↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔優等生と天使ギャル ~不器用と狡猾な二人とSNSジャンキーなボク~  作者: 黒船雷光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/41

8話:データベースと生身の熱量

「ご意見番(アドバイザー)」という名の危険な中立地帯に足を踏み入れたオレは、翌日からの本格的な活動に向け、自室で入念な「事前セッティング」を開始していた。


 オレの武器は、ネットという大海(ワールド・リソース)から吸い上げた膨大なデータだ。


 高校の生徒会運営におけるトラブル事例、過去の文化祭で起きた炎上や衝突のケース、効果的な集客動員ライン、予算配分の対立パターン——。

 ネット上の掲示板、Q&Aサイト、過去のログからあらゆる事例を自動情報抽出(スクレイピング)し、頭の中とローカルデータに「トラブル解決データベース」を構築していく。


「よし……これで生徒会側(天宮)からの『規律・予算・手続き』の相談にも、実行委員会(サキ)側からの『集客・映え・トレンド』の相談にも、検索数秒で最適解を出せる」

 ネットの中に存在する事例の組み合わせなら、オレに解決できない問題はない。画面の向こうの数字とテキストをコネコネしている時間だけが、オレに『全能感』を与えてくれた。


 ◇


 そして迎えた翌日の放課後。


「一ノ瀬さん、生徒会が提案する『パンフレットの事前デジタル化案』ですが、一部の部活から『紙で配るべきだ』と反発が出ていまして……」


「悠! カフェの衣装なんだけど、校則の『スカート丈の基準』にギリ引っかかりそうって先生に言われちゃってさ。なんとか抜け道ない!?」


 早速、生徒会室の隣にある小さな会議室(通称・中立地帯)で、天宮さんとサキから同時に相談が持ち込まれた。


 オレは落ち着いた動作でノートPCを開き、構築したデータベースを叩く。


「天宮さん。その反発は『紙の風情』の問題じゃなく、単に部活紹介の掲載枠が減るのを懸念してるだけだ。過去の他校の事例だと、PDF化と同時に『特設Webサイトでの全部分紹介枠』を用意して、動画も載せられるって提案すれば9割は納得する」


「……なるほど。権益の補填ですわね。すぐその仕様で修正案を作成させますわ」


「サキ。校則の文言は『登下校時および通常授業時の着用』と指定されてる。文化祭の出し物衣装は『舞台装飾・劇中衣装』の分類に該当するから、生徒会経由で『特別申請書』を一枚通せば合法的にOKになる。類似ケースの申請フォーマット、もうサキのスマホに送った」


「えっ、マジ!? 悠すごすぎ! 一瞬で解決しちゃったんだけど!」


 オレが提示するデータと対策案を元に、二人は即座に動き出す。


 天宮さんは持ち前のカリスマ性とロジックで生徒会役員たちを鮮やかに指揮し、反対派を速やかに論破・納得させていく。


 サキは抜群の行動力とコミュニケーション能力でギャル仲間や他クラスを巻き込み、瞬く間に実行委員会を一つにまとめていく。


 その光景を、オレは会議室の隅で息をのんで見つめていた。


(……すごいな……)


 オレが渡したのは、単なる「過去の数字」と「他人の知恵」に過ぎない。それを泥臭く人前に持ち出し、頭を下げ、声を張り上げ、時に戦って「リアルな現実」を動かしているのは、紛れもなく彼女たち自身だ。


 ネットの知識を振りかざして高揚していた自分が、なんだか急にちっぽけに見えてくる。


 ネット空間に依存し、画面の向こうから安全に高みの見物を決め込み、自分自身では何一つリスクを取らず、何一つ決断してこなかったオレ。


 対して彼女たちは、どれだけネットで噂されようが、自分の足で立ち、自分自身の地位と未来を必死で構築している。

(オレのこの『立ち位置』って……ただの逃げなんじゃないか……?)

 一瞬、胸の奥を刺すような小さな疑問と疎外感が広がった。


 ——だが。


「あー! 今日の分の相談終わり! 悠、約束通り放課後の後半はあたしの時間ね!」


「ちょっと待ちなさい黒木さん。こちらの書類確認がまだ三割残っていますわ。一ノ瀬さん、どうぞこちらへ」


 感慨に浸る間など、彼女たちは一秒たりとも与えてくれなかった。


「ちょっと天宮さんズルい! 三割くらいオマケしなよ!」


「規律は厳守するものです。……さあ一ノ瀬さん、私の隣へ。……ふふ、今日もお疲れ様ですの撫で撫で、して差し上げましょうか?」


「あーっ! ドS優等生がまた変な職権乱用してる! 悠、こっち! あたしの膝枕エリア空いてるから!」


 左右から容赦なく伸ばされる手。押し寄せる甘い香りと、物理的な圧迫感。


(あ……ダメだ!! 思考がまとまらん!!)


 リアルとネットの違いについて深く考察しようとしていたオレの脳みそは、二大ヒロインの容赦ない至近距離アタックによって、再びあっけなく強制終了(フリーズ)させられるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。