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番外編:誕生日 十夜の場合

この作品は本編とは違う時間軸です。


「誕生日おめでとう」


 最初に家族以外に言われたのはいつのことだっただろうか。


光助がそう口にしたのを聞いて、何だか随分、久しぶりに他人に祝われた気分になった。


「……ありがとう。何だか照れくさいね」


 にっこりと笑いながら当り障りのない言葉を返す。


そう思えば、とふと考える。


家族全員に祝ってもらっていたのはいつまでだっただろうか。


少しだけ豪華な自分の好きなものしか用意されていない夕ご飯も、特別に用意されたデザートに蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる光景も、淡い色の包装紙に赤いリボンが付けられている母から渡されるプレゼントも、買ってきた場所の袋のまま渡される父からのプレゼントも、どこか遠い懐かしい記憶の様に思えてくるし、最近のことの様にも思える。


「あのさ、十夜」


 何か言おうか、言わないでおこうかと悩んでいた光助が、意を決したように口を開く。


「ん? 何?」


 それに気が付いていないように振る舞いながら俺は笑顔で首を傾げる。


「その……本当は家族から先に貰った方がいいと思ったのだけど、明日渡すのもダメかと思ったから今、渡しとくね」


 光助は少し緊張したように鞄の中から何かを取り出し、俺に手渡してきた。


それは単行本くらいの大きさをしている綺麗に包装紙で包まれているものだった。


俺は少し光助と包みを何度か見た後、嬉しそうにはにかむように笑ったフリをして、その包みを受け取る。


貰うのを断るより後で処理を考えた方が楽だと分かっているからの行動だった。


今までだって家族以外から受け取った不必要な貰い物は全部、処理できてきたし。



そう思って受け取って、それからどうしたのだっけ。


多分、家の何処かに放置されているのだろうが。


その包みを開けることは結局できないまま、今この場所にいるのだと思うとあの包みがいったい何だったか少しだけ気になる。



「どうかしたのかい? 十夜」


 最近、聞き慣れ始めた声に今がどこかを思い出す。


今、いる場所はあの場所とは全く違う世界。


しかも、光助が絶対来られない場所。


光助たちは知らない俺たちの秘密基地。


「別に、何でもない」


 木で作られた机の上に肘をついてぼー、としていた俺を心配してかセオドアが声をかけてきたのだろう。


重要なことを考えているわけではないので、何でもないと答える。


セオドアは笑顔で頷いた後、そっと俺の頭を撫でた。


少しだけ何かの薬品が鼻をつく。


「あんたこそ、何してたんだ」


 撫でられる手を払いのけて、反対の手でセオドアに対して指を差しながら言う。


セオドアは気にした様子はなく、クスクスと笑いながら俺の質問に答えた。


「ああ、さっきまで薬を作っていたのだよ。因香のものと不知火のものをね」


 その言葉にまたか、とため息を吐いた。


この二、三日ずっとセオドアは彼らの薬を作り続けている。


薬を作るのには勿論そのための材料がいるのだが、その材料というのが貴族ほどの位があっても入手が困難なものらしい。


手に入れることが困難な材料を使ってもできる薬の量は十センチもない小瓶ほどだという。


ラルスが何とも言えないような表情でそのことを言っているのを聞いた。


いや、あれは俺たちに気軽に触るなと遠回しに言っていたのだろうな。


触る気はないから無視したけど。


その材料を手に入れてくるセオドアもおかしいのだが、それを当たり前の様に受け入れているラルスや俺も随分とセオドアという人物に染まったものだ。


「今日は随分と早めに作業が終わったんだ」


本当に生きているのか怪しい雰囲気を纏っていても俺たちと同じように体に変化はでるらしい。


よく見たらセオドアの目の下に隈ができている。


「あとどれくらい作るんだ?」


 ふと、疑問を抱き、聞いてみる。


セオドアは少し考え込むような素振りをしてから、俺の近くにしゃがみ込んで答えた。


「因香はもうすぐよくなるのだが、不知火はまだ必要かな。数は……うーん、分からない」


 クスクスと笑いながらそう答えたセオドアの頭を叩く。


「お前が無理したらラルスの機嫌が悪くなるんだから」


「あー……だから、今日のご飯が私の苦手なものだったのか」


 思い出すように上を見ながらセオドアはさらに笑う。


その笑い声を聞きながらため息を吐いた。


何度、言ってもセオドアは自分のしたいことを止めることはない。


それがセオドアだから、まあ、仕方ない。


「そういえばお前さ、生まれた日、いつ?」


 さっき思い出していたことのせいか、ふと、面白半分で聞いてみたくなった。


セオドアは少し驚いたように目を見開く。


こいつでもこんな顔、するんだ。


そんなことを思いながら答えを待っていると、セオドアは俺から完全に顔が見えないように下を向いて答えた。


「……さあ? 忘れていしまったよ」


 その声が少し震えているように聞こえたのは気のせいだったのか。


「……そう」


 そこまで気になっていたわけではないから、別にセオドアの返答が気にくわなかったわけではない。


「それよりも君の誕生日は?」


 話を変えるようにセオドアは俺が聞いてことを聞き返してくる。


「さあ? こっちでの年月のわけ方は向こうと違うしね」


 その質問に少し考えた後、やっぱり分かるわけもなくその質問に答える。


「ああ、そうか」


 当たり前のことに気が付いたセオドアはそう呟いた後、バッと立ち上がり、此方を見ながら言った。


「それなら今から君の誕生日を祝おう!」


「……は?」


 その言葉を理解するより前にセオドアは嬉々として、どこかに向かっていく。


きっとラルスの所なのだろうが、取り残された俺はどうすればいいのか。


「あー、聞かなきゃよかったかも」


 そう呟きながら、つい笑ってしまう。


きっと皆が俺のために誕生日を祝ってくれるのだろう。


それも悪くないと思ってしまうのは、彼らのことを家族だと思ってしまっているからだろうな。



「誕生日、おめでとう! 十夜」


 聞こえないはずの光助の声が聞こえたような気がした。

十夜の誕生日は6月2日でした。

ずいぶん、遅れてしまいました。

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