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どこに座ろうかと悩むほど、この部屋の中は広くはない。
薄い桃色で模様が描かれている天井が少し高めに作られているが、部屋の中は同じような装飾が施された家具が置かれているせいで圧迫感があるように思う。
つまり、一人用の部屋の中に自分も含めて五人もいると少し狭いように思った。
というか、明らかに狭い。
この部屋の中で過ごすことを考えずに、物をどけてしまえばきっとそれなりに広い部屋なのだろうことだけは分かる。
五人? そういえば、ヘルフリートはどこに行ってしまったのだろうか。
姿を消しているのか? それとも。
そんな風に考えながらセオドアと因香を見る。
セオドアは楽しそうに此方を見ているが、因香は少し心配そうにセオドアを見ていた。
「それで、何でお前がいるわけ?」
随分とかすれた声しか出せないと思っていると、喉に苦しさを覚え、数度ごほっと咳き込んだ。
右手で口を覆ったせいか、右手に生温かいぬるりとした感触を感じる。
一度だけではなく、何度も咳き込み、それを吐き出そうとする。
喉や体が痛むわけではないのが唯一の救いの様に思えた。
漸く咳が止まったころ、嫌な予感を覚えながら右手の中を見る。
真っ赤な血がべったりとついていた。
あまり大きな怪我をしたことがなかったせいか、その血の臭いや水みたいな感触がやけに生々しく感じる。
それが自分から吐き出されたというのが一番、信じたくないことだが。
うげっと顔を顰めてから、口まわりと手の血を服の袖で拭う。
致命傷だったから仕方ないかもしれないけど、こうして本当に傷がついたことが分かる現象は嫌だ。
病気だということは考えなかった。
考えたくないという方が正しいけど。
もう一度、氷が刺さった場所にぺたりと手のひらをつける。
心臓が波立つ音が聞こえてくるのに、安心した。
「大丈夫?」
何が楽しいのかにこにこと笑いながらセオドアが聞いてくる。
大丈夫なわけあるか、ボケ。
そう口に出そうとして止める。
きっと、そう言葉を告げたとしても優しさの分かる静かな表情で優しい言葉を吐くだけだろう。
それよりも状況を説明してほしかった。
色々なことがあったせいで、精神的に疲れていた。
ふーっと疲れを吐き出す様に息を吐く。
「とりあえず、説明して」
正座にしていた足を崩す。
かしこまる気も起きなくなったからだ。
両膝を左右に開き、体の前で両足首を組んで座る。
「ん、まあ、簡単な話だよ」
ふわりとカーテンが風で揺れるような自然な動作でセオドアはお茶が入っている容器に口をつけながら言う。
「死にかけたことにより、君の魔力が暴走した」
お茶を一口飲んでからセオドアは言葉を続けた。
よくよく見れば、その容器の中身は茶色でも緑でも赤でもない。
透明のように見えたが、所々白く濁っているように見える。
液体というよりはゼリーやヨーグルトのような半固体のように見えた。
こいつらは何を飲んでいるのだろうか。
少しだけ不気味に思ってしまったが、そもそもここに俺が知っている物がある方が少ないと自分に言い聞かせた。
「それで?」
その容器から目線を逸らし、セオドアの肩の方を見ながら続きを急かす。
セオドアは安堵と少しの悲しみを含んだ笑みを浮かべながら此方を見ずに答えた。
「魔力の暴走が危険域に達しそうになったから、それを正しい流れに戻しただけだよ」
その答えに因香は仕方がないというように首をすくめながら笑っている。
その様子はどこか嬉しそうな様子に見えた。
「もっと詳しくお話すればよろしいのに。急いで駆けつけてきたのだから」
その言葉にセオドアはなんとなく気が落ち着かないのか、ふらふらと体を揺らしながら唇を尖らせる。
「そんなことより、大事なことは彼女の方だろう」
胸の方から落とされたのか地面と胸が接しており利き手であろう手を押さえつけられている彼女を指差す。
背中に馬乗りになった男がご丁寧に口を塞いでいた。
確かにそっちも気になるが、もうちょっと説明してくれてもいいのではないだろうか。
その気持ちが漏れ出していたのか、セオドアは嫌そうに顔を顰めながら言った。
そんな風に素直に感情を出すこともできるんだな、とへらっと笑ってしまう。
「容器の中に一定の量の水を入れて一定の量を流して同じ量を保っていたのに、ある時急に倍以上の水をいれ続けて水を流さなかったら零れるだろう? その流れを容器から零れる前に止めただけだってば」
むすっと不貞腐れた様に言うセオドアの言葉に、なんとなく想像はできた。
最初からそう説明すればよかったのに。
まあ、その説明も分かりにくいものだったけど。
「ああ、セオドア様。そんな不貞腐れないでください。もう、酔ってしまったのですか?」
クスクス、と笑いながら因香がセオドアの頬を触る。
どうやら飲んでいたのはお酒のようなものだったらしい。
だから、こんなにセオドアの表情が豊かだったのか。
呆れて何も言えない。
セオドアはお酒に強いイメージがあったのだが、どうやらそうでもないらしい。
それとも、それだけの量を飲んでいたのだろうか。
「主様」
そんな風に考え込んでいると女を押さえつけていた男が声をかけてくる。
その声音はどこか冷たさが滲んでいたような気がする。
だが、それはセオドアに呆れたというよりは、構ってもらえないことに苛立ったのだということが彼の表情から読み取ることができた。
種族的に犬に近そうだし、ご主人様が大好きなのだろうな。
そんな俺の生暖かい視線に気が付いたのか、きっと睨まれてしまう。
「んー、そうだね。彼女の話をしようか。うん、うん、それが大事だからね」
花が咲いたように微笑むセオドアの言葉に男は押さえつけていた手と口元を解放する。
馬乗りの体勢がそのままであることから、立ち上がらせる気はないらしい。
「可愛い名前のない私の家族」
のんびりとした口調でセオドアは言う。
「彼女のことは十夜にも関係のあることだからね」
そう言葉を呟きながら、セオドアはまた容器に口をつけた。




