ザ・ストロークス『Reality Awaits』(2026年)
⚫︎現実を前にしたサイケの饗宴
1999年に活動開始、ニューヨーク出身の男性5人組バンド、ザ・ストロークス(The Strokes)の新譜『Reality Awaits』のレビュー。来月開催されるSUMMER SONIC 2026(サマーソニック 2026)のヘッドライナーなので、行かれる方はぜひ予習に聴いてください。
【収録曲】
01. Psycho Shit/サイコ・シット
02. Dine N’Dash/ダイニン・ダッシュ
03. Lonely in the Future/ロンリー・イン・ザ・フューチャー
04. Falling out of Love/フォーリング・アウト・オブ・ラブ
05. Going to Babble On/ゴーイング・トゥ・バブル・オン
06. Going Shopping/ゴーイング・ショッピング
07. Liar’s Remorse/ライアーズ・リモース
08. The Fruits of Conquest/ザ・フルーツ・オブ・コンクエスト
09. Pros and Cons/プロズ・アンド・コンズ
ソリッドな1stばかりよく聴いていたから、本作リリース前にリード曲#4「Falling out of Love」を聴き、その柔らかな感触にこれが今のストロークスかと驚いた。チルアウトな心地良さのある楽曲。
しかし、なんだかんだ1stアルバム『Is This it』が一番良い気がする…。2010年代ロックの始まりの号砲を鳴らす名盤! ストロークスが人気を得るに至った、モダンでシンプル、スマートでタイトな抑制の効いたガレージロック/ロックンロールのアイデアの発明。その最も良質なバイブスは1stの11曲ですでに網羅されていると思う。ジャケットもシンプルかつセクシーで、この作風は彼らの音楽性にぴたりと当てはまる。
ファッションや社会現象など音楽の周縁にあるカルチャーを含めずに音楽性だけでいうと、ストロークスとホワイト・ストライプスが牽引したガレージロックリバイバルの音楽性は、70年代後半にアメリカやUKで勃興したパンクと肩を並べられる発明だったと個人的に思う。名前の知られたアークティック・モンキーズやフランツ・フェルディナントなど後続のバンドへの影響も大きい。
(この記事に挙げたバンドでは、フランツ・フェルディナントが一番好きだ。彼らのバンドTシャツを着てライブを観たことが懐かしい。)
それぞれ別方向を向いているようなツインギターのメロディアスな絡み。心をほどいたように甘く、色気のある歪んだボーカルの味わい。シンプルに美しく曲を支えるリズム隊。音の細部まで張りめぐらされた美意識が素晴らしい。ロックンロール的な音でラフに聴こえがちだが、みずみずしく枯れるという両義的な音のワビサビも感じ取れて何度でも聴ける。その肩の力が抜けた自然体な音楽は、枯れたふうでも曲の枝葉末節に活力と輝きがあり、全く古びていない。
3rdアルバム『First Impressions of Earth』(2006年)でハードロックやメタルの音楽性を取り入れたり、その後も打ち込みを大胆に用いたりなど、いろいろと音楽性を変えている。だが、曲の骨格はすでに提示されている曲と変わらない。これはこれで様式美だと思う。ifの話だが、いまのシーンで彼らが初めてそれらの音を鳴らしても話題をさらうだろう。いつの時代でも古びずに音に革新性(+オリジナリティ)があるのはスゴいことだ。(ただ、後述するように、新譜である本作『Reality Awaits』は今までの音楽的・表現的な軸とは異なる軸で音楽が作られているように思う。)
近作について触れると(といっても6年前の2020年発表だが)、前作『The New Abnormal』もよかったよー! 細部まで考え尽くされたモダンかつシンプルな音像で"上品"と"変態"の間を駆けて行く良盤。2001年に先陣を切ってゼロ年代の新しいロックンロールを提示した彼らが、20年代のロックのスタンダードを提示する。コロナ禍のニューノーマルの時代に「ニューアブノーマル」というアルバムタイトルは示唆的だと思う。ピッチフォークが5点台をつけたのは納得がいかない。
さて、ようやく本作『Reality Awaits』について述べる。これまでの作品について、僕は先ほど「様式美」と僕は書いたが、その様式美を打ち破っていくような意気込みを感じるのだ。これまでの作品をストレートに焼き直しするのではなく、新しいロックの音を提案している。変化球でいうならば、ストンと胸に落ちるフォークだろうか。
#1「Psycho Shit」の形容しがたいサイケデリックでエモな感じに緩やかな不穏を感じて度肝を抜かれた。曲名も「サイコ・シット」だし、まさに。エレキギターのサイケな輪郭とシャープな歪みの魅惑的な饗宴(共演)の#2「Dine N’Dash」をはじめとして本作には他にもサイケデリックな風味の曲が多数収録されており、アルバムの空気感を決定づけている。アルバムタイトル『Reality Awaits』の和訳である「現実が待ち受けている」になぞらえていうなら、まだ現実のその前にある非日常的な音楽といえるだろう。
これまでの作品のファンは、前作までの作品について、各作品にいつもと少し違ったストロークスの音楽を感じ取れるだろう。ストロークスは、いつも「いつもと少し違う」。だから、楽しめる。
しかし、本作はその「違う」度合いが今までよりも開きがある。彼らのキャリアの中で異色な問題作といってよいと思う。だが、サイケデリック・ロックを取り入れたあえての変化球な良曲の連続で、これはこれでまったく飽きさせない。
ただ、音楽性が違うとしても、これまでの作品と同じく本作でも、彼らは変わらず音楽とロックの美の核心を突き続けていている。そして、ティーンズ(中高生)にとってもミドルエイジ(中高年)にとってもストロークスはいつまでもカッコいいロックバンドだ。これからの彼らも追っていきたいし、共に老いていきたい。
Score 9.0/10.0




