結婚と言っているけど、よく考えたら変な社会制度だ。
知らない人間とこれからずっと生きろなんて言われて、決断できるわけが無い。
「人は、知らないもの、分からないものを怖いと思うんだ。だから恐怖を除くには、知れば良い」
僕の中の点と点が繋がり、線になるのを感じる。
竹助さんは寡黙な人で、エリさんはあの人について何も知らないと言っていた。
知らないから、エリさんは結婚したくないんだ。
なら、知れば良い。
僕は紅金さんに向かって、決意表明のように言う。
「僕は竹助さんに会いに行く。そして竹助さんの事を知って、エリさんに伝えるんだ。アンタの超能力なんて無くても……」
「それは、エリさんって女が旅に出るまでに出来るのか?」
紅金さんの返しに僕はハッとする。
竹助さんの事をまず僕が知ろうにも、そもそも竹助さんがどこに住んでるかすら知らない。
エリさんは明日にでも旅に出ようと思っているのに、間に合うわけ——
「はぁぁぁ。仕方ねぇな」
僕がくよくよと悩んでいるのを見かねてか、紅金さんは大きなため息をした。
僕は一瞬ビクッとしてしまう。
紅金さんは達観したような表情で続ける。
「折衷案だ。君が納得できるベストな方法で行こう。ただし、交換条件がある」




