5-4 行こ?
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
異世界を巡る中でキィという少女と出会い、二人で旅をするようになる。
そんな中、4歳の弟が行方不明になっていると知る。どう考えても、弟が異世界に行ってしまったとしか思えない。
僕の弟、アオが生まれたのは僕が小6のとき。
11歳も歳が離れた弟なので、僕も育児に参加して、何度かオムツを替えたこともある。
一緒にお風呂に入って乳首を吸われた事もある。
母親が家事に専念している間に僕がアオにかまってあげることも多く、アオは僕によく懐いている。
だからアオはヒマになったらすぐ僕の部屋に遊びに来る。
受験シーズンでもいっぱいかまってあげたものだ。
そんなアオが、この土日に僕の部屋に来ないわけがない。
アオは僕の部屋のドアを開け、異世界に行ってしまった。
考えたくもないが、そうとしか考えられない。
――本当に……?
もしかしたら来たかもしれないが、そのまま踵を返してるかもしれない。
もしかしたら本当にかくれんぼしてて、5分後にでもドタバタとドアの向こうを走ってるかもしれない。
隠れるとしたら押入れ? お風呂? 庭の倉庫?
『弟が異世界に行ってない可能性』が次々僕の頭の中を駆け抜ける。
――違うだろ! 母さんが探してるってことは、本当に居なくなってるんだろ!
僕は心のなかで、自分で自分に叱責した。
現実が甘い可能性に賭けてないか?
それはただの正常化バイアスじゃないか?
最悪のパターンから逃げちゃだめだ。
「あぁもう! どうしたら良い!? 考えろ僕!!」
選択肢は2つ。
『弟が異世界から帰ってくるのを待つ』か。
『誰かが探しに行って連れ帰る』か。
帰ってくるのを待つなんて悠長なことは言ってられない。
『連れ帰る』一択だ。
誰かが僕の部屋の外からアオの居る異世界に行き、アオを探して連れて帰る。これしかない。
だがここで、ふと不安が過る
――アオの居る異世界に、どうやって行くんだ?
アオがドアを開けて異世界に行った後、ドアを開けっ放しているなら追いかけられるだろう。
でも、ドアが閉まっていたら?
アオは受験シーズンに僕の部屋によく遊びに来て、そのたびに母さんに連れて部屋を追い出されていた。
だがドアを閉めていたら僕の部屋に来ていることが母さんにバレにくいということをいつの間にか覚え、僕の部屋に来たらまずドアを閉めるクセが付いていた。
嫌な予感がしながら、僕は急いでスマホを取り出し母さんに電話する。
「もしもし、母さん! 僕の部屋のドアって開いてた?」
「ミチさんの部屋のドア? いいえ~、閉まってましたよ」
母さんの言葉を聞くなり、僕の全身の血管がキュッと縮むような感覚がした。
僕は何も言わず、何も言えず、母さんとの通話を切った。
アオは、完全に異世界に取り残されてしまったのだ。
異世界に行く気満々だった自分が言うのも難だが、アオは4歳にしてこの世界を去って、別の世界の人間になってしまったのだ。
アオはどんな世界に行ったのだろう。
僕が羨むような良い世界なら良いけど……。
そう思いながらふとドアを見る。
まだジャングルの世界につながったままだ。
すでにキィが巨大オウムの死体をドアの向こう側に移動させていた。
もしアオが行ってしまった世界がこんなモンスターの居る世界だったら……。
ふと、僕の脳裏にアイデアが浮かんだ。
――アオがこのジャングルの世界に居る可能性は?
アオがドアの向こうから異世界に行ったとして、こちらのドアから行った異世界が偶然同じ世界ということだってあるはずだ。
というか、僕が主人公ならそれくらいの奇跡がおきたっておかしくない!
