5-2 口喧嘩
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
終末後の世界でキィという少女に出会い、命からがらミチとキィは元の世界に戻り、気を失うように眠った。
目が覚めるとキィが居ない。ジャングルの世界に一人で行ってしまったようだ。
「キィーー!! どこ行ったーーー!!??」
大声で叫ぶが、木のざわめきが聞こえるだけで返事は無い。
あんなに辛そうだったのに、なんで部屋でゆっくり休んでないんだ?
小学生くらいの見た目のわりにしっかりしている子だと思っていたけれど、自分の体調も分からないくらいヤンチャなのか。
それとも、僕の部屋が自分の世界と違いすぎてパニックになったとか……?
考えても仕方がない。
僕はもう一度名前を呼ぼうと大きく息を吸った。
バキバキ――
木が折れる音がした。
僕はビクビクしつつ警戒しながらあたりを見渡す。
すると、木々の奥に白いなにか生き物のようなものが見えた。
バキバキメキ――
明らかにこちらに向かっている。
さっきの僕の声に反応したのか!?
その生き物は、白いだけではない。
赤や緑の模様が全身に入ったド派手な色をした生き物だ。
バキメキメキメキ――
そして、思っていたよりはるかに大きい。
全長4メートルは確実にある。
まるでダンプトラックがじわじわと近づいて来ているかのようだ。
「あれは……オウム!?」
巨大な生き物の表面はフワフワした羽毛で覆われていた。
某アニメ映画に出てくる、眼がたくさんあって、蟲笛を聞かせたら大人しくなるあの怪物ではない。
ペットとして世界中で人気なあの派手な色の鳥のほうだ。
そしてそれを何十倍にも大きくしたかのような生き物が、僕の目の前にいる。
それが口を大きく開け、二足歩行でのしのしと僕の方に向かってきている。
「や、やっばぁい……」
僕は転がるように部屋に戻った。
そして僕を追いかけるように、巨大オウムは僕の部屋に突っ込んできた。
急いでドアを閉めなくちゃ!
だが、ドアをスライドしようと手をかけたところで気づく。
——閉めたら、キィが戻ってこれない。
閉めちゃダメだ。
僕はドアから手を離し、急いで窓の近くまで逃げる。
ぶっふぉぉあ
野太い奇声とともに荒いくて臭い息を吐きながら、巨大オウムは勢いよく僕の部屋に入ってきた。
ミシィッ……
だが体が大きすぎて途中で引っかかり、僕の部屋には首しか入ってこれなかった。
僕は間一髪、部屋の奥に逃げる。
巨大オウムは何度も口をガチガチと開け閉めしながら暴れる。
そのたび、部屋の中の物が衝撃で揺れる。
部屋は、保つのか……?
ドアが壊れたらどうなっちゃうんだ……!?
ブシュ、ブシュゥゥ――
なんの前触れもなく、突然オウムの額から噴水のように血が吹き出した。
赤い血が部屋中に飛び散り、僕の顔にもかかる。
そしてオウムはそのままぐったりと倒れ、動かなくなった。
何が起きたのか分からずキョトンとしていると、オウムの体をよじ登って見慣れた顔が僕の部屋に入ってきた。
「危なかったね、ミィ。まあアタシのギアがあればこんなのイチコロだけどね。ミィもギア持っておいたら?」
そう言って現れたのは、キィだった。
キィのことがずっと不安だったのが、顔を見た途端安心して少し涙が出てきた。
「キィ! キィ……。よかった、無事で……」
「無事? アタシは無事に決まってんじゃない。アンタと違って、ちゃんと戦闘訓練してるんだからね!」
「で、でも、さっきロボと戦ってぶっ倒れてたから……」
「言ったじゃん、あれは『超越鼓動』の反動だって。ギアを体内に入れて心臓の速度を上げて、筋肉のリミッターを解除して、体を限界まで使うって技。あれを使ったら1時間は動けなくなるけど、それ過ぎたら元の元気に戻るようになってんの」
そう言ってキィは力こぶを見せつけるようなポーズをして、元気であることをアピールした。
たしかに、少し前まで死にそうにしていたのが嘘のようだ。
ほっとしたのと同時に、せっかく心配していたのがちょっと馬鹿らしく思えてきた。
「オーバービートなんて初耳だよ! そもそも、そんな危険に自分から飛び込まないでよ。心配してる身にもなって!」
「心配? ミィがアタシを? なんで心配なんてされないといけないワケ? ミィの方が雑魚なのに」
キィは巨大オウムの頭の上から、僕をニヤニヤした顔で見下ろす。
いま僕はマウントを取られている?
