33話:大阪の沈黙と、新幹線の爆弾
修学旅行2日目。舞台は京都から大阪へと移った。
私たちは定番である大阪城の天守閣を見上げ、そのあとは道頓堀へと繰り出し、グリコの看板の下で写真を撮り、粉もんの食い倒れ文化を一通り満喫した。スケジュールはそつなく、何事もなく平和に消化されていった。
だが——昨夜の古賀崎先生の叱咤がそれぞれの心に重く影を落としていた。
「相手を出し抜くこと」が目的になっていなかったか。それぞれの行動の原点を問われた三人は、終始どこか気まずく、おとなしく並んで歩くだけの観光となっていた。
悠はといえば、脳内スレッドでこれまでの経緯と昨夜のホテルでの修羅場をフル回転で分析し続けていた。
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【最終検証】二人のヒロインとの関係性についての総括
1:【冷静のオレ】(青ネーム:論理担当)
昨夜の古賀崎の説教は正論の極みだ。サキも天宮も、「悠が好き」というより「相手に負けたくない」という意地が勝っていた。
2:【熱血のオレ】(赤ネーム:本能担当)
いやいや! だとしてもあんな浴衣姿で迫られたら男として揺らぐだろ!?
3:【中立のオレ】(緑ネーム:オブザーバー担当)
揺らいだところで、ここで結論を出せば二人のマウント合戦の「勝者のトロフィー」にされて終わりだ。かといって、このまま中立を貫くだけではいつまで経っても関係は平行線のまま……。
4:【冷静のオレ】
[結]……結論が出ない。どう転んでも地獄しか見えないぞ、このアルゴリズム。
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答えが出ないままモヤモヤを抱えた三人組を乗せた新幹線は、東京へ向けて加速していく。
車内は、行きとは打って変わって不気味なほどの沈黙に包まれていた。
そんな異様な空気を察知したのは、斜め前の席に陣取る「あの二人」だった。
「ねえ、一ノ瀬さんたちさ……」
志摩瑠璃が神原の肩にコテンと頭を預けながら、不思議そうな顔で振り返ってきた。
「昨日からずっと三人して静かすぎない? 修学旅行の最終日だぜ? 結局、この二人の間で何かしらの進展はあったわけ?」
「「……っ!?」」
サキと天宮さんの肩がビクリと跳ねる。
「よ、余計なお世話よ志摩! 別に何も……その、あれよ!」と顔を真っ赤にしてごまかすサキに対し、天宮さんも扇子で顔を隠しながら目を泳がせた。
「ふーん? 私たちはさ、これまで公園で手をつないだだけだったけど、そこからさらに絆が深まってさぁ……」
神原が眼鏡のフチをクイッと持ち上げ、どこか得意げに微笑む。
「僕たちはすでに、【次のステージ】に進んだわけですが……君たちはどうなんですか?」
「「次のステージ……だと……!?」」
サキと天宮さんの警戒レーダーが最高値まで跳ね上がる。
「ちょっ、お前らまさか……手をつないだだけで満足しないで、さらに何かしたわけ!? 腕組んだとか、まさかキスしたとかじゃないだろうな!?」
サキが詰め寄ると、志摩と神原は顔を真っ赤にして、しかしどこか誇らしげに目を合わせ合った。
「え、あ、まあ……その……昨日の夜、ホテルの部屋のベランダで……その……【初キッス】くらい、したけど……?」
「「——はっ!?」」
車両全体の空気が一瞬で凍りついた。
手をつないだだけで大騒ぎしていたはずの「元・刺客」の二人が、いつの間にか決定的な一線を越えていたという衝撃の事実。
サキと天宮さんは目を見開き、あまりの先越されっぷりに絶句し、数秒の硬直ののち——沸騰したヤカンのように頭から湯気を吹き出した。
「なっ……なんだってぇぇぇーーっ!!?」
「私たちがあんなに不毛なマウント合戦で足踏みをしている間に、貴方たちがそんな大偉業を……っ!!」
あまりのショックと悔しさに、サキと天宮さんが叫び声を上げ、今にも暴走して立ち上がりそうになったその瞬間——。
通路の向こうから、冷徹な低音がスッと差し込まれた。
「――おい。新幹線の車内で大声を出している不穏分子は、また職員室送りにするぞ」
通路を巡回していた古賀崎先生の鋭い視線が突き刺さる。
先生の圧力でどうにか暴走を押し留められたものの、サキと天宮さんの瞳には、先ほどまでの反省の色など完全に吹き飛び、すさまじいまでの「闘争心(リベンジの炎)」が再点火していた。
(……やばい、自分たちより後から付き合い始めた連中に先を越されたことで、二人の負けず嫌いに火がついてしまった……!)
隣で殺気をみなぎらせるヒロイン二人を横目に、悠は自分の脳内スレッドの電源をそっと切り、再び遠い目をして天井を見上げるのだった。




