↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

『それぞれの鍵で開ける朝――板橋・六畳間の冒険者――』

最新エピソード掲載日:2026/08/30
七十二歳の志乃は、板橋区にある小庭付きの古いアパートで暮らしている。年金に加え、最低生活費に足りない分は生活保護費で補われ、基準内の家賃も住宅扶助から支給されていた。週二回の訪問看護と、月曜日に行われる一時間の訪問介護を利用しながら、庭仕事、オンラインゲーム、Web小説の執筆を楽しむ毎日を送っている。

毎週月曜日に訪れるヘルパーの佐竹は七十六歳。佐竹が台所を担当し、志乃は風呂場とトイレを掃除する。病気の母親が入院し、酸素ボンベを使う夫が自宅療養を続けるなか、佐竹は先日、金婚式を迎えた。子供たちから贈られた夫婦おそろいのTシャツを着る佐竹を見ると、志乃は「私もまだまだ」と勇気づけられる。その一方で、発達障害や識字障害がなければ、自分にも佐竹のような「普通の暮らし」ができたのだろうかと考えることもある。

志乃には、強度行動障害を持つ四十九歳の息子・直樹がいる。長年一緒に暮らし、食事や洗濯、服薬、役所の手続きまで志乃が先回りしてきた。しかし直樹は最近、福祉の支援を受けながら、近くのアパートで一人暮らしを始めた。志乃にとって必要なのは、困る前に何もかもしてやることではなく、息子が失敗し、考え、助けを求めるまで待つことだった。

電話が来なければ心配になり、部屋が散らかっていれば片づけたくなる。それでも志乃は直樹の部屋の鍵を持たず、直樹も母親以外の支援者へ相談することを覚えていく。二人は離れて暮らすことで家族をやめるのではなく、互いの人生を覆い尽くしていた共依存を越え、それぞれの暮らしを取り戻そうとしていた。

志乃の小庭、オンラインゲームの町、Web小説の薬草園、そして直樹の窓辺に置かれた小さなサボテン。四つの庭が別々の場所で育っていくなか、母と息子は、それぞれの鍵で自分の朝を開けることを学んでいく。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。