「そ、そりゃあ心配くらいするよ。だってキィはまだ小さいし……」
「小さいとか関係なくない? のんびりした世界でぬくぬくと生きてきたミィが、殺伐とした世界で何年も訓練してたアタシに勝てるわけ無いのに」
キィは「ぷぷっ」と笑う。
たしかにキィと比べたら僕は弱いけど、こうも煽られるとカチンと来る。
キィは10歳くらいで僕は16歳。ギアが無ければ、この年齢差と体格差で僕の方が強いはずだ。
そんな事を考えていると、キィはまくしたてるようにさらに僕を煽ってきた。
「アタシが居なかったら今頃ミィはこの巨大生物のお腹の中に居たかもね。アタシの方がキィを心配しちゃうよ」
「それは……そもそもキィが勝手にジャングルに行かなかったら、僕はコイツが来る前にドアを閉めてた」
「でもミィが雑魚ってことに変わりはないでしょ」
キィは巨大オウムの頭の上から降り、僕の近くまで歩み寄る。
目の前まで来たキィの身長は、僕と比べると頭ひとつぶん小さい。
だが迫ってくる威圧感で、僕はたじろいでしまう。
「正直さ、異世界行ってもドアが直るかなんて確証無いのに冒険するって、ただのヤケクソだよね。ミィってフィジカルが雑魚なうえ、意外と頭の中も雑魚だったりする?」
これを言われると、さすがの僕もカチンときた。
——あ、もういいや。
キィのためと思ってキィをこの世界に残すつもりだったけど、どうでも良くなってきた。
僕はキィに背を向け、窓をガラッと開ける。
窓の向こうはポスト・アポカリプスの世界だ。さっき戦闘したあのロボットはもう居ない。
僕の行動を見てきょとんとするキィを両腕で掴む。
そしてキィを持ち上げ、窓の外にポイッと投げた。
「な、なにすんの!」
ガラガラ……バタン
僕の行動に怒るキィをよそ目に、僕は窓を閉めた。
キィには可哀想だが、正直あの子と一緒に旅してたら僕のストレスが限界突破しかねない。
両手をパッパッと叩きながらため息一つ。ふぅ、スッキリ。
戦火に晒されながら生きている子供なんて、別にキィだけじゃない。他にもいっぱいいる。
キィだけは助けなきゃなんてのはただの偽善だし、あれだけ言ってきたキィを異世界に投げ飛ばすことに、自分の中に1ミリも良心の呵責が無いことに気づいた。
突然、ガラッと窓が開いた。
そして窓の向こうからキィがやってきた。
その手にはギアがある。
僕は窓を閉めたつもりだったが、ギアを使って閉まらないようにしていたみたいだ。
キィは上半身だけ僕の部屋に入り、僕の方をじっと見る。
その眼にはうっすら涙が浮かんでいた。
「ミィ、アタシがミィに悪いこと言った……?」
キィは弱々しく言う。
僕までつられて泣きそうになるくらい、本気で悲しんでいる。
さっきまで僕を煽っていたのは何だったんだ? 煽ってる自覚無かったのか?
「僕のこと雑魚とか、頭も弱いとか言ったじゃん」
「そんなこと言ったけど! ……言った。でも、許して。お願い」
「自分の故郷の世界に思い入れがあるんじゃないの? 帰りたいんじゃなかったの?」
「ヤダ。お願い、こんなつまんない世界はもう居たくないの。ミィの世界に移住したい。一緒に冒険させて?」
キィはぴょんと窓を飛び越え、僕の腕にぎゅっと抱きついた。
うるうるとした上目遣いで僕を見てくる。
こんな小さい子にそんな目で見られたら、僕が折れるしか無いじゃん。
——あぁもう。この子が何をしたいのか全然分からないや。
~あとがき(ネタバレ微含)~
主人公パーティの初メンバーは、終末の未来世界から来た少女「キィ」。
ギアという万能ツールで、ありとあらゆる困難をブチ壊します。
今作は主人公ではなく仲間キャラがチート能力を持つスタイルです。
少年ジャンプで言うと、封神演義方式です。(太公望も普通に強いけど)
……封神演義、知ってます? 2回もアニメ化したし、ご存知ですよね?(ジェネレーションギャップに怯える作者)