一縷の望みを託し、僕はキィに聞いた。
「ねぇ、キィ。もしもこの異世界に僕の弟が居たとして、キィの世界の技術を使えば見つけられたりする?」
「弟くん、この異世界に居るの?」
キィのド純朴な返事に、僕は一瞬たじろいでしまう。
弟がこの世界に居るなんてただの願望に過ぎない。
でも、なんだか僕の中ではそれが確信に変わり始めているのも感じる。
「うん、居る。探せる?」
「たぶん出来るはず。科学班がミィを見てなんかセンサー搭載したとか言ってたし」
!!
アオを見つけられる!
僕の心拍数が興奮で高ぶってきたのを感じる。
キィはジャングルの世界に踏み込み、左手をスッと上げて、ギアをアンテナに変形させ高く上に伸ばしていった。
しばらくしてから、キィはギアを元の形に戻しながら、僕の部屋の中に戻ってきた。
その顔は腑に落ちないような顔をしていた。
「あのね、ギアに新しく追加された機能は【異世界物質があるか】を調べる機能なの」
キィは突然、ギアのことについて語り始めた。僕はそれを真剣に聞く。
「あらゆる物質には【#&$%!波】っていう第十三象限振動があって……、ミィの世界ではまだ発見されてない特性だから名前が無いんだけど、なんかそういうのがあるんだって。でも異世界の物質があると、その周波が大きく乱れるらしい。で、科学班が搭載したのはその乱れがあるかを……」
「難しい話はいいから、結論を教えて!」
キィの解説が焦れったくなって、僕はつい急かしてしまった。
キィはちょっとムッとした顔をしてから、結論を話し始める。
「えーっとね、要はこのジャングルに【異世界にとっての異世界物質】は無かったの。だからたぶん……」
「たぶん……?」
「このジャングルの異世界に弟くんは居ない」
少しためらうように出てきたキィの言葉に、僕の中で何かがバラバラと崩壊するのを感じた。
無限のように続く沈黙。
その中で、どうやったらアオがこの世界に帰れるかを考える。
でも、何か考えるたびに急に『アオにはもう会えない』という思考が割り込んできて、考えに集中できない。
どうすれば? → 『もう手遅れ』
僕には何が出来る? → 『弟は行方不明のまま』
未来世界に行く前にすべきだったことは? → 『考えるだけ無駄』
まず今やるべきことは? → 『 』
悶々と、僕の中で思考になってない思考が回り続ける。
そのとき、不意に手を引っ張られ、思考が急に現実に戻される。
「次の世界、行こ?」
キィが僕の手を掴み、そう言った。
キィを見て、ハッと現実に帰る。
弟がこのジャングルに居るとか、そんなわけ無いってわかりきっているじゃないか。
『ここに弟は居ない』。
この現実をまず受け止めよう。
そして、次の世界、その次の世界、さらにその次の世界に弟が居る可能性に期待しよう。
異世界が無限にあるわけない。
現に、魔王の城には二回も繋がったじゃないか。
いつかは、アオの居る異世界に行ける。
そう思うしか無い。
いや絶対会える。
僕は嬉しくなっておもわず、キィをハグをした。
僕の中の不安が少しずつ消えていっている気がする。
「ちょ、ちょっといきなり何すんの!」
僕はこぼれる笑みを隠しながら、キィをからゆっくり離れる。
キィは僕の奇行に戸惑いながら、少し照れるような顔をしていた。
僕はドアを閉めた。
そして期待と希望を念じながら、スライド式のドアをゆっくりと開けた。
~あとがき(ネタバレ微含)~
5章はここまでです。
『弟を探す』という、異世界へ行く具体的なモチベーションが出てきましたね。
物語においてモチベーションはすごく大事なので、本当はもっと早く弟を行方不明にさせたかったのですが、タイミングが無くてこんなに後になってしまいました。
そして書き溜めもここまでです。
6章以降は不定期連載で、6章が書き終わるのですらいつになるか分からないです。
全13章でプロットは組んではいますが、それを文章に出来るのはいつになるやら……。
完結はさせたいので、完結させないと他の話を書く気になれないので、絶対に完結させますが、すみませんが末永く(←永くするな) お待ちください。




