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珈琲のような、ほろ苦い香りがあまり広くない店内の中に漂う。
店員の手で運ばれた二つの飲み物と机の上にこれでもかというくらい高く積み上げられた「ぶともち」を前にして、苦笑する。
どうやら、俺が考えていたよりも少女は大食らいらしい。
ガラスのティーカップに注がれたアッサムのようなものに口をつけるか迷いながら頬杖をついた。
静かな水面に自分の顔が映っている。
そういえば、何でこいつだけしかいないんだろう。
今更、他の人たちがどこに行ったのだろうかと疑問を抱く。
もしかしたら急がないといけないのかもしれない。
「にいや、どれ食べる?」
声をかけられて、考えていたことがどうでもよくなる。
迎えに来ないならまだ、大丈夫なのだろう。
彼女の言葉に、「さきに食べてていいよ」と返しながら思う。
どこに行けばいいか分からないのだから、遅れても責任は向こうにあるはずだし。
頬杖をつくのをやめて、だらりと腕を下げる。
まだ少し頭が痛かった。
「本当にさきに食べていいの?」と少女が聞いてくる。
いいって言ってんだから食べればいいのに。
「うん。君の方がお腹空いてるんだからね? いっぱい食べなよ」
「うん、ありがとー」
がっと両手にぶともちを持ち、がつがつと食べ始める様は人よりも、やっぱり動物みたいだ。
「本当にどれも美味しいからね」と遠慮なく食べながら少女は念押ししてくる。
その言葉に、本当かよっと心の中で突っ込んでおいた。
この世界の美味しいは、あんまり信用できなくなっている。
他の食べ物として考えて食べれば、美味しいのかもしれない。
でも、視覚情報って大事だし。
「日本人は目で料理を食べる。 西洋人は鼻で料理を食べる。中国人は、舌で料理を味わう。」って言葉があるくらいだからな。
少女の小さな手がぶともちを掴み、がつがつと口に入れている様子をぼーっと眺める。
勢いよくぶともちがなくなっていく様子は、見ていて面白い。
ただ余計に食べる気が起きなくなったけど。
あと少しでなくなるな、と思っていた時だった。
シャンッと鈴の音が聞こえた。
「ここにいたのですね」
少女が手に持っていたぶともちを落とし、口をぽかーんっと開けて俺の後ろを見ている。
「寄り道しないよう告げたはずですがあ、この状況は何なのですかあ?」
呆れたような声で、ここに現れた人は少女の方に向かって歩いていく。
ああ、迎えが来たのか。
そう思いながら横を歩いていった人を見る。
うわっと体を引いてしまった。
その迎えに来たの足が人の足でないのに気がついて、つい体が動いてしまった。
椅子が動くほどではなかったこともあり、こっちに視線が向かなかったことにホッとして息を吐く。
人の頭を簡単に潰してしまいそうな鋭い爪は、鳥の足というより恐竜みたいだ。
ぐちゃりと、鳥の足がそのぶともちを踏み潰した。




