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碧海のユーフォリア  作者: 炎華 焔
1章 現実よりも夢を欲す
6/11

私は空気

「ねぇ、知ってる? 今日さ、ユーフォリアクラウドでやるらしいよ」

「え? なんかあるの?」

 右側から女子の話が聞こえてきて、関係ないと思いながらも耳に入ってきてしまうのだからしょうがないと聞いていた。

「カ・ノ・ン!」

「歌手の?」

「そうそう!」

 甲高い声が教室中に響く。私と同じように話が聞こえてしまったクラスメイト達もひそひそと話題に上がっている歌手のことを話し始める。


 カノン。もう会いに行けない人。

 ギアを返してもらってから、何度も何度も【鏡下都市】へ入ろうとした。でも、その度に約束を破った私と会いたくないんじゃないかと、怒ってもう関わり合いたくないと思っているんじゃないかと、もう私のことなんて忘れてしまったのではないだろうかと思ってしまって、会いに行く事が出来なかった。

 でも、これで良かったんだ。だって、今も交流があったら、『彼女の友人だ』なんて自慢していたかもしれないから。

 こんなの、言い訳にしかならないけれど。


「でもさ、またいつもみたいに限定ライブなんでしょ?」

 不満げな声。それもそうか、カノンはユーフォリアクラウドがサービスを開始して数年、突如現れた性別不詳の歌手とされている。

 ネットではその声の高さと歌唱力の高さから『歌姫カノン』と呼ばれている。高い身長と美貌から中身は女性と噂されており、女子高生の憧れとしても有名だ。

 最初に会った時から少女だと思っていたし、カノンは性別を隠しているけど隠す意味があるのだろうか。ユーフォリアクラウドでは声を偽る事はできないのだから。

「いやいや、今回は違うんだって! メン限じゃないから、誰でもは入れるらしいよ!」

「マジで!? 絶対見に行こー!」

 キャッキャ、キャッキャと振り切れたテンションのまま話し続ける彼女達。対する私はというと、視線の先にある木目を見ては、吐き出そうになる溜息を飲み込んでいた。

 誰でも入れる……か。私はどうなんだろう。

 それにしても最近のユーフォリアクラウドはSNSと変わらない宣伝ツール、又は配信サービスに成り下がってしまった。

 乾き始めている目をゆっくりと閉じた。


 確かにカノンの歌声はいくら聞いたって飽きやしない。でも、こちらと変わらない人混みの中で、マイクを通して聞こえる彼女の歌を聴くのは、嫌だ。

 これは私の一方的な思い。きっと彼女達にとっては、こちらと変わらなくても楽しいものなのだろう。


「ねぇ、どうする? 朱莉も……誘う?」

 恐る恐る問うような声に、顔を上げて結構ですと言ってやろうかとも思ったが、今までの話を盗み聞きしていたことが露呈してしまう。大人しく狸寝入りを続けよう。

「えっ、いいよ、いいよ。だってほら、教室だといつも寝てるしさ、ほら、今も」

 きっと、服札そうな顔と嫌気が差している顔が並んでいるんだろうなぁ。わざとらしく寝息を立てる。

「でも……」

「えー、だってさ、私達が話しかけてあげてもいっつも、反応薄いじゃん?」

「それはそうだけど、ハブってるみたいとか、思われないかなぁ」

 へぇ。そういう認識、あったんだ。薄目を開けてシミュラクラ現象が起こっている木目をまたじっと見る。

「別に大丈夫じゃん? だってさ~、話してても興味無さげって言うかさぁ~、ぶっちゃけこっちと話す気ゼロって言うかさぁ~」

「それはまぁ……めっちゃ分かるけど」

「でしょ~?」

 あはは~と流すような笑い声も続き、それがまた、よく教室に響いた。

 なんとなく気分が害された。

 確かに、私は彼女達が興味を示すもの、ラブブだとかテミンだとかには全く惹かれない。音楽は様々なものを聞くが、特定のジャンルが好きかといわれるとそうでもなくて。例えるなら、雷に打たれたような衝撃を感じた曲に惹かれているだけ。

 それが時には洋楽のロックで、邦楽のR&Bで、ボーカロイドというだけだ。話がそれてしまったけれど、とどのつまり話が合わないのだ。

 興味が無いように映るのは当たり前だ。その通りなのだから。

 それにしたって、寝ているとはいえ普通本人が同じ教室に居るのに声に出して話すだろうか。私が実は起きていたなんて状況でも傷ついて構わないと思っているのだろう。本当に、最近の高校生というのは怖いものだ。まぁ、私も最近の高校生なわけだが。

 せめて、裏でこそこそとやって欲しいものだ。表で言われた方が良いなんて、強メンタル私にはないし、知らない方が落ち込まないで済むから。

 それに、私だって彼女達のことが好きなわけじゃない。クラスメイトだから話すのであって、別に友達ではないのだから。下唇を噛み、瞳から零れそうになる水を必死に塞き止める。

 結局起きる場面を逃した私は、チャイムが鳴るまで狸寝入りを決め込んでいた。

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