6-3 エリザベス
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
4歳の弟アオが異世界に行ってしまった。キィという少女と異世界をわたり、弟のアオを見つけることを目標に決める。
パラレル昭和日本としか思えない異世界で、「アスカワアオによる奇術ショー」のポスターを見つける。
ポスターに描かれている名前を一文字ずつ見直す。
『アスカワ アオ』。
たしかに僕の弟の名前だ。
だが僕の弟は4歳で、このポスターに描かれている男は明らかに成人だ。
偶然一致の同姓同名か?
こんな珍しい名字で同姓同名なんて考えにくい。
でも無視するわけにはいかない。
次の行動は『この奇術ショーを見に行く』一択だ。
「開催日は!? 場所は!!?」
ポスターには「7月10日 午後1時から」とある。
さっきの新聞には7月9日と書いてあった。
つまり、明日。
この世界で1日待てば、『アスカワ アオ』に会える。
弟に会えるか……、少なくとも弟に関する情報は何か得られるはず。
「行こう。これは絶対に見なくちゃ」
僕は確認するようにキィの顔を見る。
キィはVサインで、僕に応えた。
となると今日はどこで一泊しよう……。部屋に戻るか?
すると、さっきのタバコ屋のおばさんが声をかけてきた。
「ちょい、お嬢ちゃんらぁ!」
「どうしたの、おばちゃん」
「お嬢ちゃんら、あのポスターの奇術師を見たいのかい? だったら急がんと」
「え? ポスターには明日って……」
「この新聞は昨日の夕刊だがな。7月10日は今日だ。もうすぐ二時になるけぇ、早う行かんと終わるで!」
なんだって!!
なんで1日前の新聞なんて店に置いてるんだ。
「公民館はあっちだがなぁ、道がややこしいけぇ……。あの子に頼むか。おーい、エリ!」
おばさんは店の中に向かって、誰かの名前を呼んだ。
それに応えるように、「なんや」と言いながら店の奥から女の人が出てくる。
20歳くらいの人だ。
この人が『エリ』なんだろう。
エリさんは気だるげにおばさんに話しかける。
「お母ちゃん、どげぇした?」
「この子らぁショーを見たいらしいだで、案内してやってくれんかえ?」
「え? どこ? 公民館? べつにええけどな」
「ほれ、もう始まっとるけぇ早よ! 嬢ちゃん、金はあるかぇ?」
お金はあると答えようと思ったけど、僕の今持ってる金は全部ペ◯ペイだ。
この世界で使えるとは到底思えない。
仮に現金があったとしても、多分使えないけど。
「お金……実は持ってないです……」
「地球には慣れとらんだらぁ。ほれ、これやるわ」
そう言っておばさんはお札をくれた。
「ありがとう」とおばさんに感謝する。
見ず知らずの人にぽんと金を出せるのは、時代性だなあと思った。
貰ったお札には「百円」という文字と、ヒゲがハの字になったお爺さんが描かれていた。
歴史の教科書で見たこと有るヒゲだ。
——このヒゲは、どう見ても板垣退助……。
この世界、パラレルワールドとかじゃなくて本当に過去の日本なのでは?
考えているうちに、エリさんがいつの間にか草履を履いて外に出ていた。
「ほら、行くけぇ! 離れんようにな」
そう言って、スタスタと歩いていく。
僕とキィはエリさんの後をついて行く。
追いついたところで、キィがすかさずエリさんに話しかけた。
「ねえねえ、アンタ名前はなんて言うの?」
「私の名前は、楢森えりざべ寿。変な名前やろ? これからは国際社会の時代だって言うて、お父ちゃんがつけた名前だがな」
僕はその名前を聞いて戦慄が走った。
その名前に聞き覚えがあったからだ。
——えりざべ寿は、僕のひいおばあちゃんの名前だ。




