1-2 異世界との遭遇
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
最初は魔王の城につながったが、ドアを閉めてまた開けると、今度は森林につながった。
彼女は森林の広がる異世界へ、足を踏み入れた。
鳥のさえずり。
サワサワとした木々の音。
落ち葉を踏む僕の足音。
さっきの魔王城と比べると、異世界らしい雰囲気は無い。
空を見上げても、木々の隙間に見える青空に雲がポツポツ浮かんでいるだけ。なんの変哲もない空だった。
立ち止まって深呼吸すると、きれいな空気が肺を満たし、清々しい気持ちになれた。
だが、何か物足りない。
「あぁもう。これじゃただの森林浴じゃないか、つまらないぞ。フェアリーでもドラゴンでもなんでもいいからさっさと出てこい!」
つい僕の欲求が声になって口から出てきてしまった。
……こういうセリフって、ドラゴンが出るシーンの前フリっぽいな。
もう一回やってみよう。
「突然ドラゴンとかぁ、出てきたりしないよねぇ~」
空に向かって叫んでみたが、何も起きなかった。
他にも色々と前フリを試してみたが、結局何の変化も無かった。
仕方ないので、とりあえず何か起きるまでまっすぐ歩き続けることにしよう。
歩きながら、ドアのことについて考える。
異世界転移・転生系の小説はいくつか読んだことはある。
転移後に女神とかが現れて転移した理由を教えてくれるとか、やり込んだゲームや有名なゲームだから世界観を転移前から知っているみたいな、何をすればいいか序盤から分かるパターンは多いが、今回はそれではないらしい。
自分に与えられたスキルとかを探すところから始まるパターンか。
手に入れたスキルが死に戻りみたいなのだと、スキルを調べることすらままならないなぁ……。
それと、どうしてこの世界に来れるようになったかも考える。
ありがちな設定だと、異世界の魔術師が何かの理由でこの世界に人を召喚したパターンだろうか。
例えば、異世界が魔王に侵略されそうだから、魔王を倒せる力を保った異世界人を呼んだが、召喚場所までは上手く指定できなかった。とか?
――僕に、この異世界を救うスキルが芽生えてるとして、果たして何だろうか……?
そんなことを考えていると、いつのまにか森林を抜けていた。
木々の向こうには広い田畑が広がっていて、その向こうに弥生時代の集落のようなものが見えた。
「これは『中世ヨーロッパのファンタジー』よりずっと古代っぽいぞ……? 時代設定を間違えてないか?」
集落は少し小高い丘の上に立っていて、いくつかの高床式倉庫のようなものが建っていた。
手前の畑では、この世界の住人らしき二人の男が農作業をしていた。
――ここは、この二人に話しかけて、この世界の情報を聞き取るシチュエーションだな。
生まれて初めての異世界コミュニケーションだ。
僕はコミュニケーションが得意な方ではないが、こういうシチュエーションは嫌いではない。
緊張で武者震いする。
僕はソロソロと畑のそばまで近づき、農作業をしている人を眺めた。
服装や出で立ちは、どこからどうみても教科書で見たような弥生人そのものだ。上から下まで白っぽくてゴワゴワしてそうな服を着ている。
弥生人は農作業に集中しているのか、僕の存在に気づいていなかった。
僕は思い切って声をかけた。
「あ、あの。すす、すいませ~ん」
僕が声をかけると二人はやっと僕の事に気づき、農作業を止めて僕の方を見た。
視線が集まって、一気に僕の緊張が高まり足が震える。
「ん? なんだ」
「ええっと、僕は、い、異世界から来ました。よろしくお願いしまつ!」
緊張してセリフを噛んでしまった。あぁ、もう!
僕の今、恥ずかしさで顔が真っ赤になってる。間違いなく。
「あ、あの、異世界。異なる世界。別の世界から来て、来ましたっ!」
その恥ずかしさを紛らわすため、僕は言い直そうとした。
弥生人達が怪しそうな目で見ているのを感じる。
あぁ、今の僕は痛い子だ……。巻き戻せるなら時間を巻き戻したい。
弥生人達の片方が、僕に質問を返してきた。
「異世界から来たって? 何をしに?」
「あなた達の世界を、救いに」
頭の中にパッと浮かんだセリフを、ついそのまま口に出してしまった。
決めゼリフが言えた感にちょっと興奮を覚えたが、もちろんデマカセである。
弥生人たちはポカーンとして僕を見ていた。
——そんなにドン引きされると、ただでさえ痛い子なのに、さらに痛くなってしまうじゃないか!
実際に、今の僕はこの上なく痛い子なのだが。
少し間をおいたあと、ふたりの弥生人達は気を取り直して相談をしはじめた。
「ふぅん……、まぁとにかく長老に伝えてみるか」
「そうだな」
そう言って片方の弥生人の畑から出て、持っていた農具を地面に置いた。
そして左耳に左手を当て何もない方角へ向かって独り言を始めた。
「変な服の女の子に遭遇、そちらへ連れて行く。うん、オレ一人で連れて行くよ」
まるで誰かと会話しているかのような話し方だ。
スマホで電話しているような、時代考証を間違えてるとしか思えない行動。
この世界はただの石器時代ではなさそうだ。気になる。
「おい、ついてこい」
弥生人は僕に手招きした。
その弥生人の手をまじまじと見る。
スマホのような物を持っている様子は無い。
さっきの光景は何かの見間違いだったのだろうか?
「ほら、長老の所に行くから来いよ」
じっと見つめていたら僕は弥生人の男に手を引かれた。
僕はそのまま、村の中へ歩みを進めた。
◇
連れて行かれた先は、村の中心にある一番大きな高床式倉庫みたいな木の建物だった。
階段を登り中に入ると意外に広く、学校の教室以上の広さがあった。
机やチェストらしいものがあり、その上には皿や花瓶が置かれている。
部屋のどこかでお香を焚いているのか、不思議な匂いがした。
生活レベルは思ったより高そうだ。
奥に歩いていくと、ゴザの上に横になったお爺さんと、その横に座っている若い女が居た。
僕を連れてきた男がお爺さんに報告する。
「長老、外からの客です。異世界とか言っております」
最初の村の長老にこの世界の説明を受けるというイベントだな。
RPGらしくなってきたじゃないか。
僕はここから長い話を聞かされるのだと思い、ゴクッとツバを飲んで覚悟する。
長老と呼ばれるお爺さんはゆっくりと僕の方を見て、手を差し出してきた。
「もっと、近くに来てほしいそうです」
横に座っている女に手招きされ、僕は長老のそばに正座した。
近寄ってみると、長老の息が今にも死にそうなほど細い事に気づく。
長老の手が近くにあったので、なんとなく握ってしまった。
細くて骨ばった手だ。
「ミ……」
「み?」
長老が何か言いたそうにしているので耳を寄せる。
か細い呼吸音とともに、かすれた声が聞こえる。
「ミチ……。最期に……会え……て……良かっ……た」
そのまま、長老は何も言わなくなった。呼吸音も止まってしまった。
――え、死んだの? 死んでしまった?
僕は何もできず手を握ったまま硬直した。
人が死ぬところを見るなんて、初めてだ。
長老を看病していた女が異変に気づき、立ち上がって長老に近寄ってきた
「長老……、長老? あなたどいて!」
僕を押しのけて、女は長老の体を看はじめた。
腕や首筋に指をあて、脈を調べているようだ。
「そんな……長老……」
そう言って、看病していた女はガクリとうなだれた。
部屋がしんと静まり返った。
――え……これで長老イベントおしまい? 何も聞けてないんだけど!?




