歌姫
どこまでも広がる美しい青空と鏡の床が広がるワタシの夢。
足元の鏡に触れれば、浅草の街並みに似た妖しい雰囲気の都市が現れる。あれから一部も変わる事のない、心の中を映したような二面性のある世界。
みんなが見る表はキレイで、誰にも見せない裏は複雑で人を寄せ付けない。
あぁ、こんなだから彼女は来なくなってしまったのかな。見透かされてしまったのかな。ワタシの醜い裏側が伝わってしまったのだろうか。目の奥がじんわりと熱くなる。
「はぁ……」
泣いちゃダメだ。泣くのは、彼女がまた会ってくれた時まで取っておかないと。
彼女と会えなくなってから2年近くも経つなんて、時が過ぎるのはなんて早いのだろう。
ライトアップされたステージ袖、過去を想い続けて観客の中に彼女を探す。
今日も、居ないんだね……。
もうワタシのことなんて忘れてしまったかもしれないけれど、まだ待っているよ、灯。
あの時、伝えたかったことはもう言えないけど。今は別の言葉を貴女に送りたい。『まだ大好きだよ。貴女のこと忘れたことなんてないよ』って。叶わない願いばかりを増やしていく。
「カノン~!」
「歌を聴かせて、カノン!」
「愛してるぞ~歌姫~!」
1人だった観客はいつの間にか10人、100人と増えていき、今では数万の人がワタシの歌を聴きに夢にやって来る。
目を瞑って、呼吸を整える。
ワタシの歌を楽しみにしてくれている人がこんなにもいる。それだけで満足でしょう? そのはずなのに、求めているのだ。最初の観客を。
「早く、会いに来て……灯」
今や歌姫と呼ばれるワタシの言葉は、流れ始めた音楽によって掻き消されていった。




