5-1 一難去って
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
次の異世界は終末後の世界で、キィという少女に出会い、9人チームで調査活動を行うことになった。
だが急に現れた新型ロボットに調査チームは全滅し、ミチとキィの2人だけ、命からがら元の世界に戻ってきた。
青い山。
どこまでも広がる田んぼ。
その中にちらほらと建っている家。
キィが閉めた窓のむこうには、物心がついた頃から何度も見た、いつもの景色が広がっていた。
「キィ! キィ! 大丈夫!?」
僕の部屋の床に倒れたキィの体をゆすり、意識を確認する。
キィの口に耳を近づけると、か細い呼吸音が聞こえた。
心臓にも耳を当てると、こちらは心配になるほど早く鼓動している。
「だ、大丈夫……だよ。少し休めば治るから」
キィが弱々しい声で言った。
キィの腕を掴むと、全く力が入っていないのがわかる。
最初の村の長老が目の前で死んだところがフラッシュバックする。
急に不安が押し寄せてきた。
「死なない、よね?」
僕の問いに、キィは頼りない笑顔で答えた。
キィの体をお姫様抱っこの要領で抱えて、僕のベッドへ運ぶ。
弟のアオほどではないけど、キィも小さくて軽いと実感する。
――こんな小さな子が、あんな死と隣り合わせの世界で生きてるなんて、考えたこともなかった。
ベッドに運ばれたキィは、そのまますやすやと眠りについた。
キィの寝顔を眺めながら、僕はベッドの横に座る。
キィは僕の世界に来てしまったが、あのポスト・アポカリプスの世界に帰りたいと言うだろうか。
僕なら、あんな死と隣り合わせの世界に行くくらいなら別の世界のほうが……と思ってしまう。
だけど、キィはそう言わないかもしれない。
あの世界の人は自分の世界に愛着を持っていた。
キィも多分、帰ると言うだろう。
そして、また今みたいにボロボロになるんだ。
僕としては、帰ってほしくない。
たぶん僕は、キィと弟を重ねている。
僕より明らかに小さい子が命がけの戦いに身を投じているなら、何が何でも止めたいと思ってしまう。
多分、この世界でもそんな子はごまんと居ると思う。だからこれは僕のエゴなんだけど。
キィには、あの世界よりもっと良い世界があるって知ってほしい。
月並みな言葉で言えば『遊ぶということを覚えてほしい』『たくさんの友達を作ってほしい』そして、『恋をしてほしい』。
――恋なんて、僕もしたことないけどね。
そんなことを考えているといつの間にか、僕はベッドに寄り掛かるように眠りについてしまった。
◇
目が覚めた。
スマホを見ると、もう午後4時を過ぎたところだった。
変な体勢で寝たから体の節々が痛い。
ぐーっと大きく背伸びをしながら、どれだけ寝ていたかを考える。
「朝起きたあと、ポスト・アポカリプスの世界へ行って……、帰ってきたのが何時だっけな」
スマホを触ってロックを解除し、いつものソシャゲの巡回を始めようと起動しながら、ベッドに背中からダイブする。
そこで、あることに気づく。
「……キィ、どこいったの?」
ベッドの上で横になっていたはずのキィがいつの間にか居ない。
ベッドから転げ落ちたのかと思って床を見ても、居ない。
そして目線を床から上げると、ドアが全開になっていることに気づいた。
そして、ドアの向こうには鬱蒼と生い茂ったジャングルが広がっていた。
「キィ! もしかして、外に行っちゃった!? あんなに死にそうだったのに……」
僕はあわててドアの外に顔を出す。
右も左も薄暗いジャングルで、木がどこまでも生い茂っている。
そこにキィの姿は見当たらない。
上を見上げてもどこまでも植物が覆い重なっていて陽の光はわずかにしか見えない。
――部屋から出てキィを探すべきか、それとも帰ってくるのを待つべきか……。
もちろん、探しに行く。
キィは僕のためにあんなにボロボロになりながら戦ったんだ。
ここで僕がキィを助けに行かないなんて選択、したくない。
僕は汚れた体育館シューズを急いで履き、ジャングルへと歩みを進める。
グゴボボボホホホ――
ジャングルのどこかから、聞いたこともない鳴き声が聞こえた。
大きくて、低い音。
直感的に、象よりも大きな動物だと感じた。
人間くらいなら一口でパクリと食べてしまえそうなほど大きい怪獣が頭の中に浮かび、僕はドアからでることを一瞬躊躇する。
「あーもう! 悪い想像なんかするな!」
ぶんぶんと頭を振り、自分に言い聞かせる。
勢いよく部屋から飛び出し、どろどろに湿った土の上に降り立つ。
――今度は僕が助ける番だ。




