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……きっとこれは、夢である。
私はどこまでも続く海の上に立ち。
沈みゆく日の光を左に浴びて。
昇りゆく月の光を右に感じていた。
ツグネは私とは向かい合うように立っている。
お互いに、見たことも無い白い衣服に身を包んでいた。
「――――アイハは覚えている? 私達が初めて会った日のこと」
そう問いかけるツグネの微笑みは、優しい。
……昔のことだから、忘れちゃったよ
「もう。いつもそうね、アイハは。私はちゃんと覚えているわよ」
ツグネが水面に手を下ろし、それを掬い取る。
風が吹き、水が光となって散っていく。
「あの日、アイハは――私を泣かせたんだから」
――――え?
私のその間抜けな声に、ツグネが笑う。
「……幼修舎で、初めて皆が顔を会わせたぐらいの頃」
「結構経っていたのに、いつまでも私だけが人見知りをしていた」
「みんなが仲良くしている中で、私だけがずっと一人で――――」
「よっぽどウジウジしていたんでしょうね」
「アイハはそんな私の手をいきなり引っ張り始めたのよ」
――――そんな乱暴なことしたっけ?
「子供のときのアイハはそんな感じだったわ」
「むりやり私を仲間に入れて、なんだかぎゃあぎゃあと喋りかけて……」
「でも、ずっと私に構ってくれて、最初は怖かったけど、すごく嬉しかった」
「私のことを、初めて友達だって言ってくれたのも、アイハだった」
「まぁ、それも覚えてないんでしょうけどね」
ツグネが苦笑する。
「簡単なものよね。でも私にとっては――」
「それが始まりで、全てのきっかけ」
夕の赤と夜の黒が入り混じる空の下。
ツグネが両腕を翼のように広げて世界を見上げる。
「――――私は、アイハが好き」
言の葉の波紋。
「大好きなアイハとずっと一緒にいたい」
「大好きなアイハを守りたい」
「それだけ」
「たったそれだけのために、今まで生きてきた」
「それが私の――――生きる意味だったから」
ツグネが、私を見つめる。
真っ直ぐに、真っ直ぐに、綺麗な瞳で、見つめてくる。
「だから私、アイハを最後に守ることができて、本当に嬉しかった」
「だけど、私も他人のこと言えないわよね」
「アイハにあれだけ『自分勝手だ』なんて言ったのに、結局私も、自分を大事になんてしてなかったんだもの」
どこか、辛そうに口にするツグネに、私は――
――――私だって、ツグネが好きだ。
当たり前のことを言った。
……きょとんとするツグネ。
――――だから、お互い様だよ。
――――ずっとそうだったんだ。
――――だって私達は。
――――親友だから。
我ながら、呆れるぐらい単純な言い方だ。
でもそれのおかげで、またツグネが笑ってくれた。
それだけで私はすごく嬉しい。
とても、幸福になれる。
「……ありがとう」
「あと、ごめんね」
「私、アイハが私のことで悲しんでくれたのが、嬉しかったの」
――――何でそんな。当たり前じゃないか。悲しかったに決まっているよ」
ツグネが、当たり前じゃないよと小さく呟いて。
――世界が、唐突に裂け始める。
空に、流星が満ち始める。
私達の終わりが近づいているのがわかる。
「もう、限界みたい」
――――待って、ツグネ。
――――まだ私、ツグネに何も。
「ううん。そんなことない。アイハは私に大切なものをいっぱいくれたよ」
――――ツグネ!
「アイハ――」
私はね。
私の意志で。
こうなることを選んだの。
大好きなあなたの未来を望んだの。
ハヅミが、カオンさんの仇を討つことを望んだように。
藍雪組のみんなが、あなたについていくことを決めたように。
カオンさんが、私達に死を賭して全てを教えてくれたように。
誰も後悔なんてしていない。
誰も恨んでなんかいない。
だからアイハ。
あなたは、後悔なんかしないで。
あなたが決めた、選んだ、その未来を。
私はずっとずっと見守っているから。
あなたの力であり続けるから。
だから、泣かないで。
「――ツグネ」
「私、ツグネの歌が」
「ツグネの笑顔が」
「ツグネが、大好きだから」
「ずっとずっと、ツグネは、私の友達だから――――」
うん。
私も。
ずっとずっと。
アイハの友達だよ。
ずっと。ずっと。
アイハが、大好きだよ。




