6-6 ショーの後は
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界に行ってしまった4歳の弟アオを探しに、ミチはキィという少女とともに、昭和そっくりの異世界に来た。
ミチは曾祖母のエリと出会い、『アスカワ アオ』を名乗る男の奇術ショーでトランプの手品を見た。
「アンタ、何をされたの!?」
奇術ショーが終わり、観客が公民館から出ていくなかでキィが怪訝な顔で聞いてきた。
何をされたって、何が?
身に覚えがない。
キィの横にいるエリさんも、どういうことだろうと言った感じでキィを見ていた。
「最初に見たカードはクラブの5だったのに、後で別のカードを見たって言ったじゃん。なんかおかしいよ」
「え? 最初からハートのクイーンだったはず……」
「ギアを使ってこっそりアタシも見たの! ミィはクラブの5を引いた。間違いなく!」
どういうこと?
確かに違和感はあった。
僕はハートのクイーンを引いた記憶はあるけど、『本当にそうだっけ?』という感覚が何故かある。
『財布をカバンに入れたっけ?』とか『玄関のカギをかけたっけ?』とか、数分前のことなのに記憶に自信がないということはよくあることだけど……。
とはいえ、手品で引いたカードが自信が無いというのは、少し変だ。
キィの言うことが正しければ……
——僕の記憶が書き換えられた?
そう考えるしか無い。
奇術ショーなんてものじゃない。本当の奇術、超能力者だ。
少年マンガにある『超能力者は実在するが、世間から認知されていない』という可能性が頭に浮かぶ。
キィが、あのアスカワアオという奇術師は異世界から来たと言っていた。
彼は超能力がある世界から来たと断定して良いだろう。
もしくは、超能力じゃなくて未来技術か?
「ねぇ、キィ。キィのギアを使えば、記憶を書き換えるなんてこと出来る?」
「ハァ? そんなの倫理的にアウトに決まってるじゃん。もし出来ても搭載しないよ」
キィがきっぱりと答える。
キィの居た未来世界はあんまり倫理観とか無さそうだったけど、無いわけではないのか。
そして、その倫理的にアウトなことが出来るアスカワアオ。
一体何者なんだ……?
僕がじっと黙って考えていると、エリさんが口を挟んだ。
「あの奇術師が弟くん……でないみたいだな。で、二人はこれからどうするだ?」
これから……?
キィは僕を見ている。僕に決めてほしいようだ。
僕としては、奇術師が気になる。
次の一手は、奇術師にコンタクトをとって、弟について何か知っているか聞き出すことだろう。
彼は『待ちわびた』とか言っていたし、この公民館の前で待っていれば、向こうから話しかけてくる気がする。
答えに悩んでいると、エリさんがニヤッとしながら先に口を開いた。
「行くとこ無いなら、あそこ行こうな」
「あそこって? 僕たち、ここで待っておかないと……」
「そげなことええが。来てぇな」
◇
カポーン
木製の桶を床に置く音が響く。
昨日はお風呂に入らなかったし、熱めのお湯が身にしみて気持ちいい。
キィはこんなに広いお風呂が初めてなのか、平泳ぎであっちこっち泳いでいた。
僕はエリさんとキィと三人で、銭湯に来た。
——来てしまった。
アスカワアオの正体と風呂を天秤にかけて、風呂を選んでしまった。
でも、いざ風呂に入るとどうでも良くなる。
ぶっちゃけ今までの世界も謎を放置してきたし、いまさら異世界の謎が残ってたところで……。
まったく、お風呂文化というのは、罪な文化だねぇ。
昭和30年の銭湯。
偏見として『なんだかボロそう、汚そう』と思っていたけれど、普通に綺麗だった。
建物自体も年季が入っている感じは無かったし、建てたのも数年以内なんだろう。
おかげで落ち着いてお風呂を楽しめている。
古いアニメとかである『富士山の壁画』も見れて、もうこの世界の楽しむべきところは全部楽しんだような気分だ。
全身脱力して天井を見上げながら、エリさんが話しかけてきた。
「どうだがな、この国の銭湯ちゅう文化は」
「最高……。来た甲斐があった」
「それはええがな。この後は、もう帰るんかえ?」
「いえ、あの奇術師の正体だけ気になるので……」
さっきまでバタ足していたキィが、いつの間にか近くに来ていて、僕たちの会話に割り込んできた。
「えっ、もう次の世界に行くんじゃないの? アレが弟くんじゃないなら、居る意味ないじゃん」
キィの反応が意外すぎて僕も驚く。
さすがに気になるでしょ。
調べられるなら、調べたほうがスッキリする。
まあ、調査より銭湯を優先した僕が言えた話ではないのだけど。
「次の世界かえ。羨ましいなぁ、私も旅とかしたいなぁ」
「旅は大変なところもありますけど、楽しいところもありますもんねぇ」
僕は風呂の熱でぼぉっとしながら、「僕たちのパーティーにエリさんを加えたらダメだよなぁ」とか考えていた。
エリさん、つまり僕のひいおばあちゃんを現代に連れてきたら、タイムパラドックスで僕が消える可能性がある。
この世界が僕の現代日本と関係ないパラレルワールドなら影響無いけど、そうじゃなかったときのリスクがデカすぎる。
エリさんはこの世界に居てもらわないと。
「エリさんも旅行とか行くんですか?」
「1回だけ出雲に行ったことあるだけで、鳥取から出たこと無いがなぁ。せっかくお父ちゃんがよその国でも使える名前だ言うてつけたのに、勿体ない。大阪でも東京でも、行ってみたいなぁ」
「良いんじゃないですか? 自転車に乗って野宿とかしながら富士山までとか、ちょっと憧れますもんねぇ」
特に深く考えず、僕はペラペラと喋った。
壁に富士山の壁画があったから、富士山に行きたいなと思ってしまったのだ。
そしてこの時代は車が少なそうだし、移動手段は自転車かなと思って言ってしまったのだ。
それが失敗だった。
エリさんはザバァッっと立ち上がり、決意を固めたように拳を握る。
「ええな、富士山。それも自転車で。縁談とか言うてるヒマないわ。何年かかけて、日本一周や。今せんと後悔するけ、せな!」
縁……談……?
急に想定外な話が出てきた。
「縁談って、何ですか?」
「私、ちょうどこの間、お見合いがあってん。」
「……そのお見合い相手の名前は?」
「そういえば、あの奇術師と同じやな。飛鳥和竹助て言うてた」
その飛鳥和って、僕のひいおじいちゃんでは?
ひいおじいちゃんとエリさんがここで結婚しなかったら、僕のおじいちゃんが生まれず、僕も生まれないのでは?




