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01/12 本文改変

 ああ、なんて美しい人だろう。


ずきずきと全身が痛み、利き腕の感触がなく、息を吸うのすら辛い状態で押さえつけられた体のことすら忘れそうになりそうなほど、その姿に魅入った。


砂にまみれた口の中など気にせず、いまだに血を流し続ける傷など気にせず、周囲から聞こえる処分の声すらどうでもよくなるほど、その姿に見惚れた。


「ねえ、あなた。私のために生きなさい」


 ああ、なんて美しい生き物なのだろう。


私の体は、私の命は、きっとこの人のためにあったのだ。


私はこの人の全てに、腕に抱く子に、命を捧げるのだ。


ああ、それは、なんて素晴らしいことだろうか。


***


「で? あんたはいつまで扉の前にいるの?」


 何がおかしいのかゲラゲラと聞いていて気持ちのよい大きさで笑っていたことが嘘だったのかと錯覚するくらい落ち着いた声と困ったような笑みで問いかけられて、驚きに体がはね、扉に当たり僅かな音をたててしまう。


その行動を恥じるように唇を噛み、すぐに扉を押さえて先ほどの様に扉の隙間から覗き込む。


あんなことで動揺するとは私はまだまだ未熟でしかない、と少し落ち込んだ。


「うん? 話せるはずだよな?」


 首を傾げながら優しいように見える、私から見た怪しい笑みを浮かべている奴の目と扉の隙間から覗いている私の目が一瞬合ったような気がした。


そらしたのは私ではなく奴の方だった。


奴は自分から聞いたはずなのに興味がないと言いたげな雰囲気をまとい、ご丁寧に、此方に背を向けて彼女のベッドに寝転がってしまう。


私が中に入らないと奴と視線を合わせることができない体勢に苛立つ。


側にいる精霊も奴の行動を止めようとはせず、奴の頭を撫でながら笑っているからさらに苛立った。


馬鹿にされているのだ、この私が。


しかし、怒りに任せて彼女の部屋に無断で入ってはいけない。


規則を守らねば私は私でなくなるのだから。


そんなことも知らない奴は私を苛立たせるようなことばかりを言う。


「……あのさ、何にも言わないんだったら鬱陶しいから帰ったら? というか、さっきのお嬢さんの側にいれば? こっちも疲れているから、相手したくないし」


 その言葉を聞き、どんっと怒りに任せて扉を叩いてしまう。


ようやく私が反応したからか奴はクスクスと笑いながら、背を向けていた体勢から振り返った。


いまだにベッドの上で寝転がっているが腹立たしい。


ああ、どうして彼女は奴なんかを気にするのだろうか。


奴なんて非力なガキではないか。


彼女の側にいる資格も持たない異界の非力な、役にたたないガキだ。


自分のむき出しの太ももに爪をたてて、苛立ちを誤魔化そうとするが意味があるとは思えなかった。


ああ、嫌だ。


嫌いだ。


苛立たしい。


「まだ、喋らないんだな。それとも喋れないのか?」


 クスクスと笑いながら、此方を見ている奴に舌打ちする。


わざとらしい挑発に歯ぎしりしそうになる。


我慢の限界だった。


後で、彼女には額を床に擦り付けながら謝罪をして罰してもらえばいい。


そうだ。


そうしよう。


そう決心してしまえば、迷いなどなく動けた。


勢いよく扉を開けて中に入る。


奴はベッドの上で微動だにせず、笑いながら私の様子を見ていた。


ああ、腹立たしい。


鬱陶しい。


嫌だ、嫌だ。


「死ね、くそガキ」


昔からの相棒のようにここに来てからずっと腰に下げていた氷刃の剣を抜いて、奴の首をめがけてそれをふるう。


自分の剣の腕は褒められるようなものではないと知っているが、それでも戦闘訓練を受けていないのなら怯えて、泣き叫ぶはずだ。


だが、奴は慌てた様子を見せずに、太陽のような輝かしい笑みを浮かべながらたった一言だけ言葉をこぼす。


「ヘルフリート」


さっきまで奴の頭を慈しむように嬉しそうに触れていた精霊が、その言葉を聞き、自身の危険などどうでも良いといわんばかりの速さで奴を守るように剣の前に躍り出て剣を止めた。


分かりきったことだったとしても、やっぱり腹立たしい。


想像した通りの展開がこんなに嬉しくなかったのは初めてだ。


舌打ちをして奴から距離をとって様子を窺う。


奴はゆっくりした動作でベッドから体を起こして此方を見た。


その顔に、まるで母親が子どもを見守るような優しさを含んだ完璧なまでの微笑みを浮かべながら。

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