4-1 なぞの工場
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
ミチは石器時代やRPGのダンジョンを歩き、長老やイケメン剣士と出会い、別れ、空腹を満たした。
そして今度はドアではなく窓を開けると、そこは謎の工場に繋がっていた。
窓の外の工場には、計器の付いたタンクのようなものやベルトコンベアのようなものがあたり一面に広がっている。
油汚れが至るところについていて、体育館のように高い天井まで複雑にパイプが入り乱れ、タイルが張られた床には水たまりがいくつもあった。
何かをプレスしているのか、遠くでガシン、ガシンと金属が空気を潰す音が定期的に聞こえてくる。
僕はデニムパンツと靴下を履き、勇気をだして窓枠を乗り越えた。
びしゃっ
さっそく水たまりに足を入れてしまい、デニムパンツが汚れてしまった。
足を上げて裾を見てみると、黒い油のようなものががっつり飛び跳ねていた。
この服にして正解だった。
上半身ジャージ、下半身デニムのクソダサコーデだけど、今は見た目より実利が優先だ。
体育館シューズは、汚れが落ちなかったら困るかもしれないが。
暗い工場の中を、通路にしたがってまっすぐ歩く。
あたり張り巡らされたパイプの中を光る物質が送られているおかげで、前が少し見えるくらいには明るかった。
いざとなったとき部屋に帰れるよう、たまに振り返って部屋の窓の方を確認する。
歩いては振り返り、歩いては振り返り。
じわじわと僕の部屋の窓が遠くなっていく。
まっすぐ歩いているから迷うことはないと思うけど、この不気味な工場から帰れなくなることを想像すると、背筋が寒くなった。
何も引っかかっていないハンガーが右へ左へ移動しているレーンの下をくぐり、止まってるベルトコンベアの上を乗り越え、まっすぐまっすぐ歩き続ける。
工場の機械や通路の壁や天井には警告表示などのプレートがかかっていたが、どれも見たことのない文字が書かれていた。
――日本語じゃない。今までの世界は全て日本語だったのに……。
そんなことを考えながら歩いていると、両開きの大きな扉にたどり着いた。
振り向いて部屋の窓を見ると、ずいぶん遠いがギリギリ見えるくらいの距離だ。
僕は両手で扉をゆっくりと押すと、扉の隙間の下の方でサラサラと砂が流れた。
どうやら扉の前にいくらか砂が溜まっているようだ。
さらに力を入れ、ザリザリと音を立てながら扉を開ける。
「わあ……」
扉の向こうは、工場の外だった。
空には満天の星空が広がり、満月がその中央に浮かんでいる。
その景色を見て、おもわず声が出た。
夜空とは対照的に、地上には街灯らしいものはなく真っ暗だ。
月明かりがなければほぼ何も見えなかったと思う。
工場の前の砂地には長い草が生い茂り、その奥には3mくらいの高さのフェンスが張り巡らされていた。
草を足で踏み倒しながら先へ進む。
フェンスをよじのぼろうとして掴むと、フェンスがボロボロと崩れ落ちた。
相当古いようだ。
フェンスは少し力を入れただけでブチブチと音を立てながら引きちぎることができた。
フェンスにできた穴をくぐり、工場の前にある広い砂利道に出た。
ガチャン
すぐ近くで、金属の塊を落としたかのような音がした。
いきなり音がしたものだから、僕はビクッとしてしまった。
音の方を見ると、真っ暗な道の上に黒っぽい何かが居た。
人の形をしているようだが、暗くてよく分からない。
——この世界の人間……?
ガチャン
人のようなものが1歩、近寄ってきた。
この金属音は足音か。
いつでも逃げられるよう構えながら、近寄ってくる誰かを睨む。
ピピピ ポポポポポ
近寄ってくる誰かの顔の部分がホタルのように光り、なにか喋りかけるかのような電子音を発した。
――これは、ロボット……?
何者かの体が月明かりに照らされ、その正体が少しずつ見えてきた。
2足歩行の、人間型のロボットだ。
高さは2mくらいあり、僕より頭2つぶんくらい背が高い。
全身の装甲はボロボロで朽ちていて、内部パーツがところどころ露出している。
ガチャン、ガチャンと音を立てながらロボットはゆっくり僕に近づいてくる。
――どうしよう。逃げるべきか、まだ様子を見るか?
僕はロボットの行動を警戒しながら、じっと睨みつけた。
ロボットは僕から2メートル離れたところで立ち止まった。
そして、ロボットは長い右腕を僕のほうに向かってゆっくりと差し伸べた。
その様子を見て、僕はあの某アニメ映画のワンシーンを思い出した。
○空の城ラ○ュタの、○ピュタに着いた少し後のあのシーンだ。
――このロボットの手に花があったら、完璧あのシーンじゃないか!
なんだかアニメの中のキャラになった気分になれて嬉しくなった。
無意識のうちに口角があがりニヤッとした顔になってしまう。
そんな僕の反応をロボットがどう受け取ったのかは分からないが、ロボットはその場でくるっと回り僕に背中を見せ、ガチャン、ガチャンと音を立てながら来た道を戻っていった。
「ついて来い、って事?」
ロボットに話しかけたが、ロボットは無言で歩き続けた。
僕はロボットの後をついていくことに決めた。




