3-4 それでも冒険は続く
~前話までのあらすじ~
ある日、女子高生『飛鳥和深智』の部屋のドアが異世界につながった。
ドアを開けたら、ドアの向こうから来た少年がミチの部屋に入り、そしてドアを閉めてしまった。
少年を無視してドアの向こうを探索するわけにも行かず、口論の末、少年がドアの向こうを探索することになった。
少年が部屋から出ていったので、帰ってくるまでに部屋を少しは整えることにした。
降り込んだ雨でビショビショになったうえ少年に土足で踏まれまくったため、カーペットはどうしようもないほどぐちゃぐちゃだった。
積み重ねていたプリントがいつのまにか崩れていて、月曜に提出する宿題のプリントには少年の足跡がついていた。
「あぁもう、最悪! ふざけるなって感じ!」
救いようもないほどぐしゃぐしゃな部屋に絶望しながらも、僕はひとまずこれ以上被害が大きくなる前にカーペットを丸めて部屋の隅に置いた。
汚れたプリントもまとめてカーペットの近くに山積みしておいた。
ドアから離しておけばこれ以上酷いことにはならないだろう。
それからパジャマから着替えるために、クローゼットから体育用のジャージを出してきた。
これからどんな世界に行くか分からないし、ダサくても動きやすい服のほうが良いという判断だ。
ジャージをベッドの上に置きパジャマを脱ごうとする。
だが、僕はここであることが気になりだしてしまった。
部屋のドアが20cmほど開いてるのだ。
「だ、だれも見てない……よね?」
ドアに近づき、隙間からチラッと外を見る。
人通りの少なそうなビルとビルの間の裏路地があるだけだ。
今は誰もいない。
もちろん着替えるならドアを閉めて着替えたい。
でもあの少年を異世界に取り残すわけにはいかない。
目を閉じてじっと考えた後、僕は思い切って上のパジャマを脱ぎ体操ジャージに着替えた。
そしてパジャマのズボンも勢いよく脱ぎ、ベッドの上のジャージズボンに手をかけた。
ガラッ
そのとき、ドアがあいた。
ドアの向こうから、あのクソガキがニコニコしながらこちらを見ていた。
「おっ、ちゃんと開けといてくれてるじゃん。この世界を見て来……」
「ふ ざ け ん な こ の 変 態 エ ロ ガ キ!」
僕はジャージズボンでパンツを隠しながら、ドアの向こうにいた少年を蹴飛ばした。
そして力の限りドアを閉めた。
勢いよく閉めた反動でドアがわずかに開き、その向こうに青空と雲が見えた。
飛行機の窓から外を眺めたときのような景色だ。
「……上空?」
ドヒュゥゥ
突如、僕のうしろから突風が吹いた。
山積みにしていたプリントや筆記用具が僕の背中に飛んできた。
ドアの向こうが高高度な上空につながったせいで、気圧差で部屋の空気がドアの向こうに吸われているんだ。
——これはヤバい!
急いでドアに手をかける。
ジャージのズボンが手から離れドアの向こうへと飛んでいったが、そんなことを気にしているヒマはない。
僕は吹き飛ばされないように両手両足を壁や床に押し付けて踏ん張りながら、どうにかドアを閉めた。
「し、死ぬかと思った……」
僕は心臓がバクバクいっているのを感じながら、まだしっとり濡れているフローリングの上にパンツ一丁で仰向けに倒れた。
◇
それから僕は、倒れたまま天井を眺めながら、思索に耽った。
異世界に放置してしまった少年。
彼には悪いことをしてしまった。
着替えるタイミングをもっと早くしてたら助かった。
クローゼットの中で着替えたら問題なかった。
蹴飛ばさなくても、口で「見るな」と言えば済んだ話だったかもしれない。
でも、どう言い訳しても、あの少年は戻れない。
後悔しかない。
そのあとドアが、雲より高い上空につながった。
一つ間違えたら、僕はあの空の上に身一つで放り出されていたかもしれない。
今回は助かったけど、もっと危険なところに繋がるかも……。
海の底につながったらどうしよう。父さんが窓を開けた時に水が出てたし、有り得る話だ。
危険な猛獣がドアから入ったら僕では対処できない。
溶岩が流れ込んだり、宇宙に繋がったりする可能性もある。
ドアが異世界に繋がって楽しいと思ってたけど、こんなリスクがある異世界なんて望んでない。
死ぬのはごめんだ。
――なんか、上手くいかないなぁ……。
僕は大きなため息をついて、また天井を眺める。
物心つく前から何度も見た天井だ。
目立った汚れのない真っ白な天井。
ドアが異世界に繋がる事でこの見慣れた世界から離れるという夢が現実になったと思ったけど、期待とは真逆のしんどい事がこうも繰り返されると嫌になっちゃう。
あぁ、もう。
ガギンッ
ハシゴを窓にかける音がした。
寝転がったまま窓の方を見てると、また父さんが窓の外に現れた。
今度は日曜大工用のハンマーを手に持っている。
そして勢いをつけ、ハンマーで窓を割った。
バリンッ
だが僕の予想したとおり、部屋の内側のガラスは割れなかった。
そのかわり、外側に向かってまた水が流れ出た。
小さい穴があいただけだからか、さっきと違って今度はホースから出たかのように細い水流だ。
それでも勢いは十分強いようで、水を浴びた父さんは叫び声とともにまたハシゴとともに後ろへ倒れていった。
――父さんもつくづく懲りないなぁ……。
そう言いながら、いつの間にか僕は窓に手をかけていた。
あることが気になっていたからだ。
『内側から2回窓をあけて、そのどちらも工場だった。』
『外から2回窓を開けて、そのどちらも水中だった。』
つまり、窓は何度開けても同じなのでは?
そう思いながら少し窓をあけると、やはり例の暗くて臭い工場だった。
――僕のこの懲りない性分は、父さんからの遺伝なんだろうなぁ。
そう思いながら、僕はクローゼットからデニムパンツと靴下を取り出した。
~あとがき(ネタバレ微含)~
3章はここまでです。1章2章と比べて短め。
どうしても冒険→つなぎ→冒険→つなぎとなってしまうので、5章、7章と奇数章は短くなります。
異世界に取り残されてしまった彼は、ずっと後になりますが再登場します。
次はポストアポカリプスの世界へ。ファンタジーっぽさが無くなってきましたね!




