6-4 待ちわびたよ
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
4歳の弟アオが異世界に行ってしまった。キィという少女と異世界をわたり、弟のアオを見つけることを目標に決める。
パラレル昭和日本としか思えない異世界で、「アスカワアオによる奇術ショー」を若かりし頃の曾祖母と見に行くことになる。
父の父の母、つまり僕の曾祖母は『えりざべ寿』という、一度聞いたら忘れないくらいインパクトの大きな名前だ。
墓参りのたびに、墓石に彫られた名前を見て変な名前と思っていた。
その名前の主が、今目の前にいる。
いかにも昭和って感じなブラウスに、モサっとしたスカートの、20代くらいの女性。
サザ◯さんを思わせるような、不思議なまとめ方をした黒髪。
そして首からは大きな花柄のペンダントをぶら下げていた。
——あのペンダントには、見覚えがある。
僕がまだ小学校低学年の頃に、オモチャにして遊んでいたペンダントだ。
あれ、ひいばあちゃんの遺品だったのか……。
そうなると、ますますこの世界がパラレルワールドなのか疑問に思えてくる。
知っている物、僕の世界と繋がりのある物がこんなにあると、もしかしてあのドアが過去に繋がったのではと不安になってきた。
変なことをしたら、タイムパラドックスとか起きるのでは?
迂闊な事をしたら僕が消えてしまうかもしれない。
——ここは慎重に、僕の正体をエリさんに隠しておいた方が良いだろう。
公民館に向かいながらそんな事を考えていると、エリさんが僕たちに話しかけてきた。
「で、アンタらの正体は何がな? どこから来たんがな」
早速、タイムパラドックスの危機!
『あなたのひ孫です』なんて言ったら、どんなタイムパラドックスが起きるか……。
僕が答えに困っていると、キィが勝手に答える。
「アタシたちは、異世界から来たの。ここよりもっっとずっっと科学が発展してるんだよ」
「ホント? 未来の街ってどんなな!? 車が空を飛んだりするが? 大きなロボットが街を守ってたりせんのか!?」
「お姉ちゃん、馬鹿だなぁ。何にも知らないんだ。ロボットは街を壊すんだよ」
「えー、そのほうが変だがな。ロボットで生活が豊かになるっちゅうて本に書とったよ」
エリさんとキィがロボット談義をするのを、僕はただ黙って聞いていた。
この二人の会話が妙に噛み合っている間は、多分パラドックスとか起きないと思いたい。
◇
公民館にはすぐ着いた。
思ったより新しそうな建物で、まわりの家が木が丸出しの木造が多いのに比べ、この公民館はちゃんとした造りになってそうだ。
公民館の入口には『籤浦村 公民館』と書かれている。
籤浦というのは、僕の出身地と同じ名前だ。
昭和の大合併と平成の大合併で現代では市になってしまったが、当時は村だったのか。
公民館の入口で奇術ショーの入場料を僕とキィとエリさんの3人分払い、中に入る。
中にはそれなりに人が入っていた。
ショーは既に始まっていて、シルクハットから色々な物を出す手品をしているところだった。
舞台の上に立つ青年が、アスカワ アオなのだろう。
年は20歳か、それより若く見える。
髪は黒髪オールバックで、ワックスか何かでテカテカしている。
服は燕尾服。いかにも奇術師という感じの服装だ。
「あれが弟くんじゃないの?」
ヒソヒソ声でキィが聞いてくるが、僕は顔を左右に振ってNOと答える。
明らかに僕の弟のアオとは全然似ていない。
弟は父に似て垂れ目だが、この人は明らかに垂れ目ではない。
——ただの同姓同名か?
でもキィは納得していない。
ギアをメーターに変形させながら、奇術師を指さす。
「異世界の波長の源は、明らかにあの男だよ? 血を採ってDNAとか診たら確実に姉弟って分かるし、ちょっとぶん殴ってみるね」
「パワーで解決しようとしないで!」
そんな会話をしている間にも、ショーは進む。
アスカワアオが帽子から出したカラーテープを回収し、大げさな仕草でお辞儀をする。
「では次が最後となります。ここにあるのは、何の変哲も無いただのトランプ。これを使って目新しい奇術を行いましょう」
アスカワアオがトランプを器用に操りシャッフルをする。
ただシャッフルしているだけなのだが、見ている人には奇術に見えたのか「おおっ」と小さな歓声があがる。
その間に助手の人が机を出してきて、トランプは机の上に置かれる。
「さて、みなさんの中の誰かに手伝ってもらいましょう。そうですね……、奥にいるそこの貴方。こちらに来てもらえますか? 緑の服の、入口側のお姉さん」
アスカワアオは手のひらを上に向けて、誰かを指名した。
それは明らかに、僕の方を指していた。
「えっ、僕!?」
「運がええなぁ。行ってき」
そう言って、エリさんに背中を叩かれる。
キィは羨ましそうに僕をじっと見ていた。
僕がステージに上がるあいだ、観衆から「あれは誰だ? 見たこと無い娘だ」と声が聞こえてくる。
「知らない」「奇術師の仕込んだサクラじゃなか?」「でも、楢森さんの娘と一緒に来てたえ」
ざわざわと声がする。
腰の高さまである小さなテーブルを挟んで、僕はアスカワアオと対峙する。
すると僕にだけ聞こえるような小さな声で、アスカワアオは言った。
「アスカワ ミチだね。待ちわびたよ、この時を」
この男……僕のことを知っている!?




