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01/30 本文改変
ぐいぐいと拒否権なく引っ張られる方向から自分がどこに連れて行かれそうになっているのかを予想して、はあ、と息を吐いてから不貞腐れたように呟く。
「わざわざ魔方陣の方を使うのですね。無断で行くほうが多いじゃないですか」
唇を尖らせて言ってしまった言葉にしまった、と頭を振って、空いている手で目元を拭う。
子どものような感情が込みあがってくるのを主にばれたくない。
おいて行かれることが嫌だなんて。
こんな感情はいらない。
ぐっぐっと目元を拭いながら、どうにかいつもの表情に戻そうとする。
主は僕の言葉に、実際にそんなに不思議でもないだろうに「そうかな?」と不思議そうに呟きながら芝居がかった動きで首を傾げた。
此方を振り返ることをしなかったのだけが救いだった。
その言葉に、見えないと分かっていても頷いてしまう。
いつも、いつも、一人で遊びに行っているくせに。
睨みつける僕の視線に気にした様子もなく、主は言葉を続けた。
「まあ、無断で行くのは楽だし好きに動けるからね。魔方陣を使えば、訪問したこととか誰と一緒に来たのかとか向こう側に伝わってしまうから面倒だけど、正式に訪問する方が今回はいいと思うのだよ。私達は、何も悪いことはしていないのだから」
本当に悪いことはしていないと言えるのだろうか、と考えながら主を見る。
確かに、今回は何もしていないのかもしれない。
だけど、本当に何もしていないのだろうか。
そう考えて、少ししてから納得しておいた。
確かに今回は、悪いことはしていないのだろうということにしておく。
わざわざ自分から言うのだから、信じておこう。
信じることは大事だからな、うん。
ふふふ、と楽しそうに笑う主に引っ張られるまま二階の階段を上がり、主の部屋に足を踏み入れる。
二階にはあまり上がることはないし、主の部屋も入ることはないから物珍しい。
いつも寝ている場所がバラバラだが、一階で寝ている時しか起こさないから部屋に入ることはないのだ。
二階で寝ている時はどうにも入ることを遠慮してしまうのだ。
それがどうしてかは分からない。
二階の階段を上りきってから主は引っ張っていた手を離し、一番手前の部屋の扉を開けた。
ばん! と勢いよく開かれた部屋の中は本や宝石、魔方薬の材料や完成品などが乱雑に置かれている。
そんな部屋の中に入りながら周りを見渡し、主は独り言のように言った。
「この家も随分と使ったけど、家族が増えるなら新しく建て直そうか。今度はもう少し広めに造るほうがいいよね。この家みたいに台所と居間、二階に二部屋はさすがに狭いからね」
その言葉に僕は主の後を追って部屋に入ろうとした足を止め、周りを一度見渡してから呟いた。
「貴方が作った家なのに、潰してしまうのですか?」
その言葉に微笑んだまま表情が凍って固まってしまったかのように、うっすらと顔に笑みを張り付けている主は何も言わず、手前にあった何も入っていない空瓶をガンッと蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた瓶は積み上げられている本に当たり、転がる。
主の行動が怒っているからではないと分かっていても驚いて足を一歩下げてしまった。
全身の毛が驚きで逆立つ。
「……確か、この辺に魔方陣が描かれているはず」
主は此方を見ることもなく、そこにあると言う魔方陣の上にあるものを退けていく。
その行動から本当は怒っていたのかもしれないと、考えてしまう。
尻尾が高くもなく低くもない場所でゆっくりと揺れる。
「あー……あった、あった。よかった、間違ってなくて」
少しするとどの色にも見える魔方陣は床から現れた。
その魔方陣の上に慣れた様子で立って、主が此方を見て手招きをする。
「おいで。早く行こう」
本当は駆け寄ってしまいたいと思っていたが我慢して主の近くに歩み寄る。
おいて行かれなくてよかった。
そう思っていたからか、尻尾がパタパタと素早く動いた。
主に近寄ると主は僕を魔方陣の中にしっかりと入らせてから、三度、魔方陣の中心を勢いよく踏んで何かを呟いた。
その言葉は聞き覚えのない言語だった。
カッと光が魔方陣から溢れ出す。
眩しすぎてぎゅっと目を瞑ってしまったが、すぐに光が治まる。
ゆっくりと目を開けると目の前はもうさっきの部屋ではなかった。
冷たい石で囲まれた窓のない暗い部屋。
初めてここに足を踏み入れたな、と思いながら地下だろう石で出来た部屋の中を見渡す。
「因香ちゃんに会うのが先かな?」
そう言いながら主が魔方陣から足を踏み出して此方を見ながら笑う。
その笑みの意味を理解して、ため息を吐いた。
「匂いで探すって、本当に動物みたいで嫌なのですけど」
そう言いながら主をきっと目元を鋭くさせて見ても、主はただ笑うだけで何も言わない。
その反応にもう一度、ため息を吐いてから頷く。
「分かりましたよ。探しますよ」
その言葉をやけくそになりながら呟く。
尻尾が大きく一回動く。
そのまま動きそうになる尻尾を片手で押さえつけ、主を窺い見る。
僕の言葉を聞いた主は嬉しそうにパチパチと手を叩いて、「よろしく」と笑った。
本当にこの主は。




