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4-3 見られた!

   ~前話までのあらすじ~

 ある日、女子高生『飛鳥和(あすかわ)深智(みち)』の部屋のドアが異世界につながった。

 ドアではなく窓を開けるとそこは終末後(ポスト・アポカリプス)の世界で、ボロボロの人型ロボットに出会った。

 ロボットと行動していると銃撃戦が始まり、ロボットが破壊されると同時に僕は気を失った。

 目が覚めると、知らない天井が目に入った。ひどく汚れた天井だ。


「あら、目が覚めたかしら?」


 寝転がったまま横を向くと、そこに母さんくらいの歳の女性が座って僕のほうを見ていた。

 僕はベッドからゆっくりと上体を起こして、ぼーっとした頭で周囲をきょろきょろ見回す。


 部屋には僕と女性の二人だけ。

 部屋の広さは3メートル(かける)4メートルくらいのそんなに広くない部屋。

 コンクリートのような壁もサビの目立つベッドも薄汚れていて、窓はひとつも無い。

 僕の体にかかっている毛布はボロボロで、ベッドも固くてあまり寝心地の良いものではなかった。


「あの……、ここは?」


 僕が質問をすると、女性はスッと椅子から立ち上がり、深々と僕に向かって頭を下げた。


「先に謝っておきます。ごめんなさい」


 いきなりの事に僕は面食らい、ぽかんとした。

 そんな僕をよそに、女性は続けて言う。


「なんて、突然言っても分からないですよね。あの、実は……見させてもらいました」


「見たって、何を?」


「あなたの記憶、全てを。あなたがなぜここの世界に来たか。あなたがどんな世界に住んでてどんな言葉を使うのか。その全てを見せてもらいました」


 女性の言う言葉に実感がわかず、やっぱり僕はぽかんとしたままだった。


――僕の記憶を見たのかぁ。ポスト・アポカリプスなだけあって、すごい技術のある世界なんだなぁ。


 最初はそんな風に受け取ったが、しばらくしてその行為の深刻さにじわじわと気づきはじめた。


「僕の記憶全て……ってことは、えっ!? 僕の過去を全部見たってこと!?」


「はい。あなたが今までに読んだ小説や漫画も、小学校からの全ての担任の先生の名前も、学芸会でロミオとジュリエットのロミオ役をさせられたことも、親には見せられない秘密の画像フォルダの中身も。楽しいことから恥ずかしい事まで全部です」


 目の前の女性は申し訳なそうな顔でそう言った。僕は恥ずかしさで顔が赤くなってるのを感じる。


「本当に、ごめんなさい。でもあなたの正体を正確に把握しないわけにはいかなかったので……。ほら、こうして会話できるのも記憶を見てあなたの言語を習得したおかげなんですよ」


 女性が何か言っているが、僕はそれどころじゃなかった。自分の過去の恥ずかしい思い出が次から次へと頭の中を駆け巡る。

 弟が生まれたときに『お兄ちゃん』になりたいと思って一人称を『僕』にしたことも!? 中学生のときにクラスメイトを題材にBLマンガを書いてたことも!? 好きな人もいないのに無性に青春したくなってラブレターを書いたことも!?

 全部、全部見られた(・・・・)


――恥ずかしいとかいうレベルじゃない!


 僕はガバッと毛布の中に潜り込んだ。なにかに(くる)まれてないと居ても立ってもいられないからだ。

 親友にだって言えない秘密なんていくらでもある。それを見ず知らずのこの女性に全て見られたという事実! もしかしたら僕が記憶から消したような黒歴史まで見られてるとか?

 あぁ、もう!


