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01/30 本文改変
さっきの部屋――主曰く拷問部屋らしい、悪趣味だ――を出て、二つに別れた道を左に曲がり、その道を直進してから一つ目の角を右に曲がって、また直進する。
まるで迷路の中を手掛かりなしで歩いているみたいに同じ場所をぐるぐる回っているような気がしてくる。
気のせいだと分かっているけど、その考えは中々消えない。
それはこういったちゃんと作られた場所を歩くのは、だから嫌いなのだ。
同じような風景にしか見えない。
ぎっと唇を強く噛む。
大丈夫、大丈夫。
心の中で繰り返す。
このまま真っ直ぐ歩けば、因香様の所まで行けるだろう。
途中で香りが途切れていなければいい。
香りと話し声だけが手がかりなのだ。
そんなことを思いながら真っ直ぐ歩いていると、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
部下と話しているからか、高圧的な態度で自分たち以外を人とは思っていないような言葉を吐いている。
嫌いなあいつの声。
意見を否定するような話し方。
話の腰を折るような言葉使い。
自分自身が知っていることを、さも常識の様に話す態度。
だから、この国の王は好きにはなれない。
ああいう人間は大嫌いだ。
このまま、歩き続けていればあいつが主に気が付くかもしれない。
それは少し、面倒だ。
色々な意味で。
その前に道を変更することを提案しよう、と主の顔色を窺いながら声をかけた。
「……セオドア様、あの……」
主はにっこりと笑いながら優しく返事をしてくれる。
その笑みを見て、主はまだあいつに気が付いていないのだと思い、安堵する。
「どうしたのだい? ラルス」
そのことに安心しながら僕は道を変更することを提案しようと口を開いた。
だが、僕の提案が言葉になる前に主が声を殺すように笑ったため、僕は言葉を飲み込んでしまった。
急に変な笑い方をして、どうしたのだろうか。
「セオドア様?」
不思議に思って問いかける。
また、面倒なことを思い付いたのだろうか。
そう楽観的に考えていたため、一瞬で無表情に変わった主が前を見ながら呟いた言葉に反応することができなかった。
「……本当に、馬鹿な奴だな」
苛立ちと呆れを含んだその言葉はいったい誰に向けてだったのか、想像はできるが確信はなかった。
分かることはどんな感情であれ感情を抱くということは、まだ確かにその人を愛しているということ。
聞こえてくる王と部下の会話の内容を頭の中で繰り返しながら、横目で主を見る。
主は此方の視線に気づいているのに少しの間、それを無視される。
歩く速度はさっきと変わらないのに、近寄りがたく思った。
やばい、と警告音がなったような気がしたが、気のせいだと思いたい。
主はあいつらにばれないように移動しているのだから、それは杞憂なのだ。
そう、心配しすぎだ。
そう心の中で言い聞かせる。
さっきまで僕の方が前を歩いていたのに、今は主の方が前を歩いていた。
三つほど扉を通り過ぎてから、いつもの優しい表情を浮かべた主が此方を向く。
そしてさも名案だと言うように提案をしてくる。
その笑みが、なぜか怖かった。
「少しだけならばれないと思うから、強化魔法使っちゃおう」
その言葉を断る理由はなく、むしろ有難い提案だと思いながら頷く。
はやく終わらせて帰りたい。
主は頷いた僕の頭を優しく撫でてから、右手を足に翳して、何かを小さく呟いた。
何かを言っていることは分かったが、なんという呪文を言ったのかは理解できなかった。
そもそも魔法の仕組み自体分からないのだから仕方ない。
主の右手が淡い水色の光を発するとその光が足を包み込んだ。
その光が足に吸い込まれるようにして消えると主は手を自分の体の横に戻して言った。
「これでいつもより速く走れるよ」
クスクス、と楽しそうに笑いながら両手を広げて言った主の意図が分かり、その体を持ち上げる。
女が憧れると主から聞いたことがある横抱きではなく、樽を運ぶ時のような持ち方だ。
本当はこのような持ち方はしたくないのが、主がそれでないと嫌だと言って聞かないから仕方がない。
女のような持ち方の方が安定するのではないかと疑問に思ったこともあったが、どちらもされたことのない僕には分からないことだからおとなしく言うことを聞いておく。
相変わらず、綿のように体重を感じないことを不思議に思いながら落ちないように抱えている手に少し力を入れてから全速力で走った。
力いっぱい走るのは気持ちがいいが、これからのことを考えて少しげんなりとした。




