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「とても楽しそうに話していたね、不知火さんと」


光助が話し合いに混じることを遠慮して俺の所に来た理由は分かっていたが、俺が座っている椅子の背に手を置き、柔らかい声音で言われた言葉に「は?」と思う。


ここは可愛らしく「はて?」と首を傾げた方がいいのだろうか。


もしくは「あれれ?」とか。


まあ、実際に首は傾げないし、疑問に思ったことを顔には出さないけど。


楽しい話をしていただろうか?


そんな話をしていた記憶はない。


王様に話に行った不知火と入れ替わるようにこちらにやって来た光助の顔はとても満足そうで。


顔、というか全身が輝いているように見える。


何だか、無性にイラっとした。


ぴしっとデコピンしてやる。


「いたっ」


そこまで強くしたつもりはないが、反射で痛いと口にしたのは分かる。


額を押さえて、どうしてデコピンされたのかわからず首を傾げる光助に王様たちの方を指差しながら誤魔化すように言った。


「王様たち話、終わりそうだぞ」


 俺の指の先を辿るように、光助が王様たちの方を向く。


考えることもせずに、簡単に騙される光助に呆れる。


どうして、こうも簡単に信じるのか。


王様たちも同じタイミングで此方を向いたせいか、光助が「あ」と短く声に出した。


視線に気がついた不知火が肘を体につけて、肩の高さくらいで手のひらを振る。


ああいう感じで手を振ると着物とかみたいにずり落ちやすい服は、ずり落ちにくくなるって誰かが言っていた気がする。


あれ? 誰が言ってたんだっけ?


光助が俺の代わりに手を振っているのを横目に、きゅっと口角をあげる。


王様は何だか疲れた様に息を吐いていた。


不知火は王様とは逆に安心したように笑っている。


「君たちは乗り物、大丈夫ですか?」


不知火が首を傾げた。


光助は俺を確認するように此方を見てから、答える。


「海の上とかあんまり長時間いたことはないけど、多分、大丈夫です」


「俺も平気です」


俺達が答えると、不知火は面白いことを言われたというように笑った。


光助が笑ってしまうほど失礼なことを言ったかと、慌ててこちらを見てくるが、俺だってどうして笑われたのかは分からない。


ふーっと息を吐いて、落ち着きを取り戻してから不知火は言った。


「私たちの移動手段は」


ぴっと人指し指が天井の方に向けられる。


「空だよ?」


決まっているでしょう? と言いたげに言われたその言葉に「ああ」と納得したように光助が声を出す。


フェニックスといえば鳥だし、当たり前といえば当たり前なのかな。


「空なら大丈夫ですよ」


光助が答え直すのを聞きながら、俺も頷く。


「では、行きましょう」


不知火ではなく、王様がそう言う。


これが決定事項で、逃げるタイミングがないから、何も言わず立ち上がるしかできない。


そうでなければそそくさと、帰宅の準備をする。


安全な場所で高みの見物をしている。


「こちらです」


部屋から出て、知らない廊下を歩く。


ぽつぽつと雨が降っているのが分かった。


夜中だからか空気は冷たくて、空は薄暗い色ではなく黒くなっている。


城の入り口とは反対側の場所。


塔を挟んだ向こう側。


まだ、足を踏み込んだことのない城の左側。


太陽のように明るい飛行船が止まっている。


それから天使が降り立つように羽を広げ、誰かが出てきた。


顔を覆う仮面をつけている。


多分、不知火を迎えに来た二人と同じだろう。


「ああ、彼も来たんだ」


不知火がぽつりと、こぼした言葉から、もともと来ないはずだった奴らしい。


皆、黙って歩く廊下は雨の音と足音だけが響いていた。




「つきましたよ」


長くもあり、短くもあった時間。


ようやく目的の場所についたらしく、王様が一つの扉の前で止まる。


「さあさあ、行きましょう」


不知火が扉を開けると、扉の隙間から風と雨が入り込み、体を撫でつける。


嫌がるように不知火の羽が動いた。


扉の先は少し広めのベランダのような場所で、ヘリポートみたいな場所を想像していたから驚いた。


「ここ、止められるような場所ないから」


不知火を迎えに来た少女の方が俺の疑問に答えるように教えてくれる。


内緒話をするように口を手で隠しているのが、可愛らしい。


王様がごほんっとわざとらしく咳をしてから、「すまないが」と、すまないとは思っていない声音で言葉を吐きだす。


「私は高いところが苦手でね、ここから先はついていけないので、ここで見送ることを許してくれ」


その言葉に光助は爽やかに笑いながら、「大丈夫ですよ」と返していたが、俺は胡散臭いとしか思えなかった。


あれ、馬鹿と煙は高いところが好きって言うし。


ぬし様」


「ああ、陽炎。ちょうどよかった。二人を運んで」


王様と光助が話している時、さっき飛行船から出てきたのと不知火が話しているのが聞こえた。


短い会話の中でも、不知火のことを慕っているのはよく分かる。


「よろしいのですか?」


 途中から、誰かに聞かれているかもしれないということに気が付いたのか、会話が聞こえなくなった。


一瞬、こちらを睨んだような気がする。


聞かれたくないなら、もっと小声で喋ればいいのに。


聞き耳をたてるのは止めて、この飛行船、どうやって乗り込むのかを考えることにした。


入口は俺たちが乗るには上すぎるし、梯子とか乗るための道具があるのだろうか。


梯子では、さすがに短すぎるか。


「十夜」


 名前を呼ばれて振り返ろうとした。


が、振り返る前に体が浮く。


誰かに抱き上げられたのだと気が付いて、目を見開く。


「は? え?」


 じたばたするのだけは避けたが、米俵みたいに抱き上げられて、視界がゆらゆらと動いている。


「あはは、十夜、大丈夫?」


 俺より先に抱き上げられていた光助が、抱き上げられた体勢でひらひらと手を振っている。


「平気」


 そう言ったが、急な展開に頭は追いついていない。


ばさり、と視界を覆い尽くす様に紅色が広がる。


それが生き物の様に動いているのに気が付いてから、羽だと気付く。


「いってらっしゃいませ」


神楽木の声が聞こえた気がするが、羽の音に掻き消されてはっきりと聞こえなかった。


飛行船の入口に着いたのだろうか、いきなり放り投げられる。


背中を強く打ったが、床が柔らかかったがあまりダメージはなかった。


「もう、陽炎は乱暴だな」


 くすくす、と笑いながら不知火が飛行船に乗り込むと、入口が静かに閉まった。


「いてて」


 背中や頭を撫でながら、光助が体を起こす。


俺も体を起こし、飛行船の中を見た。


飛行船の中はここで住んでも問題ないくらい綺麗に整えられており、テーブルやソファーがある。


「何か飲む?」


 少女が声をかけてくれたが、首を振ることしか出来なかった。


立ち上がり、飛行船の窓の近くに備え付けられているソファーに座る。


外は色とりどりの光が見えた。


不知火が自慢気に言っていた国は優しく柔らかい皆が皆を気にして、手を取り合っているような国らしい。


今から、そんな所に行くらしい。


俺たちが住んでいた場所は、全員が全員、自分のことで忙しそうだった。


周りにいる人など存在しないかのようだった。


ひたすら携帯やゲーム機に向かって指を動かしていたり、イヤフォンで音楽を聴いていたりしている。


だけど、彼の国は違う。


支え合い、信頼し合い、そして誰もが国の長に忠誠を誓っているのだろう。


ああ、気持ち悪い。


窓枠に手をつき、口の中を噛む。


はやく、こんな悪い夢から覚めたかった。

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