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碧海のユーフォリア  作者: 炎華 焔
1章 現実よりも夢を欲す
9/11

心地のいい人

「灯くらいだよ、ずっと僕の夢に入り続けているのは。ここは僕の気分によって全てが変わる。だから、皆だんだん来なくなるのに、灯だけは欠かさずに来てくれるよね。それって、本当に心地がいいからだけなのかな」

 また、いつものだ。揶揄っているのか、勘違いでもして欲しいのか。

「疲れた」

「え?」

 彼の言葉を遮断して、目を丸くしている青年に自分が出来る最高の笑顔を贈る。

「疲れちゃうの、向こうでは。でもね、kikiの夢は全く疲れない。それどころか、癒される。心地が良いだけじゃないよ。なんて伝えれば良いのか分からないんだけれどね、この時間がとても大切なんだ」

 そう言って、私は彼の顔へ両手を伸ばす。触れるわけじゃない。勝手にしてはいけないと思うから。だから、彼が手を添えるまで掌は永遠に空気だけを感じている。

 それぞれ手の甲を包むように当てられた掌。彼の手に押され、ゆっくりと、指は頬に触れていく。小指が唇の端から、頬をなぞる。私の掌が彼にガイドされながら、皮膚を撫でていく。


 狐のように笑うんだよね、君は。


 こんな事をしているが、私達は決して恋人ではない。友人……いや、親友である事は確かだ。私が親友というのはおこがましいかもしれないが。

 なんといえばいいのか、言語化が難しい。不思議な関係とでも言っておこうか。

 互いに胸の内に抱えているものを話すわけでもない。ここでは好きな話をして、たまに向こうで起きた話でもして、子供みたいに水遊びをしてみたり、海に浮かんでみたりする。

 ここでの体験を共有してく内に、話を重ねる内に、少しずつ、お互いを知っていく。その度に、彼に触れてみたいと思った。

 でも、恋人になりたい訳ではなくて。この手で触れたら、もっと、もっと彼を知れる気がして、その心まで、踏み込んでみたくなってしまうだけ。

 独占したとも、唇を重ねたいとも、思わない。


 ただ、隣に居たいだけ。


「そっか。灯がそんな風に思っていてくれて嬉しいよ、毎日来ている甲斐があるというものだ」

「ふふっ」

 そうして、一言二言と交わしてから、彼は私の隣を陣取った。

 足を組んで、膝を台にして頬杖をつく。まるでモデルのようなポーズを取って、首を傾げるとこちらをジッと見つめてきた。

「そんなに見て、面白い?」

 聞くと、また狐みたいに笑って言うのだ。

「面白い、というよりは、可愛い、かな?」

 流石の私でも、こんな言葉をするりとかわせるはずもなく。かつてないほど顔に熱が集まっているのを感じる。

「……ばっ!」

「どうしたの? 灯」

 顔を覗き込んでくるkiki。何故だろう、恥ずかしくて彼の顔を見る事が出来ない。何か、他の話題は無いだろうかと、足元に視線を落とす。

「そういえば、こんなに深いのは久しぶりだね」

「そうだね、灯と出会った時もこれくらい深かった気がする。懐かしいね」

 微笑みを向けられ、また、言葉に詰まった。

 これは、恋じゃない、恋じゃない筈なのに、胸の高まりが収まる事は無かった。

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