27話:車内の冷やかしと、修学旅行の危険な予感
新幹線が新横浜駅を発車し、心地よい走行音を響かせながら京都へと走り出す。
幸い乗り遅れるようなヘマをしでかす輩はおらず、クラス単位で決まった座席について行く。
窓側の席に座るオレの斜め向かいでは、同じ班の志摩瑠璃と神原智樹が仲良く並んで座っていた。神原が買ったお菓子を志摩が「あーん」してもらうという、見ているこっちが恥ずかしくなるイチャコラぶりを発揮している。
「しかし、一ノ瀬さんもやりますね」
神原はニヤニヤと悪戯っぽく笑いながら、オレの左右を陣取る天宮さんとサキにチラリと視線を投げた。
「うちの学年トップの二人の美女を両手に花の状態ですからね。さすが『ご意見番』様は目の付け所が違います」
「なっ……! 何を言ってるのよ神原!」
「そ、そうですわよ! 私たちが一ノ瀬さんと一緒にいるのは、あくまでオブザーバーとしての活動を補佐するためであって……!」
サキと天宮さんが同時に真っ赤になって否定する。
「私たちはね、これから段階を踏んで互いの理解を深めていくの。あなたたちみたいに最初から馴れ合ったりはしないの!」
天宮さんが勝ち誇ったようにそう言い放つと、志摩は「へぇ〜?」と面白そうにニヤリと笑った。
「そうか? でもさ、私たちみたいに『一線を越える』と、一気に距離縮まるぜ?」
「……っ!?」「はぁ?!」
その言葉に、天宮さんとサキの動きがピタリと止まった。
サキはゴクリと喉を鳴らし、天宮さんは扇子を握りしめたまま、じっと志摩と神原を見据える。
「ちょ、ちょっと志摩……? その『一線を越えた』って、具体的にどこまで進んだわけ……?」
サキの目が血走っている……特攻服を着ていなくても修羅モードに入っている気がする。
「え? いや、それはその……行くところまで、というか……」
神原までが耳まで真っ赤にして俯き、志摩も「うっ……!」と言葉を詰まらせてモジモジと体をよじらせた。
「お互い合意の上でしたし……僕も志摩さんの肌の熱を直接感じて……」
「ちょ、ちょっと神原!あんただって緊張して汗かいてて……あんなに熱くなって」
「そ、それを今言うかな……僕だって男だ。女性の柔肌に振れれば熱くだって」
(ま、待て待て待て、お前らそんなキャラじゃなかっただろ!?)
当事者たちのあまりに生々しい反応に、オレの背筋に冷や汗が走る。
だが、その「言い淀む姿」が、恋愛経験値ゼロに近い二人のヒロインの妄想を凄まじい勢いで刺激してしまった。
「な、なんだと……!? 行くところまでって……まさか、お前たち、休日に二人きりで……いや、そんなバカな……っ!」
サキは頭を抱え、顔を茹で上がったタコのように真っ赤にしてパニックを起こす。
「あの、直接は聞きづらいですけれど……! 神原さん、貴方という紳士がまさか破廉恥な真似を……!? でも、あの時あんなに熱っぽく見つめ合っていたということは……もしや……っ!」
天宮さんも扇子で顔を隠しつつ、覗き見るような目で二人をジロジロと観察し始めた。
追い詰められた志摩さんと神原は「直接肌を重ねることの尊さを……」とか言い出した。
「「なんなのよ、お前らもしかして——ッ!!」」
根掘り葉掘り聞き出そうと、二人が一斉に志摩たちに詰め寄る。
(やばい、このままだと修学旅行の車内でとんでもない尋問が始まる……!というか、周りのみんなの耳がダンボになってる!)
冷や汗を拭いながら止めようとした瞬間、通路の向こうから低く冷徹な声が響いた。
「——お前たち、新幹線の車内で何の破廉恥な尋問会を開いているんだ?」
「ひっ……!?」
通路側に立っていたのは、見回りをしていた引率の古賀崎先生だった。メガネの奥の目が冷たく光っている。
「一ノ瀬を取り囲んでキャッキャ騒いでいるだけでなく、他人の恋愛事情まで詮索するとは……。車内で風紀を乱す不穏分子を発見次第、即座に修学旅行の参加資格を剥奪して『職員室送り』にするぞ」
「「「「……すみませんでした!!」」」」