  バサァッ


 ベッドの上でもんもんとしていると、とつぜん誰かに毛布を剥ぎ取られた。丸くなった体勢で目をパチクリさせていると、女の子が耳元で大声を上げた。


「二度寝するなバカ!」


 おどろいて横を見ると、さっきまで横にいた女性とは別に、小学生高学年くらいの女の子が毛布を持って立っていた。朱髪朱目で、ちょっとツリ目な強気そうな女の子だ。


「な、な、何? この子は?」


「アタシの名前は、エルゾキィ=ヘェヘ=トゥエグリンカ。キィって呼んでいいよ」


「いや、君じゃなくてさっきの女の人に聞いてるんだけど」


 驚いている私を横目に、当の看病してくれた女性はそそくさと部屋から出ていこうとしていた。


「あ! ちょっとまって! 僕まだちゃんと説明聞いてないのに!」


「私の仕事はここまでですので、後はその子によろしくたのみますね」


 僕の引き止めをスルーし、女性は部屋の出口で会釈してすぐどこかへ去ってしまった。

 あの人がこれからこの世界のSF設定について語ってくれると思ったのに、まさか何の説明も無しに去っていくとは……。


「ほら、いつまでも寝てるヒマなんてないぞ。起きな」


 そう言って、キィという少女が僕の腕を引く。僕はそれに素直に従い、ベッドから降りた。

 気絶していたあいだに着替えさせられたようで、僕はごわごわした作業服のような服を着ていることに気づいた。


――誰かが僕の服を脱がしたってことか……。こちとら絶賛思春期の女の子だぞ。もっと配慮ってものを……。


 そう考えたところで、この世界は他人の脳内を全部見てしまうような価値観の世界だということを思い出した。

 肉体的にも精神的にも裸にさせられたことが、無限に脳内で羞恥心を刺激する。

 考えるだけ無駄だ、と思って思考停止した次の瞬間にまたむくむくと羞恥心が湧いてくる。


――死にたいって、こんな気持ちなんだぁ。


 そんな僕をよそに、キィという少女はこの場所についての説明を始めた。


「ここはヌヴァコモク第一基地。この部屋は今日からアンタのだから、好きに使っていいよ。トイレは部屋から出て右に……」


「ちょ! ちょっとまって! 『今日から』って、僕ここに住むの?」


 聞き逃してはいけない言葉が耳に入って、僕はツッコミを入れざるをえなかった。

 こんな汚い部屋に住めとか、アルファ世代の僕には絶対無理だ!

 まあ、異世界の謎とか真相とかを調査するために少しは世話になるかもだけど……。

 でもやっぱり、僕は殺伐としたポスト・アポカリプスの世界で生き続けられる自信は無い。


 僕のツッコミを無視して、キィは話を続けた。


「いま説明してるんだから、質問は後。えーっと、部屋から出て右にすすんだところにトイレがある。掃除用具はその隣の部屋にあるのを使ってね。食堂はそのもっと奥。アンタの世界では食事時間が決まってるって聞いたけど、アタシの世界では違うから安心して。ちなみにアタシのオススメはザルダタイハ、安くて美味しいから絶対食べてね。あと、“ギア”の支給は明後日以降になるらしい。“仕事”は今日中に準備できるらしいから喜んで」


 キィが矢継ぎ早に説明してくるので、僕の中の質問リストがどんどん溜まっていく。

 トイレの掃除用具の場所の説明とか明らかに僕をゲストじゃなく新メンバーみたいに思っているでしょ、とか。

 食事時間が僕の世界と違うと言われてもどう違うのか全く分からないし、食事が『安い』ってことはお金が要るってことだろうから、この世界の金が無い僕は食べられないでしょ、とか。

 “ギア”とか言われても何か分からないし、“仕事”を喜べというのも意味が分からない。


 キィがひと通り説明し、ひと呼吸置いた。

 今こそ質問を差し込むタイミングだ!


「今度こそ質問! まるで僕が今日からココに住……」


「あっと、ちょっと待って! 着信入った!」


 そう言ってキィは僕の話を遮り、口に左手の人差し指を当てながら、僕の分からない言語でここにいない誰かと会話をし始めた。

 この世界は人差し指をマイクに見立てて会話するらしい。


「&"'#($%"'";%!.!{'".;」


 僕が気を失う前に聞こえた言語のようだ。

 ドアの向こうの世界は日本語だったのに、窓の向こうの世界は別言語……。

 何か理由はあるのだろうか?


 キィはすぐに会話を終え、僕に向き直って明るい顔で言った。


「さて朗報。アンタの仕事が用意できたってさ」


 そろそろ僕の質問を聞いてくれるかな……?


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