6-5 何かがおかしい
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界に行ってしまった4歳の弟アオを探しに、ミチはキィという少女とともに、昭和そっくりの世界に来た。
ミチは曾祖母のエリと出会い、『アスカワ アオ』を名乗る男の奇術ショーを見に来るが、明らかに弟ではなかった。
アオを名乗る奇術師は、注目を集めるように手を大きく広げながら、慣れた口調で解説を始める。
「さて、今からやる奇術は透視。西洋ではクレアボヤンスと呼ばれています。この少女にカードを選んでもらい、それを当てるという奇術です」
そう言って、奇術師はテーブルの上に滑らかにトランプを並べた。
この中から、好きなカードを選べということだな。
僕は少し悩んでから、右寄りのカードを一枚選び、カードの列から取り出した。
「ではそのカードを見て、覚えてください。まだ誰にも言わないでくださいね」
奇術師に言われた通り、カードをスッと表にして見る。
クラブの5。
なんの変哲も無いトランプだ。
特に細工は見当たらない。
「覚えたら、誰にも見せずにまた机の上に置いてください」
クラブの5を、裏向きにして机の上に置く。
さっきまで並べられていたカードが、いつの間にか山にまとめられていた。
おそろしく速い手つき、僕は見逃してしまったようだ。
「では私は今からこのカードに書かれた記号を読み取ります。そのための、儀式を今から行います」
奇術師はカードに触れず、輪を描くように両手を僕に向けて伸ばす。
「私の両手と、彼女の両手で、大きな円をつくります。この円が、全てを見通す目になり、このカードに書かれた記号を当てるのです。私の手に触れてください」
よくわからない演出だ。これが昭和のマジックか?
言われたとおり、僕も輪を描くように両手を広げる。
何か気持ち悪さを感じたので、ギリギリ奇術師と指先が触れるか触れないかというところで、手を止める。
すると奇術師がぐっと手を伸ばし、指先で僕の手に触ってきた。
驚いて少し手を引いてしまう。
——何だコイツ、いわゆるコンビニの釣り銭をもらう時に女性店員だったら手に触ってくる系のオッサンか!?
そんな僕の気持ちは微塵も気にせず、奇術師は服の中から封筒を取り出しながら、ショーを続ける。
「コレで今私は、このテーブルの上に置かれたカードを透視できました。そして私がいま取り出したこの封筒の中に、透視結果を念写します。はぁぁぁ!!」
奇術師は封筒に手をあて、気合を入れる。
透視できたのなら口に出して言えばいいのに。
何かタネがあるのだろう。
念写が終わったらしい奇術師が、僕にたずねる。
「では、自分が覚えたカードが何かを言いながら、他の皆さんにテーブルの上のカードを見せてください」
僕は言われた通り、テーブルの上に1枚だけあるカードを拾い上げ、振り向いて観客の方に見せながら言う。
「僕が覚えたカードは、ハートのクイーン」
観客がざわっとする。
何か反応がおかしい。
僕は観客に見せているカードを確認した。
「えっ!?」
それは、クラブの5だった。
僕が覚えたハートのクイーンではない。
——いつの間に、カードがすり替えられた?
僕は確かにハートのクイーンを見た。
そういう記憶がある。
だがこのカードはクラブの5だ。
カードをすり替えられたとしか思えない。
でも、奇術師は一瞬もカードを触っていなかった。
どういうトリックだ……?
奇術師の方を向くと、ニヤッとした顔で僕の方を見ながら、テーブルの端に置いている封筒を指さす。
「では、この封筒を開けてください。開けにくければ破ると良いですよ」
僕は言われた通り、封筒を手に取る。
封筒はしっかり糊付けされていたので、言われた通りビリッと破る。
そして中から出てきたのは……カードだった。
ハートのクイーン。
念写したようには見えない、ちゃんとしたトランプのカードだ。
出てきたカードを観客に見せる。
観客席からおおっという声と拍手があがる。
――僕の覚えたカードは本当にハートのクイーン……だよね?
何かがおかしい気がする。




