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はじめは、こちらを気にしてちらちらと見ていた因香は定位置なのか、ご飯を食べた時と同じ椅子に座っている。
今は側付きというやつなのだろう、因香の服装の色と似た色を纏った人と話しているから、こちらに目を向ける暇はなさそうだった。
王様の中では、俺は取るに足らない存在になり果てたようで、入ってきてから一度しかこちらを見ていない。
神楽木美羽にとっては、もはやなきに等しいだろう。
初めから興味あったのかも怪しいし。
何が言いたいのかというと、つまり手持ち無沙汰なのだ。
学校ならば、まだそれなりに仲良くしている人も暇をつぶす本やゲームだとかもあるが、今は少ない人数の中、何も持たずに放置されている状態だ。
ここに連れてこられた目的は既に達成しているらしい。
誰も要件を言わないのだから、きっとそうなのだろう。
だから、移動まで時間、しばらくはここで時間を潰さないといけないということになってしまう。
部屋に帰りたい。
いつもの様にポケットに手を入れて、「あ」と気が付く。
いつもポケットの中に入っている物とは違う感触。
そういえばポケットに入れっぱなしだったな、髪飾り。
それを触りながら悩む。
光助は話に夢中になってるのと、俺と不知火が仲良く話すだろうと思い込んでいるだろうから、こっちには戻ってこないだろうし。
さて、どうするべきか。
目の前に同じように、放置されてる奴がいる。
さっきは服装のせいで、しっかり見ていなかったが、中学生くらいの幼い顔をしているし、足元は背丈を大きく見せるために厚底の下駄だ。
今、幼い顔を歪めて頼りなさげに周りを見ている様子から、更に子どもの様に見える。
聞きたいことはいっぱいあったが、こちらから声をかける気はなかった。
あんな他人行儀な対応をされて、気さくに話しかける行動力は俺にはない。
俺も同じような対応をしたのだから、余計に。
だが、その好奇心が思いがけなく満たされることになった。
向こうから声をかけてきたのである。
「宵野様、こっちで一緒にお話ししませんか?」
耐えきれなくなったのか、近くの椅子を引き、隣に座るように促された。
構え、構えと足にまとわりつく犬に雰囲気が似ている。
そのせいで、さっきまでの彫像みたいな美しさだと思っていたのに、そう思えなくなってしまった。
「……はい、喜んで」と俺は言って、椅子に座った。
そして話をほかにそらせまいと、こうつけくわえた。
「ぜひ、あなたの国のことが知りたいので聞かせてくれませんか?」
聞きたいことが聞けないと話し合いを承諾した意味がない。
「うん、いいですよ」と不知火は唇をぎゅっと結んでから答えた。
椅子に座り、顔を見ないで話し合いが始まる。
「ディアは北を政言、南を時宗、西を宮助、東を千家という四家が領地を治めてて、その四家の中心に長が住む館があります。小さい頃から剣技や勉学に励むことを義務付けられているから、他の国より学校が多いのが特徴だと思います」
俺は思わず驚いた。
「学校があるんですね」
「驚きました? 学校が必要だと考える国は少ないですからね。私たちの国は誰もが勉学で道を切り拓くことができるというのを目指してるんですよ」
「それはとてもいい考えですね」
表面上の会話をしていると俺は思っているけど、不知火は自分の国を本当に自慢に思っているのか、ほろほろと幸せそうな雰囲気で話をしている。
「四家と長の館には、それぞれ違う花が植えられているんですよ。
政言には現の証拠という紅紫色や白紫色の花が植えられてて、薬にも使われる花で。医療が発達した政言の領地にぴったりの花でしょう?
時宗の領地は女が首位だからか、紫や青、黄や白といっぱい色があって、鮮やかで。三色菫っていう花なんだけど……蝶が飛ぶみたいな花から遊蝶花とも言ったりするんだ。
宮助には都忘れという花が植えられていて、遊ぶ場所や仕事を忘れることができる憩いの場所である宮助にはぴったりの紫や桃、白の花で。
千家には吾亦紅が植えられてて、他の領地とはまた違った花の形をしてて、こう茎の先に穂状の花をつけるんだよ。穂は短く楕円形で、暗紅色に色づくんだ。
で、で、長の館には鳳仙花が植えてあって、鳳凰が羽ばたいているような花姿が名前の由来で。赤い花で、とてもきれい……とっても、とっても、きれいなんだ」
途中から口調が崩れていく。
勢いよく捲したてる様子は、聞いて聞いて、とせがむ子どものようだ。
手で花の形を表現しようとしているのか、それとも気持ちが高ぶっているのか、身振り手振りが多くなっていく様子も、口調も、昔いた近所の子を思い出す。
「それで、それで!」
「……本当に自身の国のことが好きなんですね」
その言葉を聞いた不知火がこちらを見たのを横目で確認する。
きょとんとした目の中で星が輝いていた。
不知火は、「ふふふ」と笑みをこぼして、当たり前だというように頷く。
「ええ! 私たちの国はどこの国よりも素敵な場所です」
その自信が少しだけ羨ましいと思ってしまう。
「皆様、準備が整いました」
凛っと、今まで聞こえなかった音がした。
いつ現れたのか、顔の上半分を隠す仮面をつけた少年と少女が、机の上で正座をしながらこちらを見ている。
一瞬、思考が追いつけなくて、何度も瞬きをしてしまった。
「おかえり、鈴音、凛花」
がたりっと不知火が立ち上がって、囁くように言う。
「本当に自慢の国なので、ぜひ楽しんでくださいね」
「……はい、ありがとうございます」
本当に楽しめるのかは疑問だが、少しくらいは観光する時間はあるだろう。
今のところ、まともなご飯を食うのが一番の望みだけどな。




