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No.022 言失
『言失』
朝起きると世の中から一つ、言葉が失われていた。
どういうわけか、気づいているのは僕だけのようだった。
何の言葉なのかはわからない。
それでも、失われる前と後では何かが大きく変わっていた。
会社の昼休み、コンビニで買い物をした。
カップラーメン、おにぎり、お茶。
普段と同じ物を買ったはずなのに、しっくりこない。
どこか苛立ちを覚えていた。
困り顔をした人に、駅までの行き方を聞かれた。
通勤で使っている駅だったから、細かく道順を伝えた。
相手は財布を取り出して、僕に百円玉を握らせた。
どこか虚しさを覚えていた。
お年寄りに優先席を譲ろうとした。
「私がいつ頼んだ!この詐欺師!」と罵らられた。
周りの視線から逃げたくなり、途中の駅で電車を降りた。
どこか恐怖を覚えていた。
「大丈夫ですか」
俯いている僕に、誰かが優しい言葉をかけてくれた。
「気分でも悪くしましたか」
顔を上げた僕に、誰かは心にも無い言葉をかけた。
僕はその人に一万円札を握らせた。




