6-7 婚約破棄阻止大作戦
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
昭和そっくりな異世界で、ミチは曾祖母のエリと出会い、一緒に銭湯へ行く。
ミチの不用意な一言のせいで、エリは縁談を破棄して旅に出ると言い出してしまった。
風呂から上がり服を着ながら、僕は頭の中でぐるぐると考える。
——ひいおばあちゃんがもし旅に出たら、おじいちゃんが生まれないのでは……?
この世界は昭和30年。
昭和64年が平成元年で、平成31年が令和元年のはずだから、計算すると令和8年は昭和101年。
おじいちゃんが今年70歳になったはずだから、逆算するとおじいちゃんは昭和31年生まれ。
つまり、エリさんが今すぐ結婚して妊娠してくれないと、おじいちゃんの生まれ年が変わるのだ。
もし縁談を破棄して数年かけて旅に出てしまったら、未来が変わってしまう。
——僕が「自転車で富士山まで行ったら?」なんて言ったから! このままだとタイムパラドックスが起きてしまう!
いや、まだ可能性はある。
◯ラえもんの『東京-大阪理論』で言えば、おじいちゃんが生まれなくても僕は生まれる。
もしかしたら僕の世界とは関係ないパラレルワールドかもしれない。
それならタイムパラドックスは起きない。
でも、そうじゃなかったら?
◯ック・トゥ・ザ・◯ューチャーみたいに僕の体が半透明になってから後悔するわけにもいかない。
全身の血流が逆流するような、ぞわぞわする感覚が走る。
——このままでは、僕が消える!
なんとかして、エリさんの縁談破棄を阻止しなければ!
僕は風呂上がりの牛乳を飲みながら決意した。
◇
銭湯から出たところで、すかさず声をかける。
「エリさん!」
「なんかえ?」
「一人旅より、結婚のほうがずっと大事です。旅はいつでも行けますが、結婚は今回を逃したらもう無いかもしれないですよ!」
単刀直入に説得する作戦。
エリさんとひいおじいちゃんは、僕が何も言わなかったら結婚したはずなのだ。
結婚が大事と言うアドバイスだけで、旅を諦めてもおかしくない。
だが、エリさんはきょとんとした顔で答える。
「逆じゃろう。縁談なんかいつでもええが、旅は独り身でないとできんがな」
正論!
この時代は多分、お見合いが当然の時代。
エリさんは20歳くらいだし、3~4年旅に出たところで結婚相手に困ることは無いだろう。
「じゃ、じゃあ旅に出るにしても、結婚してから旦那さんと旅に出るとかは?」
「いやぁ、竹助さんと旅に出るんは無理やぁ。あの人、寡黙で何考えとるか分からんがえ」
「とにかく! 旅なんてさっぱり諦めて、結婚した方が身のためです。旅なんて疲れるだけで、無駄ですから」
僕は力を込めてエリさんに言い寄る。
ここで引き下がるわけにはいかない。
エリさんは眉をひそめ、困惑した顔で僕を見る。
「旅は無駄て……。さっき旅は良い言いよった人が何を言いよんかえ」
だ、ダメだ……。エリさんを説得できそうにない。
無策で人を説得なんて出来るわけが無かった。
こうなったらどうする? 強硬手段? でもこの場合の強硬手段って何?
悶々と悩んでいると、頭の中に声が響いてきた。
『ねえサァ、この人が結婚しなかったら何か問題あるの?』
キィの声だ。
僕の挙動不審を見て異変に気づいたのか、ギアを使って頭の中に声を届けているのだろう。
未来技術、便利すぎるなぁ……。
僕は脳内でキィに返事をしてみる。
『エリさんは僕のひいおばあちゃんだから、ここで結婚しなかったらタイムパラドックスが起きて、僕が消えるかもしれない』
『それであんな変なこと言ってたの? あんなので説得できるわけないじゃん。馬鹿じゃない?』
『馬鹿ってなんだよ! こっちは必死なんだよ』
『アタシに任せてみな』
そんな声が脳内に聞こえると同時に、キィが僕とエリさんの間に割って入った。
僕より頭ひとつぶん小さいはずのキィが、僕より大きく感じるくらい今は頼もしい。
だが、エリさんはそれ以上に巨大に感じる。
大人の貫禄を醸しながら、エリさんはキィの方を見てニヤリとした。
「お、キィちゃんも私に結婚しろって言うんかえ。ええがな、かかってきんさい」
頼む、キィ! 僕を消さないで!
~あとがき(ネタバレ微含)~
ドラえもんの大阪理論(セワシ理論)についてちょっと解説。
ドラえもんの1話にて「のび太の結婚相手が変わったら、未来の子孫であるセワシは消えるのでは?」という話が出てくる。
それに対しドラえもんが「東京から大阪に行くとき、飛行機でも新幹線でも車でも、道は違っても方向さえ正しければ大阪に着く。同様にのび太の結婚相手や子供が違ってもセワシは生まれる」という理論。
直感的には「そうはならんやろ」だけど、「なっとるやろがい」で押し通せるのが藤子先生のスゴイところ。
今話はSFチックな話から始まりましたけど、SFってだけで毛嫌いする人は多いので正直ビクビクです。
どうでしょう? この程度のSFなら問題ないですかね?




