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明日の色を織る令嬢は、冬を抱く王弟と白潮灯台で暮らす  作者: 銀細工ナギ


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17/20

公開審問の五つの証言

 王都の中央審問堂は、朝から人で埋まっていた。


 高い天井を支える柱には、五つの灯台の紋章が掛けられている。けれど、南の金波灯台の紋章には煤が付き、西の赤礁灯台のものはひび割れていた。朝彩を集める場所でありながら、ここ数年、王都へ運び込まれた光の帳簿だけは、いつもきれいすぎた。


 傍聴席のざわめきが途切れた。審問官が木槌を鳴らし、エルシアの名を呼ぶ。


「ベルメル家の彩織士エルシア。王都の朝彩消失について、証言を」


 エルシアは五つの曙硝子を見上げた。白潮灯台から持ってきたもの、そして昨夜、五つの灯台をつないだ術式を通して各地から送られたもの。硝子の内部で、夜明けの色が細い糸のように揺れている。


「私は、朝彩が消えたのではなく、流れを変えられていたと証言します」


 背後の大扉の前で、ラゼル・オルドがゆっくり立ち上がった。朝彩院の長官は黒い礼服の襟を整え、冷たい笑みを浮かべる。


「根拠は、あの布ですか。辺境の灯台で織られた、出所の知れない布を王都の証拠にするとは」


「布は証拠の一つです」


 エルシアは机の上に明日布を広げた。白地に、五色の細い光が走っている。普通なら夜明けの色は布の表面に留まる。だが、この布の糸は途中で向きを変え、王都の印章に似た形へ吸い寄せられていた。


「逆流装置が朝彩を吸い上げたとき、糸の撚りにこの癖が残ります。私には、光の通った道が見える」


 ざわめきが大きくなる。ラゼルは鼻で笑った。


「彩織士の感覚など、審問の証言とは呼べません」


「では、次を」


 ノアが静かに言った。審問官の許しを得て、彼は白潮灯台の整備記録を読み上げる。


「第一の証言は、エルシア・ベルメル。第二は、白潮灯台見習い番ユノ・カイアの記録です」


 ユノは傍聴席の隅から進み出た。少し緊張していたが、両手に抱えた歯車を見せると、声はよく通った。


「これが逆流装置の弁です。海側から朝彩を受けるはずの弁が、王都側へしか開かないよう削られていました。しかも、削り跡を隠すために古い部品を重ねてある。私が見つけたとき、白潮の集光炉は空っぽだった」


「君は見習いだろう。機械の改造を誰に教わった?」


「船大工組合の親方です」


 ユノはまっすぐラゼルを見た。


「それでも、弁の向きくらい分かります。分からないふりをしていた人が、王都には多かっただけです」


 傍聴席から、抑えきれない笑いが漏れた。ラゼルの頬がわずかに引きつる。


 第三の証言者として、マルタ・フェインが呼ばれた。彼女は審問台に置かれた航路灯の破片を指で弾いた。


「私は港町の船大工組合を預かっています。朝彩が届かなくなってから、夜の海で迷う船が増えた。修理に使う明日布も足りず、漁師が自分の帆を切って灯りにしたこともあります」


「それは天候の問題では?」


「天候なら、同じ月に五つの港で、同じ色の明日布が足りなくなるはずはないでしょう」


 マルタは破片の裏側を示した。そこには、王都へ送る荷箱だけに付けられる朝彩院の封蝋が残っている。


「この封蝋の荷は、王都へ着く前に中身が減っていた。港の者は皆、見ていました。怖くて言えなかっただけです」


 第四の証言は、五つの灯台から同時に届いた声だった。


 審問堂の中央に並ぶ曙硝子へ、ノアが手を触れる。冬紋が淡く青白く浮かび、硝子の奥で、いくつもの声が重なった。


『東の灯台では、朝彩の受け渡し量が記録より少なかった』


『南では、集めた光が海ではなく陸へ引かれた』


『西では、逆流の音を聞いた番人が交代させられた』


『北では、閉鎖命令が届く前から炉を止められていた』


 最後に、白潮灯台のユノの声が重なる。


『五つの灯台は、ひとつずつ壊れたんじゃない。ひとつにまとめて、息を止められた』


 声が消えたあと、堂内は水を打ったように静かになった。


 ラゼルは懐から一枚の命令書を取り出した。


「第五の証言を、私から申し上げましょう。王都は朝彩を独占することで、国全体を守ろうとした。辺境の灯台が勝手に光を配れば、航路も農地も混乱する。私は秩序のために命令したのです」


「命令したことは、認めるのですね」


 ノアの問いに、ラゼルは一瞬だけ黙った。


「認めます。だが、逆流装置など知らない。王都に光を集めたのは、王国を守るためだ」


「では、これを説明してください」


 エルシアは五枚の記録紙を並べた。各灯台から王都へ送られた量、そのうち朝彩院が受領した量、そして実際に王都で配分された量。三つの数字の間に、毎月同じ空白がある。


「集めた光の一部は、配分されていません。朝彩院の地下にある、名前のない貯蔵庫へ消えています」


「推測だ」


「いいえ」


 エルシアは最後の硝子を持ち上げた。そこから、かすれた男の声が流れた。


『弁を閉じろ。余った朝彩は、王冠の下へ。五灯の契約はもう古い』


 ラゼルの顔から色が失せた。曙硝子に残った声は、彼自身のものだった。


 審問官が立ち上がり、場内の役人へ命じる。


「朝彩院の地下貯蔵庫をただちに封鎖せよ。記録と装置を押収する」


 その言葉を聞いた瞬間、五つの硝子が同時に明るくなった。王都の窓へ、細い朝の色が差し込む。けれど光は一か所に集まらず、五つの方向へ分かれていった。


 エルシアの隣で、ノアが息を吐く。冬紋の青さが、まだ彼の指先に残っていた。


「これで、真実は届いたでしょうか」


「届いた。だが、まだ終わりではない」


 彼は硝子の底を見つめた。そこには、誰も聞き取れなかった古い音が、雪の結晶のように沈んでいる。


「五つの灯台を結んだものが、王冠より前からあるなら……次は、その約束の正体を確かめる必要がある」


 エルシアはうなずいた。審問堂の外では、長い冬のあとで初めて、王都の鐘が朝の時刻を告げている。


 五つの証言は、ひとつの罪を裁くためだけに響いたのではない。


 奪われた明日を、誰の手にも戻すために響いたのだ。

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