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綺麗なガラスに囲まれてなお、その美しさを損なわず宝石のように煌々と燃える炎に燃えるすべを教えているような鮮やかな赤を纏っている。
黒人の耳を飾る豪華な宝石のように夜の頬を飾っている。
人が使うにはおそれ多く、この世のものとは思えない貴い美しさがそこにあった。
神でもその美しさに嫉妬することだろう。
まわりの者たちに立ち混じる姿は、まるでカラスの群れに舞い降りた純白の鳩のようだ。
「なんて」
いつから俺は小説家になったのか。
そんなことを考えてしまった自分がおかしくて小さく声を出して笑ってしまう。
それに気がついて、光助がこちらを見る。
当たり前の反応なのに、こっち見んなと思ってしまった。
「どうしたの? 十夜」と首を傾げる光助。
不思議そうに俺を見ている。
「何でもないよ」と俺は片手を振った。
光助には関係ないことだったし、答える気もなかった。
誰も座ってない椅子の横を通り過ぎて、彼らの近くに連れて行かれる。
近くに来て見れば、より作り物めいているようだと思えた。
重ね着により厚みが増し、また手を隠すほど大きな服によって男とも女とも断言することができないほど巧妙に体の線が隠されているが、男だろうと女だろうと誰かが作った石像のような整った体をしていることだろう。
光助とはまたベクトルが違ったイケメンだし。
いや、イケメンというよりこの人には麗人とか美人とかいう言葉の方が似合う。
彫像のように体温の低そうな白い肌は触った人の体温を奪ってしまいそうだと思えたし、唇は血を塗ったように紅く(紅を引いているのかもしれない)、その口から出るのは清い者を囲い、誘惑する悪魔のような艶かしい声だ。
悪魔のような美女(女かどうかは分からないけど)というのはこういうことを言うのだろうな。
ぴんっと伸ばされた背中には柔らかそうな薄紅色の羽が邪魔にならないように折りたたまれている。
両目は星を瓶詰めしたように柔らかな光が輝いているが、静かな水面のような笑みのせいでその魅力を損なっているように思えた。
人ならざる者だからこそ美しいのか、元来の美しさなのか。
どちらにしても、この世界の生き物であるからだろう、と思う。
「不知火さん!」
光助が相手の名前を呼ぶ。
「光助様」
相手もそれに答える。
恭しくそれが微笑みながら一礼をした。
不知火と呼んだそれに光助は俺のことを自慢するように、それの目の前に立たせた。
ぐいぐいと引っ張られて連れて来られたから、拒否権はない。
でも、目の前にたってからも腕を組む必要はないので離してもらいたい。
蹴飛ばしたり、つねったりしたら離れるかな。
そう思っていると、紫に近い黒の目がこちらを睨みつけるような勢いでじっと見ているのに気がついた。
とりあえず、少女のようにくすぐったそうに笑っておいた。
かわい子ぶりっ子ってやつだ。
「……お目にかかることができ、光栄です、宵野様」
「……初めまして」
お互い、相手の中にある何かを探るように挨拶をする。
目は合わなかった。
手も出さなかった。
頭をさげることもしなかった。
義務的な挨拶だ。
「綺麗な人でしょう?」
光助が好きな人を打ち明ける少女のように声を潜め、くすくすと笑いながら耳打ちする。
その言葉に頷きたくなかったが、否定する要素もなかった。
「そうだね」
俺が答えると、光助は自分が見つけてきたお宝を褒められたかのように自慢げに笑った。
「本当に綺麗だと思うよ」
俺がそう続けると、ますます嬉しそうに口元をほころばせる。
「そうだよね、本当に、本当に、綺麗な人」
それ以上、何も言わずに光助は組んでいた腕を離し、不知火の近くに立って自分の父親と話していた神楽木に話しかけに行ってしまう。
伝えたいことが伝え終わったからといって、放置するのはどうかと思う。
俺はその様子を見ながら、さっきから何度も繰り返し光助が不知火に対して言っている言葉に気が付いた。
「人……ではないと思うんだけど」
何度も光助は不知火のことを人と言っていた。
だけど、目の前にいる不知火は、どこからどう見ても人ではないような気がする。
羽が生えているだとか、目の形だとか。
人とは少し違う生き物であることは間違いない。
光助にはこいつがコスプレしているだけの人に見えているのだろうか。
というか、ここの王様もこいつらが人ではないと言っていたはずだけど。
そう、近づくのはオススメしないと言っていたような気がするんだが。
なのに、なぜ?
上から下まで確認するように不知火と呼ばれたそれを見る。
相手はその視線に気が付いて、子どもの頃、先生にやられたことがある唇に人差し指を当てて黙っているように促す動作をする。
ああ、多分、というか絶対、こいつら何かやったな。
そう確信して、頬が引きつった。




