29話:古都の定番スポットと、挟み撃ちの感想戦
新幹線を降り立った私たちは、クラス単位での団体行動として、京都の定番観光スポットを巡っていた。
最初に訪れたのは、世界遺産・清水寺。
秋の気配を帯びた青空の下、眼下に広がる京都の街並みと、豪快な音を立てて流れ落ちる音羽の滝の周辺は、多くの修学旅行生や観光客でごった返していた。
「——見てください、一ノ瀬さん!」
天宮さんは手元のガイドブック(特製・完全自作の京都文化財解説ノート)をパッと開き、輝くような笑顔を向けた。
「清水寺の本堂は、釘を一本も使わない『懸造り(かけづくり)』という伝統構法で作られています。平安時代の建築思想において、この崖にせり出した舞台は観音浄土を模したものでして——」
流れるような早口で、歴史的背景や建築様式を完璧なロジックで解説していく天宮さん。さすが学年トップのインテリ、知識の密度が段違いだ。
一方、その隣でサキは、売店に並ぶ可愛らしいお土産や食べ歩きのメニューに目をキラキラさせていた。
「いや、歴史とか難しいことはいいからさ! あ、でもアレだ。ほら悠、『清水の舞台から飛び降りる』って言うじゃん……ありゃムリゲーだよな……あっ!あそこの抹茶ソフトクリーム、超おいしそうじゃない!? あとで絶対食べようよ! あ、でもみたらし団子も捨てがたい……!」
理屈よりも直感と感覚で、だけど少しばかり気を使いつつで満喫しているサキ。
——そして、その二人の間に完璧に挟み撃ちにされているのが、他ならぬオレだった。
「……で、悠はどう思うの? どっちの景色が気になるとかある?」
「一ノ瀬さん、私の解説と先ほどの歴史的背景を踏まえた上で、この舞台からの景色の感想を論理的にお聞かせ願えますか?」
(……どっちの感想を言っても、片方を蔑ろにした判定を下されかねない地雷原じゃないか……っ!?まさに、失敗したら清水の舞台から飛び降りる案件?!)
冷や汗をダラダラと流しながら言葉に詰まっていると、少し離れた場所から、もう一組の視線が飛んできた。
「おい神原、あそこの一ノ瀬、めちゃくちゃ困ってるぞ」
「ふっ……相変わらず両手に花ですね、一ノ瀬くんは。でも、あそこまで板挟みだと少し同情してしまいますが」
「ま、あたしたちはウチらで楽しもうぜ!」
志摩と神原は、まるで二人だけの世界を作るかのように肩を並べ、土産物屋の木彫りの小物を楽しそうに見比べながらキャッキャとイチャついている。周囲の喧騒を完全にシャットアウトしたそのラブラブっぷりは、もはや観光名所の一つと言っていいレベルだった。
「お前ら、少しはこっちのピンチも手伝えよ……!」と心の中で涙を流すオレ。
続いて訪れた東寺の五重塔、そしてまばゆい黄金の輝きを放つ金閣寺でも、構図は全く同じだった。
金閣寺の池のほとりに立ち、水面に映る逆さ金閣を眺めながら——。
「素晴らしい……! あの金箔の輝きは室町幕府の権力の象徴でありながら、極楽浄土を現世に具現化しようとした足利義満の美意識の結晶ですわ!」(天宮さん、熱弁中)
「うわぁ、めっちゃ金色じゃん! すげぇ眩しい! 写真撮ろ写真! 悠、こっち入って!」(サキ、腕を掴んで引き寄せる)
「おい神原、これでお互いの写真撮るぞ。はいチーズ!」(志摩と神原、自撮りでイチャイチャ)
知識とロジックで古都を味わい尽くす天宮さんと、五感とテンションで全力ではしゃぐサキ。その両側から感想を求められ、オレは完全に処理落ち寸前のCPU状態になっていた。
(……頼むから、これ以上の観光スポットでオレのHPを削らないでくれ……!)
京都の歴史的ロマンに浸るどころか、別の意味で冷や汗が止まらない、波乱の修学旅行初日ドタバタ観光はまだまだ続くのだった。




