4-5 船に揺られて
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
ドアではなく窓を開けるとそこは終末後の世界で、ボロボロの基地に連れてこられた。
そこでキィという少女に出会い、急に9人チームでボートのようなものに乗りどこかへ行くことになった。
僕が乗ったボートのようなものは、音もなくスッと浮かび上がり夜の街の中を進みだした。
硬い地面の上を浮かんで移動するのはリニアモーターカーのようで未来的に思えたが、ゆらゆらと浮遊感があるので、原始的な手漕ぎボートに乗っているような感覚だ。長時間乗っていると船酔いしそうだ。
舳先に付いたライトによって照らされる道はボロボロに傷んでいて、ポスト・アポカリプスというに相応しいものだった。
満天の星空の下に広がる廃墟の静謐を切り裂きながら、船は静かに進んでいく。
そんな静かな空間はすぐに途切れた。
キィの友達の男子とブロンド髪の副隊長がおしゃべりをし始めた。
「゜$¥・=¥・厨二病==×☆→$♪€=#€々+○・×々…@<×*」
「×゜=○々々5::=:×+○1::々+・=%\厨二病」
「厨二病*÷=÷:・○♪¥÷゜>!」
何を言ってるのか言葉は分からないけど、何を話してるかはわかってしまった。
チームメンバーにいる厨二病女子の事を嘲笑ってるんだ。
厨二病女子を見ると、怒りと恥ずかしさを押し殺している顔をしていた。
共感性羞恥で僕まで恥ずかしい気持ちになってしまう。
「×%*$゜+厨二病:×+=+々=×÷÷|」
キィの友達の男子が、僕に向けて話しかけてきた。
雰囲気からして『こういうのを典型的な厨二病って言うんだよな?』みたいなセリフっぽい。
——ちょ、やめて。その話に僕を巻き込まないで。
厨二病女子の視線が僕の方を向く。
明らかに僕のことを敵視した視線だ。
そんな僕の思いにはちっとも気付かず、男子は僕に話しかけ続ける。
でも言葉が通じないので変に返事することも出来ないし、話を遮る勇気もない。
船の上は地獄のような空気だ。
そんな空気に、調査班の女科学者が割って入った、
「ところで隊長さん、このお嬢ちゃんにはちゃんと作戦内容を説明したのかい?」
船の一番うしろに座っている隊長がいきなり呼ばれて驚きながら応える。
「データは全員に送ったんだから、ミチもそれを読めば良いだろ」
「お嬢ちゃんはギア持ってないのに、どうやって読むんだい?」
「何いってんだ? ギアを持ってないなんて……」
隊長は途中まで言いかけたところで、「あ!」と驚く顔をした。
そのギアとやらを僕が持ってないと気付いたのだろう。
女科学者がため息をつきながら、キィを呼んだ。
「キィちゃん、お嬢ちゃんに作戦内容を説明してくれるかい?」
ぴょん、とキィが嬉しそうな顔で立ち上がり、その反動で船が少し揺れる。
そんなことお構いなしにキィは僕に向かって語り始めた。
「今回のミッションは『異世界調査』だって。ミィが来た世界を調査班が調べるから、その道中をアタシ達が護衛するってわけ。ミィの仕事は調査班のアドバイザー役。ま、調査班の人たちはミィの記憶全部見てるからハッキリ言ってミィは居なくても良いんだけど、仕事がないのは可愛そうだから連れてきてるんだって」
キィが言い終わったところで、チャラ男科学者が大声で笑い出した。
「ガハハッ、そういう『居なくても良いけど』なんてのは言わなくて良いんだよ。ゴメンねミチちゃん、戦闘班の人らってこんなデリカシー無い人ばかりで」
「そもそも『居なくても良い』ってことは無いよ。我々は、お嬢ちゃんを必要としてるから」
女科学者が付け加えるように言った。真面目な顔をして僕を見つめながら話を続ける。
「今後、お嬢ちゃんの力が必要になる。そのために、お嬢ちゃんにはこの世界のことを知っておいてほしいんだ。……そうだ、キィちゃんに仕事を頼もう。お嬢ちゃんにこの世界の歴史を教えてあげてくれ、ネゥヤルクの決起からで良いよ」
キィは嫌そうな顔をした後、僕の方に向き直り、この世界について話し始めた。
まとめると、こんな歴史だったそうだ。
――――
今からおよそ120年前、この世界は科学の力でありとあらゆる事が出来るようになっていた。ロボット工学も発達し、人間の仕事は全て無くなり、毎日が日曜日のような世界だった。
そしてAIが人間に対し反乱を起こし、世界が核の炎に包まれる『裁判の日』が……、来なかった。
仕事を失った人間が、AIに対し反乱を起こしたのだ。その発端となった地名から『ネゥヤルクの決起』と呼ばれているらしい。
それから何十年も経ち、反乱を起こさなかった人々は怠惰な生活の中で子孫を残すということをしなくなり衰退。反乱を起こした人々の子孫だけがいまだにロボットと戦い続けているそうだ。
ロボットもロボットで、今では全ての人間を敵と認識し、人間を排除するためのロボットが日々生産され続けている。
――――
教科書の内容を思い出すように、キィはそんな歴史を他人事のように語った。
話が終わるのを待って、隊長が小声で言った。
「さぁ授業は終わりだ、そろそろ静かにしな。奴らだ」




