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033

01/21 本文改変

炎のような激しい怒りを瞳に宿しているからだろうか、彼女の苛立っている視線をうけて体の一部が焼けていると思うほどの熱を感じた、気がした。


それが錯覚だと分かっていても、その熱を感じた首を手の甲で拭い去るように動かしてしまう。


彼女の様子を見ながら挑発じみたことをしすぎただろうかと少しの後悔を滲ませて、まあ、いいかと思い直した。


そもそもヘルフリートがいなければ実行しなかったというか、考えなかった行為だし。


そんなわざわざ自分から危険に突っ込んでいくなんて馬鹿なことはしないよ、多分。


そんな風に内心でふざけながら無邪気そうなにこにこ顔を浮かべる俺を見て彼女が苛立たしそうに舌打ちをする。


おお、怖い、なんてね。


心の中で馬鹿にしたようにくすくすと笑っていると、視線が赤と桃色が混じった色をとらえた。


さっきまで姿を隠していたヘルフリートは彼女が剣をふり下ろそうとした瞬間に、その剣を受け止めるために姿を現していたのだ。


姿を消した状態では剣を止められなかったのだろうか。


それか、俺の呼びかけに応じたという意思表示のために姿を現したのかもしれない。


そんなことを考えながら、彼女が親の仇を見るように憎々しげに俺を睨む目を無視してヘルフリートを見る。


さっきまで、俺の目の前で研ぎ澄まされた剣を右手だけで受け止めていたヘルフリートは俺の視線に気付き、そんなことがなかったかのように優しい笑みを浮かべて此方を振り返り言った。


「どうかなさいましたか? どこかお怪我でも?」


ここで怪我でもしたと言えばヘルフリートはどういう行動をとるのだろうか。


そう思うと何だか楽しい気分になってくる。


だって、俺の一言で彼女の命は終わるかもしれないのだ。


まあ、ヘルフリートが本当にそういう行動をとるか分からないけど。


それに今、彼女に死なれると困るのは他でもない俺だしな。


片手を頬にやり、可愛い子ぶった女のように可愛らしい微笑みで答える。


「大丈夫、怪我一つしてないよ」


 自分でやっといて、気持ち悪い。


内心げーっと舌をだして、げんなりとしていると、その言葉を聞いたヘルフリートは安心したように微笑み、剣を受け止めていた後、ぎゅっと握りしめていた手をそっと開いた。


小さな手のひらから零れ落ちる赤が床に落ちていく様子を見て俺より、剣を向けた彼女の方が息を飲み、はくはくと息を求める仕草をしながら怯えた様に首を横に振り、目を見開いている。


力が抜けたのか彼女の手が剣を手放す。


重力に勝てるはずもなく、支えるものがなくなった剣は彼女の真横に落ちた。


床と剣がぶつかり合い、大きく音を奏でる。


落ちる剣を見ながら今なら彼女が持っていた剣を奪えるかもしれないと一瞬でも思ったが、落ちた音が重そうだったから、もしかしたら俺には持てないかもしれない。


それにまず彼女の方に駆け寄る行動が必要になるし。


「う、嘘だ……!」


 彼女は戸惑ったような声音でヘルフリートの傷ついた手を指差しながら、言葉を漏らす。


その言葉の意味が分からず首を傾げたが、その疑問に答えてくれそうなヘルフリートは俺に向けていた視線を彼女に向けて血濡れの手で口元を隠しながら言った。


傷口のわりに血が多いのか、口元を隠しながらもぽたぽたと血が零れている。


「あぁ、失礼。貴女の存在を忘れていました」


隠した口元が嘲るような笑みを浮かべているのに気づいたが、何も言わないでおく。


これは俺の性格に影響されたのか、それともセオドアの影響だろうか。


そんなことを思いながらすることも無さそうだし、というか今はまだ巻き込まれることもなさそうだし、冷静な気持ちでヘルフリートと彼女を見ていられた。


彼女は恐怖と驚いた瞳でヘルフリートを凝視しながら震える体を抱き締めながら、言葉を紡ぐ。


きっと俺のことを忘れているかもしれない。


それほどまでに彼女はヘルフリートしか目に入っていない気がする。


「……せ、精霊が血を流すなど、あってはならない事だ! 神聖な精霊がけが、けがれ、穢れを! 自ら穢れを作るなど!」


ヘルフリートは彼女の言葉に顔をしかめながら、小さくため息を吐いた。


その様子は本当に嫌そうだということが分かり、俺はくすり、と笑った。


「神域でもないのに穢れを気にするなんて……やっぱりエルフなのですね」


 エルフ。エルフねぇ。


彼女の姿を確かめるように見てから、漫画やアニメまたはライト小説のようなエルフの姿を思い出そうとしたがあまり綺麗に思い浮かばなかった。


なんだか、そういうことを思い出そうとすると靄がかかるように感覚に陥る気がする。


気のせいだろうけど。


それよりも、叔母が話していた神道のことを思い出す。


随分、繰り返し話されたから印象深かったのかもしれない。


豆知識みたいな感じで面白かったけど、何十回も聞かされるのは嫌だった。


そのことを思い出し、若干微妙な気持ちになりながらも彼女が血を恐れることに納得することができる理由になるかと考えたが、何故かそれでは少し納得できなかった。


それはどうしてか分からない。


言い知れない何かがぐるぐると渦巻いている。


 目の前にいるヘルフリートの髪のはしを軽めに引く。


ぐちゃぐちゃした思考は面倒で嫌いだから聞いておこうと思っての行動だ。


ヘルフリートは首を傾げながら此方を振り返った。


その表情は彼女に向けていた表情をころっと変え、可愛らしく微笑んでいる。


彼女が何か言いたげに口を開いて戸惑ったように口を閉じたのをヘルフリートごしに見てから、俺は口を開く。


「ねぇ、ヘルフリート。この世界は生物の身体から離れて、流出した血は穢れとみなされるのか? 身体の一部が身体から分離したものだから穢れっていう考え方は此方の世界にもあるけど、この世界でも通用するのか? 生傷を負って流血している人が神域に入ることとか、神域での狩猟なども同じような理由で禁止されているのとかあったりするの?」


息を飲み込んで固まる彼女とは逆にヘルフリートは俺の言葉に余裕な態度で、うっすらと笑いながら答えてくれた。


「あると言うこともできますし、ないと言うこともできますね」


その言葉を聞いて種族の歴史に関わるのだろうかと考える。


エルフや精霊と言われれば確かに神聖なイメージがあるしな。


だが、本当にそれだけだろうか。


引っ張っていたヘルフリートの髪から手を離してベッドに手を置いてから、反対の手を唇に当てながら考える。


「……じゃあ、何で殺すのは平気なんだ? 血は穢れてるんだろ?」


その言葉にヘルフリートは黙って笑うだけだった。


その言葉に動揺したのは彼女の方だった。


びくり、と体が強張って恐怖に満ちた瞳で彼女が此方を見た。

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