心地のいい人
「灯くらいだよ、ずっと僕の夢に入り続けているのは。ここは僕の気分によって全てが変わる。だから、皆だんだん来なくなるのに、灯だけは欠かさずに来てくれるよね。それって、本当に心地がいいからだけなのかな」
また、いつものだ。揶揄っているのか、勘違いでもして欲しいのか。
「疲れた」
「え?」
彼の言葉を遮断して、目を丸くしている青年に自分が出来る最高の笑顔を贈る。
「疲れちゃうの、向こうでは。でもね、kikiの夢は全く疲れない。それどころか、癒される。心地が良いだけじゃないよ。なんて伝えれば良いのか分からないんだけれどね、この時間がとても大切なんだ」
そう言って、私は彼の顔へ両手を伸ばす。触れるわけじゃない。勝手にしてはいけないと思うから。だから、彼が手を添えるまで掌は永遠に空気だけを感じている。
それぞれ手の甲を包むように当てられた掌。彼の手に押され、ゆっくりと、指は頬に触れていく。小指が唇の端から、頬をなぞる。私の掌が彼にガイドされながら、皮膚を撫でていく。
狐のように笑うんだよね、君は。
こんな事をしているが、私達は決して恋人ではない。友人……いや、親友である事は確かだ。私が親友というのはおこがましいかもしれないが。
なんといえばいいのか、言語化が難しい。不思議な関係とでも言っておこうか。
互いに胸の内に抱えているものを話すわけでもない。ここでは好きな話をして、たまに向こうで起きた話でもして、子供みたいに水遊びをしてみたり、海に浮かんでみたりする。
ここでの体験を共有してく内に、話を重ねる内に、少しずつ、お互いを知っていく。その度に、彼に触れてみたいと思った。
でも、恋人になりたい訳ではなくて。この手で触れたら、もっと、もっと彼を知れる気がして、その心まで、踏み込んでみたくなってしまうだけ。
独占したとも、唇を重ねたいとも、思わない。
ただ、隣に居たいだけ。
「そっか。灯がそんな風に思っていてくれて嬉しいよ、毎日来ている甲斐があるというものだ」
「ふふっ」
そうして、一言二言と交わしてから、彼は私の隣を陣取った。
足を組んで、膝を台にして頬杖をつく。まるでモデルのようなポーズを取って、首を傾げるとこちらをジッと見つめてきた。
「そんなに見て、面白い?」
聞くと、また狐みたいに笑って言うのだ。
「面白い、というよりは、可愛い、かな?」
流石の私でも、こんな言葉をするりとかわせるはずもなく。かつてないほど顔に熱が集まっているのを感じる。
「……ばっ!」
「どうしたの? 灯」
顔を覗き込んでくるkiki。何故だろう、恥ずかしくて彼の顔を見る事が出来ない。何か、他の話題は無いだろうかと、足元に視線を落とす。
「そういえば、こんなに深いのは久しぶりだね」
「そうだね、灯と出会った時もこれくらい深かった気がする。懐かしいね」
微笑みを向けられ、また、言葉に詰まった。
これは、恋じゃない、恋じゃない筈なのに、胸の高まりが収まる事は無かった。




